SAPの標準機能で予算原価を立案する限界と解決策(vol.106)

  • 公開日:2024.01.09

製造業のSAPユーザの中には、製品別の予算原価立案精度や期中の着地予想立案精度に課題感を持たれている企業も多いのではないでしょうか?
予算精度を向上させるためには、本来は製品別の実際原価計算と予算原価計算のロジックを整合させるべきですが、SAP ERP*の製品別に実際原価を計算する機能である「品目元帳」に対応する予算原価立案の仕組みは存在しません。

そこで本ブログ記事では、製造業のSAPユーザは、一般的にどのように製品別の予算原価を立案しているのかをご紹介のうえ、一般的な予算原価立案手法の限界や予算精度を向上させるための解決策を解説します。

*本ブログの「SAP ERP」は、「SAP ERP」および「SAP S/4HANA」を指します。

1章:SAPユーザの一般的な製品別予算原価の立案方法とは?

SAP ERPには、原価センタ別の予算原価を立案する機能は存在するものの、製品別の予算原価を立案する機能は存在しません。そのため、SAP ERPの幾つかの標準機能を組み合わせた製品別予算原価の立案方式を採用されるSAPユーザを多く見受けます。

SAP ERPの標準機能を組み合わせて製品別の予算原価を立案する方法(手順)

  1. 原価センタ別の計画活動時間の算出
  2. 原価センタ別の労務費、製造経費等の経費予算の算出
  3. 計画活動単価(標準賃率)の算出
  4. 標準原価シミュレーションによる品目別標準原価算出
  5. 売上原価予算の算出

SAP ERPの標準機能を組み合わせて製品別の予算原価を立案する方法について、順を追って解説します。

  1. 原価センタ別の計画活動時間の算出
    予算立案期間の原価センタ別の計画活動時間の算出を行います。SAP ERPのシミュレーションMRPを活用し自動算出する方法と、SAP ERP外でExcel等を用い、マニュアル算出する方法とがあります。
    SAP ERPのシミュレーションMRPを活用する場合は、予算立案期間の製品別の生産計画をインプットにMRP計算を行います。その結果、計画手配・能力所要量データが生成されるので、原価センタ別に計画活動時間の集計を行います。
  2. 原価センタ別の労務費、製造経費等の経費予算の算出
    予算立案期間の原価センタ別の労務費、製造経費等の経費予算の算出を行います。SAP ERPのCOモジュールの原価センタ間の計画配賦機能を活用し自動算出する方法と、SAP ERP外でExcel等を用いマニュアル算出する方法があります。
    SAP ERPのCOモジュールの計画配賦機能を活用する場合は、予算立案期間の経費予算の間接部門から直接製造部門への配賦を行い、直接製造部門の原価要素別経費予算を算出します。
  3. 計画活動単価(標準賃率)の算出
    上記の1と2の結果より、計画活動単価(標準賃率)の算出を行います。原価センタ×原価要素別に『経費予算』÷『計画活動時間』で『計画活動単価』の算出を行います。
  4. 標準原価シミュレーションによる品目別標準原価算出
    上記の3で算出した『計画活動単価』をマスタ設定し、SAP ERPの標準原価シミュレーションを実行することで、BOMに基づく標準原価の積上計算を行います。その結果、製品別の単位数量当たりの標準原価が算出されます。
  5. 売上原価予算の算出
    上記の4で算出した製品別の単位数量当たりの標準原価に予算立案期間の販売予定数量を掛け合わせることで、製品別の売上原価予算を算出します。

2章:SAP ERPの標準機能で製品別予算原価を立案する限界とは?

次に、前章で述べたSAP ERPの標準機能を組み合わせて製品別の予算原価を立案する方法の限界に関して解説します。

在庫を加味して、予算原価を算出することが出来ない

実際原価計算では、期初の在庫を考慮し原価計算を実施するのに対し、1章の予算原価の計算方法では、予算立案期間のスタート時点の在庫を加味して計算することはできません。
なぜならば、標準原価シミュレーションは、BOMに基づき原価の積上げ計算を単純に行う機能であり、そこに期初在庫を加味することができないためです。
仮に、実績として予算通りの数量で各製品を製造した場合でも、製品別原価の予実対比を行うと、予算原価で在庫を加味できていない分、予実差が発生してしまいます。

製造リードタイムを加味して、予算原価を算出することが出来ない

製品の完成月がN月である場合、その製品を作り始める時期(複数工程を経て製品が出来上がる場合は最初の工程のスタート月)はN月であるとは限りません。N-1月や、N-2月であったりすることがあるかと思います。ところが、1章記載の標準原価シミュレーションは、製造リードタイムの考えがなく、製品の完成月と同月に製品を作り始める前提での計算が行われます。その為、月により異なる計画活動単価(標準賃率)を設定する場合(例えば、N-2月=@100、N-1月=@110、N月=@120)は、それを加味した予算原価計算はできず、この例の場合は、全てN月の@120で計算されます。

月による工場の操業度の違いを反映することが出来ない

実際原価計算では操業度が低い月は賃率や製造間接費レートは高く算出され、逆に操業度が高い月は賃率や製造間接費レートは低く算出されます。それに対して、標準原価の改定頻度が年次ベースの場合、予算原価上の賃率や製造間接費レートは年間で一定値となります。
季節によって生産する時期が大きく偏る製品を製造しているSAPユーザ企業等においては、賃率や製造間接費レートの予実のブレが大きく出てしまうという問題が発生します。

その他の問題点としては、MRPシミュレーションと標準原価シミュレーションの両方で、マスタとして各々BOMを利用しますが、各々のシミュレーションで使用するBOMの整合性を図ることが運用上難しいという話や、標準原価シミュレーションで積上げた原価の計算根拠を照会画面より紐解くのが難しいという話を、よく耳にします。

標準原価の限界と品目別実際原価の必要性とは?
~ SAPユーザが品目別実際原価を実現する方法を徹底解説! ~

3章:SAP ERPと原価計算パッケージを組み合わせて予算原価を立案するメリットとは?

弊社が推奨する解決策は、SAP ERPの標準機能と市販の品目別実際原価計算パッケージを組み合わせることです。具体的には、1章で述べた『1. 原価センタ別の計画活動時間の算出』と『2. 原価センタ別の労務費、製造経費等の経費予算の算出』は、そのままSAP ERPの標準機能または外部システムを活用し、『3. 計画活動単価(標準賃率)の算出』以降を、市販の品目別実際原価計算パッケージを適用するという方法です。
下図を用いながら、順を追って解説します。

  1. 生産計画より予定の受払や予定工数の算出
    1章の記載内容と基本的に同じですが、1章の場合は、原価センタ別の計画活動時間の算出を目的としていたのに対して、ここでは、予定の受払データや予定工数の算出を目的としています。
    SAP ERPのシミュレーションMRPを活用する場合は、SAP側のオペレーションは1章と変わりません。
  2. 原価センタ別の労務費、製造経費等の経費予算の算出
    1章の記載内容と同じです。
  3. 品目別実際原価計算
    上記1の処理結果として、予定の受払データ(製造出来高予定、製造子品目消費予定、購買予定、外注予定)や予定活動時間を、品目別実際原価計算パッケージへインターフェースします。また、上記2の処理結果として、原価センタ別の労務費・製造経費予算や販管費予算を、品目別実際原価計算パッケージへインターフェースします。
    インターフェースされたトランザクションデータを元に、品目別実際原価の計算ロジックを活用し、品目別予算売上原価を算出します。

上記解決策を採用することで、まずは前章で述べた問題を全て解決可能です。
更には、品目別実際原価計算パッケージを、品目別予算原価計算とともに品目別実際原価計算としても利用することで、予算原価と実際原価の計算ロジックの整合性を担保できます。
すなわち、下表のように、インプットするトランザクションデータを予算原価と実際原価で替えるのみで、原価計算エンジンを共通利用します。
原価計算ロジックが予算と実際とで整合しているため、予算原価と実際原価の比較や、実績が予算未達の場合の原因調査等を、効率的・効果的に行うことができます。

既に、品目別実際原価の仕組みとして、SAP品目元帳を利用中のSAPユーザは、品目元帳と計算ロジックが類似している品目別実際原価計算パッケージの予算原価での適用を検討することをオススメします。

まとめ

ここまで、SAPユーザの一般的な製品別予算原価の立案方法とこの手法の限界と解決策を解説してきました。

SAP ERPには、品目元帳(=品目別実際原価機能)と整合した品目別予算原価の仕組みは存在しません。その為、多くのSAPユーザは、1章に述べたSAP ERPの標準機能を組み合わせて品目別予算原価を計算しています。しかし、その手法は、在庫やリードタイムの加味等で限界があり、品目別実際原価計算との整合性で問題を抱えます。
3章で述べたようなSAP標準機能と品目別実際原価計算パッケージとの組み合わせが、予算立案精度や期中の着地予想立案精度を上げるうえで最適解だと考えております。

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以下のページに、製品コンセプトを1分で解説したアニメーション動画や詳細な製品説明動画を掲載しております。ご興味がございましたら、是非、ご覧ください。
https://erp.dentsusoken.co.jp/solution/adisight-acs/

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