RISE with SAP とは? ~オンプレ版との違い・メリット・移行方法をわかりやすく解説~(vol.90)
- 公開日:
- 最終更新日:
SAP社は、インテリジェントで持続可能な企業(=高度なテクノロジーとベストプラクティスを組み込んだ俊敏な統合ビジネスプロセスを最大限に活用する企業)である「Intelligent Sustainable Enterprise」の実現に向け、プラットフォームからアプリケーションまで包括的に提供するRISE with SAPの利用を推奨しています。
本ブログ記事では、RISE with SAPとは一体どういったものなのか、RISE with SAPに含まれるソリューションやエディションの違いを解説します。また、オンプレミス版のSAP S/4HANAライセンスとの違いや、RISE with SAPの採用により享受できるメリット、SAP ECC6.0からRISE with SAPへの移行方法についても解説します。
目次
RISE with SAPに含まれるソリューションやエディションの違いとは?
RISE with SAPは、SAP S/4HANA Cloudを中核とした様々なSAPソリューションを包括的に提供するクラウドサービスです。
RISE with SAPに含まれるソリューション/サービスとは?
RISE with SAPに含まれるソリューションは、次の図の通りです。
コアとなるSaaS型ERPシステムとしては、「SAP S/4HANA Cloud」が提供されます。
この「SAP S/4HANA Cloud」には、アプリケーションやデータベースだけでなく、インフラストラクチャや運用(マネージド)サービスも含まれています。
また、現在すでにSAP ECC6.0を利用中のユーザ向けに、SAP S/4HANAへの移行ツールも提供されます。
加えて、他の業務システムと連携したり標準機能の不足を補うための基盤となる「Business Technology Platform(BTP)」や、様々なパートナー企業と連携するためのビジネスネットワークサービス、SAP学習コンテンツ(SAP Learning Hub)なども提供されます。
RISE with SAPのエディションの違いとは?
RISE with SAPには、次の2種類のエディションがあります。これは、コアとなるSaaS型ERPシステムである「SAP S/4HANA Cloud」自体に2種類のエディション(public/private)が存在するためです。
- RISE with SAP(public edition)
RISE with SAP(public edition)は、もしSAP ECC6.0をご利用中の場合、蓄積された明細データは持ち込むことが出来ません。また、パブリック型=他社と共有されたインフラであるため、日本企業においては小規模なグローバル拠点へ導入したという事例をよく見ます。
※ライセンスの正式名称は「RISE with SAP S/4HANA Cloud」ですが、本ブログ記事においては便宜上「RISE with SAP(public edition)」と記載します。 - RISE with SAP(private edition)
RISE with SAP(private edition)は、SAP ECC6.0から移行する場合、「過年度データや現用アドオンを継続利用する」ことが可能なコンバージョン方式による移行が可能です。
※ライセンスの正式名称は「RISE with SAP S/4HANA Cloud, private edition」ですが、本ブログ記事においては便宜上「RISE with SAP(private edition)」と記載します。
※private editionは、「PCE」(Private Cloud Editionの略)と呼称・表記されることもあります。
各エディションによる違いは次の図の通りです。
*SAP S/4HANA Cloudについてやそもそもの母体であるSAP S/4HANAの特徴は、こちらのブログ記事をご覧ください。
RISE with SAPとオンプレミス版の違いとは?
さて、RISE with SAPのpublic editionとprivate editionの違いはご理解いただけたかと思いますが、SAP S/4HANAのオンプレミス版との違いはどうでしょうか?
RISE with SAPとSAP S/4HANA(オンプレミス版)の違いは多岐に渡りますが、ここでは大きく3点に絞って解説します。
- RISE with SAPでは、SAPインフラの提供やBasis運用はSAP社がおこなう
これまでSAPインフラとしてパブリック型のクラウドサービス(AWS/Microsoft Azure/GCP など)を利用している場合、その運用はユーザ企業(もしくはユーザ企業が外部委託したベンダー)に委ねられていました。
ところがRISE with SAPの場合、SAPインフラ自体の提供に加え、その運用もSAP社が対応することになります。
※SR(Service Request)をSAP社に申請し、リクエストが承認された後、SAP社による作業が行われます。作業範囲や責任詳細は、「Role & Responsibilities(通称R&R)」をご確認ください。 - RISE with SAPとオンプレミス版では、SAPライセンスの考え方が異なる
オンプレミス版のSAP S/4HANAライセンスは、登録(ネームド)ユーザーライセンスとして、開発ユーザー/業務ユーザーごとに買い切りで利用しなければなりません。そのため、オンプレミス版ライセンスは部分解約ができず、購入時は適切なライセンス種別/数量を利用できていても、時間経過とともにライセンス種別/数量が実態にそぐわない状況が発生するケースがあります。
一方、RISE with SAP(に含まれるSAP S/4HANA Cloud)のライセンスは、「FUE(Full Usage Equivalent)」というSAP社独自のカウント方式を採用しており、サブスクリプション形式で利用するライセンスとなります。
FUEは、ご契約期間中いつでもユーザータイプの割り当て変更が可能な柔軟なモデルとなっており、また、ご契約の更新時にはFUE数の見直しが可能です。これはつまり、事業変化へ柔軟に対応が可能なライセンス形態であることを意味します。
※FUEのカウント方法は、こちら までお問い合わせください。 - RISE with SAPには、SAP S/4HANAのバージョンアップ作業費用が含まれている
オンプレミス版のSAP S/4HANAユーザーによっては、新しいサポートパッケージの適用やメジャーバージョンアップは、要員都合や費用/期間の課題から前向きに捉えられないケースが散見されました。しかし、RISE with SAPでは、サブスクリプションライセンス費用の中にバージョンアップ作業の費用が含まれています。
「RISE with SAP(private edition)」の場合、SAP S/4HANA 2022までのメインストリームサポート期間は5年、SAP S/4HANA 2023以降のメインストリームサポート期間は7年となっており、メインストリームサポート終了までの期間内でSAP社にバージョンアップ作業を依頼することが可能となります。
※ただし、標準アプリケーション領域はSAP社の責任範囲においてバージョンアップ作業を実施可能ですが、個別開発をしているアドオンプログラムに必要な改修/テスト作業はユーザーの責任範囲であるということにはご留意ください。
SAP S/4HANA や RISE with SAP って、正直何ができるの?
~ “変わる良さ” と “変わらない安心” を徹底分析!! ~
RISE with SAPのメリットとは?
インフラ/Basis運用やバージョンアップ作業がサービスに含まれていることは前述の通りですが、その他にもRISE with SAPを採用した場合に享受できるメリットがあります。
RISE with SAPのメリット
- 専任部門によるセキュリティ対策の実施&第三者によるセキュリティテストの実施
- ハードウェア/OS/DBの最適な組み合わせを考慮した運用
- バージョンアップ時における最新のダウンタイム短縮手法「nZDM」の適用
(nZDMとは、near-Zero Downtime Maintenanceの略で、SAP S/4HANAバージョンアップの際に活用できるダウンタイム短縮手法のこと) - Process Discovery、SAP Process Insightsといったプロセス改善支援の活用
- SAP Business Network Starter Packに含まれる各種SaaSのお試し利用権
これらのメリットを享受することで、RISE with SAPユーザーは、インフラ/Basis運用の負担から解放され、より先進的な業務改革/システム改善のための投資に集中することが可能となります。
ここまで、RISE with SAPについてご理解いただけたかと思います。
次章では、SAP ECC6.0から既存の資産を引き継ぐことが可能なコンバージョン方式による「RISE with SAP(private edition)」への移行方法について解説します。
RISE with SAP(private edition)への移行方法とは?
既存SAP ECC6.0のデータを、どのように「RISE with SAP(private edition)」へ持ち込み、コンバージョン方式で移行を進めていくのでしょうか?
まず覚えておくべき重要なポイントとして、「RISE with SAPのOS/DBは、ユーザーやベンダーには解放されていない(=ユーザーやベンダーはアクセスできない)」ということが挙げられます。
そこで、既存SAP ECC6.0環境の状況が重要となります。
次の前提を満たしている場合は、既存SAP ECC6.0環境から「RISE with SAP(private edition)」環境へ直接の移行が可能です。
<前提条件>
- 既存SAP ECC6.0環境のデータベースがユニコード化されていること
- ReadinessCheckが完了していること
- SAP Noteに記載の最低要件/最大要件を満たしていること
(要件はターゲットバージョンによって変動しますが、例えば、ターゲットバージョンがSAP S/4HANA2020 FPS1であれば、最低要件はSAP Note 2943206、最大要件はSAP Note 3015516に記載されている内容となります)
上記の前提条件を満たしていない場合、中間機であるMigrationServerを用意し、そこに既存SAP ECC6.0のデータを移し替える必要があります。このMigrationServerのOS/DBはユーザーへ解放されているため、ここでコンバージョン作業を進めていく事となります。
- コンバージョン作業
SIチェックエラー解消やSUMといった、オンプレミス版のSAP S/4HANA移行と同様の工程を実施する必要があります。途中、SPDD/SPAUというモデフィケーション調整も必要です。 - コンバージョン作業完了後
無事にコンバージョン作業が完了した後は、SAP社による事後作業(本番稼働用の監視やパスワード変更、マネージドサービス用のアドオンコンポーネントのインストールなど)の実施が必要となります。SAP社による事後作業の完了をもって、SAP社が管理しなければならないシステムとして取り扱われ、エンドユーザーへの開放が可能となります。
まとめ
RISE with SAPは「Intelligent Sustainable Enterprise」への道標であり、今お使いのSAP ERPを効率的にSAP S/4HANAに移行し、「Intelligent Sustainable Enterprise」を実現するための第一歩である とSAP社は標榜しています。
RISE with SAPはサブスクリプション型のライセンス形態であり、オンプレミス版と違って、契約期間中のユーザータイプの割り当て変更や、契約更新時には数量の見直しが可能となります。また、バージョンアップ費用も含まれており、その他にも享受できるメリットは数多く存在します。
クリアしなくてはならない前提条件はあるものの、既存SAP ECC6.0から「RISE with SAP(private edition)」への直接移行も可能です。
今後、SAP社はRISE with SAPへ更なる投資をしていく=享受できるメリットが増えることが想定されますので、SAP S/4HANAへの移行をご検討中の皆さまは、是非、選択肢の一つに加えて頂くことをお勧めいたします。
「自社の環境がRISE with SAPへ移行できるのか?」 「移行費用はいくら位かかるのか?」 「プロジェクトスケジュールはどの程度なのか?」とお悩みの場合は、是非、電通総研へお声掛けいただけますと幸いです。
https://erp.dentsusoken.com/inquiry/
*本記事は、2023年1月10日時点の情報を基に作成しています。
製品・サービスに関する詳しいお問い合わせは、こちらからお問い合わせください。