SAP Fiori とは?(vol.59)

  • 公開日:2022.01.10

SAP S/4HANAで新たに提供されるようになった機能やサービスは複数あり、その中には使用することが不可欠な機能/サービスも含まれています。SAP GUIに変わる新たなユーザーインターフェース(以下、UI):SAP Fioriもそのひとつです。

本ブログでは、このSAP Fioriについて、設定方法やよく利用されるタイルなどを解説します。

SAP Fiori とは?

SAP ERP Central Component(以下、ECC)からSAP S/4HANAへの移行を検討するうえで、新機能/サービスを利用するかの判断が必要となります。使用することが不可欠な新機能の中に、SAP Fioriがあります。

SAP Fioriは、優れたユーザーエクスペリエンス(以下、UX)を備えた、SAP S/4HANAに実装可能なアプリケーションを作成できる設計システムのことです。主な用途としては、ECCで利用していたSAP GUIに変わる新たなUI環境を構築することです。具体例としては、伝票を入力したり、レポートを出力したりする環境などが挙げられます。
SAP Fiori 設計ガイドラインや設計ツールを活用することにより、SAP S/4HANAやSAP以外のソフトウェアソリューションと連携可能な独自のアプリケーションを比較的容易に構築したり、カスタマイズできるようになります。

SAP FioriはWebアプリケーションのため、Webブラウザで利用できます。基本的にはアプリケーションサーバ経由でクライアントPCやスマートフォン/タブレット端末で操作可能です。以前まではクライアントPCごとにSAP GUIをインストールする必要がありましたが、今後は専用アプリケーションをインストールせずとも、クライアントPC以外からでも、Webブラウザで利用できます。そのため、どのデバイスでも動作するシンプルな画面となっています。
また、ブラウザ利用に加え、iOSやAndroid端末や専用のアプリケーション経由での利用が可能になりました。

SAP Fioriの機能を大別すると、以下の4つに分類されます。

  • Transactional Apps:伝票登録/更新/参照をする一般的なアプリケーション
  • Fact Sheets:伝票情報/マスタ情報などを検索/閲覧するアプリケーション
  • Analytical Apps:グラフィカルな円グラフなどを用いた分析用のアプリケーション
  • Smart Business:KPIを分析/評価する際、グラフに閾値を設定できるアプリケーション

上記4機能のうち、Transactional Appsには、既存のトランザクション機能がWeb GUI化されただけの機能と、新たにSAP Fioriとして開発された機能が存在します。今後、Web GUI化されただけの機能は、順次、SAP Fioriとして開発した機能に置き換えられていく模様です。

SAP Fioriの設定方法とは?

SAP Fioriの設定手順は以下の通りです。

<SAP Fiori 設定手順>

  1. BWクライアントの設定
  2. Fiori Launchpadの設定
  3. 利用したいSAP Fioriの機能=「タイル」を選択
  4. SAP Fioriの有効化
  5. ユーザの権限ロールを編集
  6. Fiori Launchpad Designerで表示するタイルを編集(並び順なども編集可)

SAP Fioriを利用するには、まず、SAP S/4HANAにおいて、BW クライアントの設定と、Fiori Launchpadの設定が必要となります。

BWクライアント設定は、ECCで利用していない場合、別途Embedded BWの設定をする必要があります。BWクライアント設定は、Analytical Appsなどを利用する際、バックグラウンドで利用する機能として重要となります。

Fiori Launchpad設定は、SAP Fioriのタイルと呼ばれる機能群を取りまとめるベースとなる機能です。この機能をインストールし、Fiori Launchpad Designerと呼ばれる編集機能を使用して、定義を設定します。

次に、利用したいSAP Fioriの機能=「タイル」を選択します。
SAP Fioriのタイルは日々増えており、2021年12月現在は、約14,000のタイルが存在しています。その中から、必要なタイルを選んでいく形なります。
タイルの検索方法は、Fiori Libraryと呼ばれるサイトでキーワードを入力して検索します。

必要なタイルが確認できたら、次はSAP Fioriの有効化をします。
SAP Fioriの有効化には、OData Serviceと呼ばれるHTTPを使い、サーバとブラウザでデータをやり取りするためのプロトコルの有効化が必要となります。タイルごとに必要な設定が記載されており、対象データを確認して有効化していきます。

有効化が完了したら、次は利用したいユーザの権限ロールを編集します。権限ロールは、SAPが提供している権限ロールを使用するか、個別にロールを作成のうえ、作成したロールごとに権限を付与するパターンがあります。

最後にFiori Launchpad Designerで表示するタイルをメニューロールのように編集し、必要なタイルの並び順などを編集し完了です。

上記は設定手順ですが、利用手順は以下の通りです。

<SAP Fiori 利用手順>

  1. ログインサイトのURLをWEBブラウザで指定してアクセス
    ※専用アプリケーションから接続する場合、接続先URLを設定可能
    ※一度、環境に接続した後は、使用しているSAPクライアントのID/PWで再接続可能
  2. 利用したいタイルを選択

設定手順は多いですが、基本的にはSAPから提供される手順に従って有効化することで、開発することなく、新機能やレポートを追加できます

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SAP Fioriでよく利用されるタイルとは?

SAP Fioriには、使用することが不可欠なタイルが存在します。そのタイル名は『銀行口座管理』です。SAP S/4HANAでは、取引銀行マスタ(自社の入出金用口座マスタ)の設定はSAP Fiori経由からのみ登録可能なため、このタイルは使用が不可欠となります。
(2021年12月現在は、その他には使用が不可欠なSAP Fioriはありません。)

その他、よく利用されるタイルを、会計領域で3つ、ロジスティクス領域で3つほどご紹介します。

◆会計領域

  • GL転記(Post General Journal Entries)
    機能概要:一般的な伝票登録用機能。1画面でヘッダ、明細、税金明細を入力できる。
    使用理由:ECCではできなかった、1画面でヘッダと明細の入力ができるうえ、ファイル添付なども実施できるため。
  • 買掛金概要(Accounts Payable Overview)
    機能概要:買掛金の年齢表や、対象の請求伝票等がグラフなどで一覧を確認できる。
    使用理由:ECCではグラフ表示は作り込みが必要だったが、Webアプリケーションのため、作り込みなしでダッシュボード形式の一覧確認や個別明細照会が可能なため。
  • 売掛金概要(Accounts Receivable Overview)
    機能概要:売掛金の年齢表や、取引先ごとの軸での売掛金をグラフなどで一覧確認できる。
    使用理由:買掛金同様、ダッシュボード形式で一覧の確認や個別明細照会が可能なため。

◆ロジスティクス領域

  • 品目マスタ(Product)
    機能概要:品目マスタに関わる情報(品目情報、購入先など)を1機能で確認できる。
    使用理由:複数の情報を別の機能に飛ぶのではなく、タブ移動のみで表示可能なため。
  • 販売管理の概要(Sales Management Overview)
    機能概要:販売状況や売上に関わる情報を1機能で確認できる。
    使用理由:ダッシュボード形式で一覧の確認や個別明細照会が可能なため。
  • 購買管理(Sales Management Overview)
    機能概要:購買状況に関わる情報(品目別購買発注情報など)を1機能で確認できる。
    使用理由:ダッシュボード形式で一覧の確認や個別明細照会が可能なため。

上記が、SAP Fioriでよく利用されるタイルです。各タイルの詳細は、Fiori Libraryでご確認ください。

また、ECCを利用中であれば、SAPが無償提供しているReadiness Check というサービスを利用ことで、現在の利用状況を分析し、推奨のSAP Fioriを洗い出すことができます。必要に応じてご活用ください。

まとめ

SAP Fioriを使用することで、追加開発をせずとも機能拡張が行えるようになります。また、マルチブラウザ/マルチデバイスでSAP S/4HANAを利用できるようになります。その画面構成はシンプルで分かり易く、直感的に操作可能なUIを提供することが可能です。従来のSAP GUIからユーザがシステムを通じて体験するプロセスを想像し直したことで、SAP FioriはUXの改善に寄与するものとなりました。SAP Fioriの機能は少しずつ拡充されており、今後、ますますその有用性は高まっていくものと思います。今後、SAP S/4HANAへの移行をご検討の際は、このSAP Fiori の機能検証も並行して実施いただくと良いでしょう。

電通総研は、Panayaを使用してSAP環境を分析、SAP標準ツールであるReadiness Checkの分析結果とPanaya独自の分析結果を組み合わせ、お客様ごとにSAP Fioriの推奨機能一覧を作成し、その適用可否をご検討いただけます。
また、電通総研は、SAP S/4HANA移行プロジェクトのご支援以外にも、Panayaを利用した高精度・高効率なアセスメント(オブジェクトの棚卸等)を通じて、お客様のSAP S/4HANA移行検討のご支援もしています。SAP 移行をご検討の際は、是非、電通総研までお声掛けください。
 https://erp.dentsusoken.com/solution/sap-s4hana-assessment/