SAP GUIとFioriの違いとは?(vol.91)

  • 公開日:2023.02.27

SAP社の最新ERP製品であるSAP S/4HANA(以降S/4HANAという)からは、従来のSAP GUI(Graphical User Interface)が継続して標準実装される一方で、新しいUI(User Interface)であるFioriも標準実装されるようになりました。

そこで本ブログ記事では初学者向けに、そもそもSAP GUIとは何なのか、新しく登場したFioriとは何なのか、それぞれの特徴や違いについて解説します

そもそもSAPとは?

SAP GUIについて説明する前に、「そもそもSAPとは?」ということについて簡潔に解説します。

ひとえにSAPといっても、大別して二つの意味があります。
それは、企業としてのSAPと、ERPシステムとしてのSAPです。

一般的には、SAP社が提供するERPシステムを指して「SAP」というケースが多いです。
以降、本ブログ記事では、「SAP社が提供するERPシステム」=「SAP」として記述していきます。
*SAPに込められた意味やSAP社が提供するソリューションについては、こちらのブログをご覧ください。

SAP社が提供する最新のERP製品であるSAP S/4HANAは、皆さまにとって馴染み深いSAP ERP Central Component(以降ECCという)の後継製品です。ECCでは、SAP GUIという画面を操作してSAPを利用することが一般的でしたが、S/4HANAからは、SAP GUIのみではなく、Fioriと呼ばれる新しいUIも利用することができるようになりました。
*SAP社提供のERP製品の歴史については、こちらのブログをご覧ください。

次章では、「SAP GUIとは?」という点について解説します。

SAP GUIとは?

SAP GUI(Graphical User Interface)とは、ユーザがコマンドを入力することなくアイコンなどをクリックするだけで、SAPの様々な機能が操作できるようになるソフトウェアコンポーネントのことです。ユーザはSAP GUIを用いることで、簡単に在庫の確認や、経理伝票の登録/照会などをすることができます。SAP GUIの各処理画面にアクセスするには、トランザクションコードと呼ばれる処理ごとのコード(英文字や数字の文字列)を所定の入力欄に入力することで可能になります。

基本的にSAP製品は、SAP社が独自に開発したABAPというプログラミング言語によって構成されています。SAP GUIにおける画面の設計言語も同様にABAPが用いられています。したがって、SAPの拡張や機能の追加にはABAPのスキルを持った技術者が必要となります。

SAP GUIにはユーザの動作環境に応じて以下の3種類あります。

  1. SAP GUI for Windows
    Microsoft Windows環境で動作するSAP GUIです。利用する端末ごとにインストールが必要になります。
  2. SAP GUI for Java
    Java環境で動作し、プラットフォーム非依存のSAP GUIです。利用する端末ごとにインストールが必要になります。
  3. SAP GUI for HTML
    Webブラウザで実行され、ユーザの入力に応じて動的にHTMLページを生成するSAP GUIです。ブラウザが利用できる環境があれば、プラットフォーム非依存かつインストール不要で利用できます。

以上のように3種類のSAP GUIが存在しますが、ユーザが使用する環境に応じてどのSAP GUIを用いるかを選択します。最も一般的なものは、SAP GUI for Windowsです。対して、SAP GUI for HTMLはあまり使用されておらず、代わってS/4HANA からはFioriという新しいUIが登場しています。次章では、このFioriについては解説していきます。

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SAP GUIに代わるFioriとは?

Fioriは、2013年よりSAP社が提供を開始した新しいUIのことで、S/4HANAからは標準で実装されるようになりました
SAP GUIの画面は機能ベースで設計されており、必要機能を次々と追加していった結果、多くの機能にアクセスできる一方で、情報量が多く操作が難しいという特徴がありました。
Fioriは優れたUX(User Experience)に基づいて、ユーザ目線で画面が設計されているため、直感的な操作が可能になります。各処理画面へのアクセスは、タイルと呼ばれるボタン形式でクリックすることにより可能になります。ユーザは各タイルをドラッグして移動したり、グループに集約したりすることができるなど、簡単に画面のカスタマイズをすることもできます。

また、SAP GUIとは異なり、画面の設計言語にはHTML5/JavaScript/CSSといったオープン系の言語が使用されています。前述の通り、SAPはABAPで構成されていますが、Fioriはフロントエンドがオープン系の言語、バックエンドがABAP言語というように、それぞれで使用される言語・プログラムが分離しています。オープン系の言語は、SAPに詳しくない一般的なWebエンジニアでも扱えるため、より多くの技術者がFioriの画面開発に携わることができるようになりました。

その他の特徴として、Fioriはマルチデバイス/マルチブラウザ対応のアプリケーションとなっています。従来のSAP GUIはPCのデスクトップ上からアクセスする必要がありましたが、FioriはPCのみではなくスマートフォンやタブレット等からGoogle ChromeやInternet Explorerなどを用いてアクセスできるため、デバイスやブラウザ、プラットフォームに依存することなく利用できます。
*Fioriの設定方法やよく利用される(使用することが不可欠な)タイルなどは、こちらのブログをご覧ください。

SAP GUIとFioriの違い

ここまでの内容を整理すると、SAP GUIとFioriの違いは、次の表のようになります。

SAP GUI Fiori
画面設計方法 ・機能中心の設計
・利用できる機能は多いが、その分複雑
・ユーザ中心の設計
・直感的な操作が可能
画面設計言語 ・ABAP(SAP独自言語) ・HTML5、JavaScript、CSS(オープン系言語)
各処理画面へのアクセス ・トランザクションコードを入力 ・タイルをクリック
※ユーザ自身でタイルの移動やグループ化などの画面カスタマイズが可能
動作環境 ・デスクトップ上で動作可能 ・マルチデバイス、マルチブラウザで動作可能

現時点では、S/4HANAユーザであっても、ECCから使い慣れたSAP GUIを用いてパソコンからシステムにアクセスしているという方々が多いかと思います。しかし、「“いつでも” “どこからでも” スマートフォンやタブレット等を用いてアクセスできる、ビジュアルなUIのため“直感的に”操作ができる」という特徴を持つFioriによるWebベースのUIが、将来的には主流になっていくのではないかと思います。

まとめ

本ブログでは、SAP GUIとFiori、それぞれの特徴や違いについて解説して参りました。
どちらのUIを業務で活用するかはユーザによって様々です。長年ECCをご利用されていて、SAP GUIの操作に慣れているということであれば、そのままお使いいただくことも手段の一つです。
一方で、S/4HANAへの移行や新規導入を検討中の場合は、Fioriを用いて操作性を高めたり、業務の生産性を向上させるということも、有力な選択肢かと思います。

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