SAP BTPとは? ~機能・特徴・サービスなどをわかりやすく解説~(vol.100)

  • 公開日:2023.08.07
SAP BTP

SAP S/4HANAの活用において、SAP BTPは切っても切り離せない存在となりました。
しかし、SAP BTPの概要は何となく理解しているものの、「BTPって結局、何ができるの?」、「どんな機能やライセンスがあるの?」と疑問を持たれている方もおられるのではないでしょうか?
実際、SAP BTPは機能が多岐にわたり、実態を掴みづらい側面があるのも事実です。

そこで本ブログ記事では、SAP BTPの機能・特徴・サービスなどを、SAP S/4HANA活用の観点から、体系的にわかりやすく解説します。

SAP BTP(Business Technology Platform)とは?

SAP Business Technology Platform(以降、SAP BTPという)は、SAP社が提供しているPaaS型のシステム基盤です。SAP BTPは、アプリケーション開発/自動化/統合(インテグレーション)/データ管理・分析/AIといった複数の機能を、SAPアプリケーション向けに最適化された単一のプラットフォーム上で提供しています。
SAP BTPは、個々のシステムではカバーしきれない、するべきではない共通的・統合的な機能を提供するプラットフォーム(機能群)であるといえます。
*SAP BTPは、SAP製品そのものの拡張を行う基盤ではありません。

SAP BTPのインフラストラクチャの選択肢は、SAP社が提供するものの他、Microsoft Azure、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform(GCP)、Alibaba Cloudが挙げられます。

SAP BTPの前身は、2013年に登場した、SAP HANA Cloud Platform(SCP)が該当します。その後、2017年にSAP Cloud Platform(SAP CP)へ名称変更し、2020年から、現在のSAP Business Technology Platform(BTP)となりました。
SCP、SAP CPの時代は、開発・統合プラットフォームの色合いが強かったのですが、BTPになってからは、「単に技術的なプラットフォームではなく、SAPユーザ企業のビジネスのプラットフォームとしたい」というSAP社の意思を感じられます。SAP Analytics Cloud(SAC)がBTPに統合されたことは、その象徴的なケースだと感じております。

さて、そのようなSAP BTPの機能は、2023年7月1日時点で90を超えます。
*SAP BTPに存在する各機能は、「SAP Discovery Center」から確認することができます。

全機能をご紹介するのは難しいので、本ブログ記事では、SAP BTPの主要な機能を、次の5つに大別して解説します。
1. アプリケーション開発(App Dev)
2. 自動化(Automation)
3. 統合(Integration)
4. データ及び分析(Data and Analytics)
5. 人工知能(AI)

SAP BTP の機能①アプリケーション開発(App Dev)

まずは、最も多い使われ方であるアプリケーション開発の機能について解説します。
アプリケーション開発(や自動化)に関する機能群を「Extension Suite」と言います。
この「Extension Suite」の代表的なサービスとして挙げられるのは、次の通りです。

  • SAP Business Application Studio(BAS)
  • SAP BTP ABAP Environment
  • SAP Build Apps
  • SAP Build Work Zone

*「Extension Suite」には、自動化に関するソリューションも含まれていますが、そちらは次章で解説します。

このうち、アプリケーション開発に関する主要ソリューション2つの違いは次の通りです。

プロコード開発 ローコード/ノーコード開発
ソリューション名称 SAP Business Application Studio (BAS) SAP Build Apps
概要 SAP Business Application Studio (BAS)は、SAPソリューション開発に特化したEclipse TheiaべースのIDEです。 SAP Build Appsは、Full-StackなEnterprise Applicationをゼロコーディングで構築でき、柔軟なWebアプリケーションのUIも作成可能なサービスです。
特徴 ・統合開発環境
・SAP Fioriのテンプレートを保有
・開発者向けツール
・RPAやワークフロー機能を有するローコード/ノーコード開発環境
・業界/業種別テンプレートを保有
・エンドユーザーの使用も想定したツール(直感的な操作性がウリ)

両者は、SAPソリューションに対する機能拡張を実現することを狙いとしておりますが、本格的なアプリケーション開発を行う場合は、「SAP Business Application Studio(BAS)」を活用します。

簡易な開発であれば、ローコード/ノーコード開発に対応した、「SAP Build」を活用します。「SAP Build」は、エンドユーザーが直感的に使用できるデザインとなっており、簡易的なワークフローやRPAを活用することが可能です。

両者に共通して言えることは、「KEEP THE CORE CLEAN」(SAP S/4HANA内では極力開発はしない方針)を実現するための拡張方法である「Side by Side拡張」の手段ということです。

SAP BTP の機能②自動化(Automation)

SAP BTPの自動化に関するソリューションには、「SAP Build Process Automation」や「SAP Intelligent Robotic Process Automation(iRPA)」などが該当します。

  • SAP Build Process Automation
    ワークフローをドラック&ドロップで実装できるプロセス自動化ツールであり、次のような特徴があります。
    ・ビジネスユーザー(市民開発者)によるローコード開発を想定した直感的なUI/UX
    ・高度なワークフローエンジン(ルールエンジン)とプロセスを可視化するダッシュボード
    ・自動化Botとワークフローを組み合わせられる組み込みRPA機能
    ・業種/業務別の事前定義済みテンプレ-トと再利用可能な部品群(ボット/ワークフロー/プロセス/アクション)
    ・開発したアプリやワークフローへ統合的にアクセス可能なポータルと共通の承認依頼Inbox(タスクセンター)
  • SAP Intelligent Robotic Process Automation(iRPA)
    SAP社が提供するRPAソリューションであり、次のような特徴があります。
    ・独自のSAP UIコネクタによるSAPアプリケーションとの統合(SAP S/4HANAとの親和性の高さ)
    ・RPAコアにAI/機械学習技術を連携することによる自動化/自律範囲の拡大
    ・SAPベストプラクティスとして構築済みのRPAボットの提供
    ・業務補助(有人実行)と業務自動化(無人実行)の両方に対応
    *詳細は「SAP RPA 連携ソリューションとは?」をご覧ください。

SAP BTP の機能③統合(Integration)

統合に関する機能群には、「Integration Suite」、「SAP Business Accelerator Hub」、「SAP Master Data Integration」が存在します。

そもそも、統合(連携)には、ビジネスプロセス(ロジック)とデータの2つの観点が存在します。

  1. プロセス連携:複数のアプリケーションを横断してビジネスプロセス(ロジック)を連携
    <主なSAPソリューション>
    ・SAP BTP Integration Suite(Cloud)
    ・SAP Process Orchestration(On-Premise)
  2. データ連携:複数のアプリケーションを横断してデータを同期
    <主なSAPソリューション>
    ・SAP Data Interigence Cloud(Cloud)
    ・SAP HANA SDI/SDA(Cloud/On-Premise)
    ・SAP Data Service(On-Premise)

この内、「Integration Suite」には、SAP周辺システムのデータはもちろん、企業内外に散在するデータ(SAP S/4HANA以外の業務システムやIoTデバイスなどのデータ)をSAP S/4HANAへ統合するためのデータ連携機能が存在します。
*いわゆる、EAI(Enterprise Application Integration)の機能です。

「Integration Suite」には、次のようなサービスが存在します。

  • Cloud Integration
    複数の製品がバンドルされており、様々な統合アプローチによるアプリケーション/データの連携が可能(3,200以上の事前定義済み連携コンテンツや250以上のコネクタを保有しており、“すぐ使える連携”を実現できます。また、事前定義済み連携コンテンツを拡張するのはもちろん、新規に連携コンテンツを作成=アプリケーション間連携のためのプロセスフローの定義・開発も可能です)
  • Open Connectors
    すぐに利用可能な170以上のNon-SAPアプリケーションへのコネクタを保有
  • API Management
    API管理を連携し、ライフサイクル全体の管理をサポート
  • Integration Advisor
    B2B/A2Aの連携シナリオの項目マッピングなどの実装を効率化する機械学習を活用した連携フレームワークを提供
  • Trading Partner Management(TMP)
    取引先の迅速な大量登録とセルフサービスによるオンボード&メンテナンスを実現

例えば、SAP社の製品である、SAP S/4HANA Cloud,public edition(基幹業務システム)、SAP Concur Expense(経費精算システム)、SAP Ariba(調達・購買システム)に対しては、データ連携のための設定・定義がテンプレートとして準備されています。

SAP BTP の機能④データ及び分析(Data and Analytics)

データ管理 及び データ分析に関する主要なソリューションとして、次の2つが挙げられます。

データ管理 データ分析
ソリューション名称 SAP Datasphere SAP Analytics Cloud(SAC)
概要 SAP Datasphereは、データマネジメントとモデリングに必要な機能を提供します。 SAP Analytics Cloud(SAC)は、計画/予測分析/ビジネスインテリジェンス(BI)など、あらゆるアナリティクス機能がひとつになったSAP社のSaaSソリューションです。
特徴 ・クラウド型DWH
・様々なデータの連携/管理を実現
・クラウド型BI
・データ可視化/分析、企業の予算編成/管理、機械学習による予測を実現

次世代のSAP Data Warehouse Cloudである「SAP Datasphere」は、SAP BTPのデータ蓄積/管理を担い、データベース/データウェアハウス&データレイク/データ管理に関する様々な機能を保有しています。
SAPシステム/SAP周辺システム/データレイク など、様々なデータの統合/加工/セマンティック管理が可能です。
*オンプレミスのSAP S/4HANAのデータを連携する場合は、「SAP BW Bridge」という機能が提供されております。

「SAP Analytics Cloud(SAC)」は、SAP BTPのデータ分析を担い、データの可視化(レポート/ダッシュボード出力)や分析、企業の予算編成/管理に関する様々な機能を保有しています。
また、機械学習による予測、例えば、「売上実績から季節変動やサイクル性などを解析し予算編成の参考情報にする……」といったことも可能です。
*詳細は「SAP Analytics Cloud ( SAC ) とは?予測分析をビジネスに活用しよう!」をご覧ください。

SAP BTP の機能⑤人工知能(AI)

人工知能(AI)に関するソリューションとしては、次のようなサービスが存在します。

  • SAP AI Business Services
    ビジネスに関連するデータを事前に学習させたAIモデルを使用して、アプリケーションにインテリジェンスを付加します
  • SAP AI Core
    オープンソースの機械学習フレームワークを利用して、SAP BTP上のAI機能とSAPソリューションとのシームレスな統合を実現します
  • SAP AI Launchpad
    SAP AI Coreなどで作成した複数のAIシナリオのライフサイクル全体を管理できます
  • SAP Conversational AI
    チャットボットを構築/運用するためのプラットフォームです

また、SAP Analytics Cloud(SAC)の予測機能などにも機械学習エンジンが使用されています。
今後、機械学習エンジンを活用した機能の提供が進んでいくもの考えられます。

まとめ

筆者は、長年SAPシステムの導入/運用に携っております。そんな中、昨今は、「Side by Side拡張によるアドオン開発を行い、Core CleanなERPを実現したい」、「SAPシステムとNon-SAPシステムをつなぐインターフェイス(連携)基盤としたい」、「データ分析基盤を作りたい」、「AI・機械学習を業務に活用したい」といったニーズから、SAP BTPの活用が増えていることを実感しております。

今までは、「開発プラットフォームをどうするか」、「周辺システムとの統合をどうするか」、「データ利活用を促進するためデータ基盤をどうするか」といったことを検討する際は、それぞれの課題に応じて複数のプラットフォームを活用せざるを得なかったように感じております。
しかし、SAP BTPの登場により、様々な要件を一つのプラットフォームで満たすことができるようになりました。

皆さまも、SAP S/4HANAの導入/移行をご検討の際は、SAP BTPの活用をご検討されるかと思いますが、本ブログ記事で解説した内容が、ご検討の一助となりましたら幸いです。

弊社は、SAP製品の標準機能では要件に適合しない分野に対して、独自のソリューションを組み合わせることで、高機能なSAP S/4HANAを最大限活用し、且つ+αの付加価値をご提供しております。
もちろん、SAP BTPの機能/サービスを利用したSAP S/4HANAの活用推進もご支援しております。
SAP S/4HANAの導入/移行/運用(活用)でお悩みの際は、是非、お気軽にお声掛けください。

*本記事は、2023年7月1日時点の情報を基に作成しています。
製品・サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。
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