製造業のSAPユーザにとって品目別実際原価が必要な理由とその分析方法とは?(Vol.50)

  • 公開日:2021.11.02

製造業のSAPユーザの皆さまは、自社で製造している品目毎の原価をご存じでしょうか?
その原価は、標準原価 / 実際原価 / 一部標準(例えば、賃率や原材料単価などに標準)を使用した実績原価のいずれでしょうか?

原価計算の手法は、大別すると標準原価と実際原価に分かれますが、弊社では多くの製造業にとって、品目別実際原価の把握が必要ではないかと考えています。
(弊社では品目別標準原価しか把握していないSAP ERPユーザ企業へは、品目別実際原価の積極的な検討を推奨しておりますが、決して品目別標準原価を否定しているわけではありません。品目別標準原価は、速報性があり、操業度や歩留まり率によりブレない原価としてメリットがあり、品目別実際原価と比較する基準にもなる原価なので、品目別標準原価と品目別実際原価の両方を併用することも選択肢の一つとして十分に考えられます)
しかし、SAP ERP*では品目別実際原価を把握することが難しく、標準原価のみで運用しているケースが多々見受けられます。

そこで本ブログでは、製造業のSAPユーザにとって、品目別実際原価の把握がなぜ必要なのか、品目別実際原価にはどのようなメリットがあるのかを解説。加えて、自社で製造している品目毎の実際原価を正確に把握/分析し、その分析結果を原価低減へ向けた活動へ反映するための分析方法についても解説します。

*本ブログの「SAP ERP」は、「SAP ERP」および「SAP S/4HANA」を指します。

製造業のSAPユーザにおける標準原価の限界

PP(生産計画/管理)モジュールを利用しているSAPユーザの場合、一般的には指図別製品原価を利用するかと思いますが、この原価計算方法は、標準原価の記帳方式の一つである「修正パーシャルプラン」となります。
「修正パーシャルプラン」では、材料費勘定や加工費勘定の貸方から仕掛品勘定の借方へは、単価やレートは標準、数量や時間は実際を乗じた金額で記帳されます。さらに、仕掛品が完成する際の出来高が標準原価で記帳されます。

標準原価計算は、実際金額が確定しなくても製品への積上計算(転がし計算)ができる点や、加工費に関しては操業度に左右されない原価を算出できる点でメリットがあります。
一方、仕掛品の出来高が標準原価で記帳される(=原価の製品への積上計算は全工程で標準原価が用いられる)ため、昨今の原材料・燃料価格の高騰や為替の変動、生産性の改善・悪化や不良発生時対応など、実際に要した原価を、製品や半製品レベルの製造原価に反映できない点で限界があります。

弊社はこれまで、標準原価に限界を感じられた多くの製造業のSAPユーザに、原価管理システムの導入を行ってまいりました。その経験から、製造業のSAPユーザにとって品目別実際原価が必要となる理由は、大別すると次の4点になると考えております。
①原価低減を行うため
②販売価格を決定するため
③予実管理を行うため
➃経営判断を行うため

次章より、品目別実際原価の把握が上記4点にどのように寄与するのか、詳しく解説していきます。

製造業のSAPユーザが品目別実際原価を必要とする理由 ①原価低減を行うため

製造業の企業が原価低減を行うには、以下のステップが必要となります。

  1. 実際原価の見える化
  2. (見える化した実際原価から)原価上の課題を発見
  3. (発見した原価上の課題への)対応策を検討し、遂行

これら1~3のステップにおいて、品目別実際原価が必要となります。
なぜ品目別実際原価が必要なのか、まずは、「1. 実際原価の見える化」についてご説明します。以下の表をご覧ください。

  • 【表1】 【表2】は、同一品目を製造するのに要した原価を、標準原価、実際原価で計算した例を比較しています。
  • 【表1】が労務費の例、【表2】が原材料費の例です。
  • 【表1】 【表2】ともに、①が標準通り、②が標準よりも原価減、③が標準よりも原価増のケースを記載しています。

【表1】

【表2】

標準原価の場合、常に標準時間(あるいは標準原材料消費量)を掛け合わせ原価を計算しますので、①②③のケースとも原価は同額になります。一方、実際原価の場合、生産状況(作業効率、原材料ロス等)が原価に反映され、①②③のケース毎に異なる原価を算出できます。

※SAP ERPで指図別原価を利用している場合は、指図別には、作業時間や原材料消費量等を実際値で計算することが可能です。ただし、品目元帳を利用していない限り、原材料⇒中間品⇒製品への積上げ計算は、標準原価で行われます。

原価低減を図るためには、まず、現状の生産状況に応じた原価の見える化が必要条件となります。そのためには、標準原価ではなく実際原価の見える化が必要なのです。

次に、「2.(見える化した実際原価から)原価上の課題を発見」するアプローチを解説します。
原価上の課題を発見するには、単月の品目別実際原価を参照するのみでは難しく、実際原価を何かと比較することで発見が容易になります。

具体的には、
・特定品目の実際原価を時系列に分析する
・特定品目の標準原価/目標原価と、実際原価を比較する
・類似品目間の実際原価を比較する
等で、より原価上の課題は発見し易くなるでしょう。

課題のある品目を特定したのち、原価要素別(原材料費、労務費、製造間接費等)、構成品目別、工程別、指図別等に原価を明細情報に分解し、原因を分析していくことになります。ここでは、品目別よりも更に細かい実際原価情報が必要となります。

最後に、「3.(発見した原価上の課題への)対応策を検討し、遂行」していくことになります。
施した対応策が狙い通りに効いているかを評価するために、品目別実際原価が必要な点は、あえて説明を加えなくても、ご理解いただける部分かと思います。

上述の通り、日々の生産活動の中で原価上の課題が発生していないかを常に監視し、課題があれば対策を施し、結果をモニターする。この一連の業務活動の中で、品目別実際原価は必要となります。

製造業の皆様は、日々の生産活動の一連の業務以外に、定期的にテーマと目標を定めた原価低減活動に取り組んでいらっしゃるかと思いますが、上記1~3に加え、原価低減活動のテーマを選定する際にも、品目別実際原価は役立ちます

【表3】

【表3】を例に説明すると、実際原価(=実際単価×生産数)が最大の中間品Dが品目別実際原価の削減余地が最も大きいことが見えてきます。中間品Dが、様々な製品で使用されている共通の中間品であれば、中間品Dの原価を低減することで、より多くの製品の原価低減につながることが解り、原価低減活動のテーマとして中間品Dを選定します。

さて、今までは品目別実際原価が原価低減目的で効果を発揮できる場面を述べてきましたが、ここからは品目別に実際原価を管理することが有効な原価とそうではない原価がある点を解説します。

原価は、変動費と固定費、また、その中間的な位置づけの準変動費や準固定費に分類されることは、皆様ご存じかと思います。各々、代表的なものとして以下が挙げられます。

<変動費/準変動費/固定費の代表例>

  • 変動費 :原材料費、外注加工費
  • 準変動費・準固定費 :労務費、水道光熱費、修繕費
  • 固定費 :間接部門経費・人件費、工場の賃料

このうち変動費は、品目別に実際原価を集計し、原価低減を管理していくのに適した原価となります。
例えば、製造品毎の原材料費は、
「当該製造品の製造に必要な原材料品目毎の実際投入量」 × 「原材料品目毎の実際単価」
で計算します。前者は特定製造品の製造に使用される原材料品目毎にロス率や歩留まりの管理、後者は原材料品目毎に単価の変動要因の管理といった具合に、品目を切り口に管理するのが相応しい原価です。
また変動費は、特定品目の品目別実際原価を例えば10万円低減することで、会社全体やビジネスユニット単位の実際原価も同額の10万円低減でき、品目別の評価がそのまま全体の評価に直結する特徴もあります。

一方、固定費は、品目別に実際原価を集計し、原価低減を管理していくのに適していない原価となります。
理由は、固定費は、何らかの配賦基準で品目別に配賦することで品目別実際原価を計算しており、特定品目に配賦される固定費を減らしても、会社の固定費総額自体は変わらない為、減らした分、他の品目に多めに配賦されてしまいます。
では固定費は、どのように原価低減を管理すれば良いのでしょうか?
答えは、その固定費が発生している部門毎に管理するのが適した原価となります。

準変動費・準固定費は、どうでしょうか?
SAPユーザで品目別実際原価を計算している企業の多くが、現場作業者の実際作業時間や設備の実際稼働時間に労務費や設備費レートをかけて計算しているものと思います。
「特定品目を製造するための作業者の実際作業時間」 × 「製造部門毎の労務費レート」
「特定品目を製造するための設備の実際稼働時間」 × 「製造部門毎の設備費レート」
上記計算式の前者は製造する品目毎に作業者の作業時間や設備の稼働時間の管理を行うために、変動費同様に品目を切り口に管理するのが相応しい原価と言えます。一方後者は、固定費同様に、品目別というよりも発生部門別に管理して頂いた方が好ましい原価となります。
部門別管理が好ましい後者については、原価低減目的で品目別実際原価を計算する際、実際値ではなく標準値を用いて計算する事例も散見されます。

準変動費・準固定費は、特定品目の品目別実際原価を低減しても、会社全体やビジネスユニット単位の原価に直結しない特徴を持ちます。
例えば、労務費の場合、作業改善で特定品目製造の作業時間短縮を行い、その結果として品目別実際原価を低減できたとしても、作業改善を行った時間分、人を単純に減らせるわけではないため、会社全体やビジネスユニット単位の固定費は変わりません。
時間短縮した分は、別の品目の製造に時間を充てることができて初めて(ただし、顧客より需要が見込めること前提)、会社全体の利益に貢献できます。すなわち、同じ労務費総額でより多くの品目を製造できた成果を得ることができます。

製造業のSAPユーザが品目別実際原価を必要とする理由 ②販売価格を決定するため

皆さんの会社では、新製品の販売価格をどのようにして決めておられますか?
日本の高度経済成長期は、販売価格=原価+希望利益で決定しても市場の拡大と共に製品の売り上げを伸ばすことが可能な時代でしたが、失われた30年ともいわれる現在は、顧客・マーケット起点で、まず販売価格を検討し、販売価格-希望利益=目標原価とする考え方を取り入れないと、売上を伸ばすことが難しい時代となっています。

販売価格の検討で顧客・マーケティング起点の重要性は時代とともに増しつつありますが、実際のところ皆さんの会社で販売価格を考える場合、製造している製品が量産型か個別生産型か、またターゲットとする顧客が一般消費者か企業か等により違いがあるにせよ、以下のような様々な観点を総合し、価格を決定しているかと思います。

  • 顧客は、いくらだと購入してくれるか
  • 競合製品の販売価格は、いくらぐらいか
  • ターゲットを初期採用者に絞った場合、適切な販売価格はいくらか
  • 新製品は、いくらぐらいの原価で製造でき、適切な利益を得るための販売価格はいくらか
  • 新製品の立ち上げ時は赤字でも、量産後は黒字となる価格帯はいくらか
  • 製品自体の販売価格は安く設定し、サービスパーツやアフターサービスで回収するビジネスモデル採用時の製品販売価格はいくらか
  • 顧客より価格の根拠を聞かれた場合、論理的に説明可能な価格はいくらか
  • 自社のブランドイメージが損なわれない価格帯はいくらか ……etc.

企業により何に比重を置き新製品の販売価格を決定するかは異なってきますが、どの企業においても新製品の見積原価は算出するかと思います。マーケットインの観点で価格を検討する際にも、市場に出そうとしている新製品が、顧客の期待する価格で開発・製造できるかを検討する上で、見積原価の算出は必要となるからです。
新製品の見積原価を算出する上で、品目別実際原価は役立ちます。新製品を構成する品目(中間品、部品、原材料等)は、新規に開発する品目と既存品目の流用に大別されますが、後者で品目別実際原価は役立ちます。また、新規に開発する品目も、既存の中に類似品目が存在すれば、類似品目の品目別実際原価が役立つ場面があるかと思います。さらに、製品のライフサイクルの中で、どのように実際原価が変遷していくかを予測する際にも、類似製品の品目別実際原価のコスト変遷が役立ちます。

次に、品目別実際原価は、既存製品の販売価格を見直す際にも有効です。顧客が既存製品に期待する価格も、実際の製造原価も、時間の経過とともに変化していきます。その為、適時販売価格の見直しは必要となります。
あるお客様で、顧客より値下げ要求があったが、製造側が営業側に開示している標準原価では赤字販売となるため、値下げの判断できずに多くの販売機会を逸した事例がありました。後日談で、その当時にきちんと実際原価を計算できていれば、おそらく実際原価ベースでは赤字にはならなかっただろうという話も伺っています。
品目別の原価の実情を知らない状態では、価格設定が高すぎて売れない、低すぎて儲けがでない、といった事態に陥ります

製造業のSAPユーザが品目別実際原価を必要とする理由 ③予実管理を行うため

製造業のSAPユーザの多くは、部門別および品目別(あるいは品目群別)の二つの切り口で、原価・収益の予実管理を行っているかと思います。
このうち、後者の品目別(あるいは品目群別)予実管理を行うために、品目別実際原価が関わってきますが、SAP ERPでは標準原価をベースにしているため、予算と比較する実際に、標準原価を利用されているケースが散見されます。具体的には、売上は実際額、売上原価は販売実績数量 × 標準単価で計算する方法です。

標準原価は、月末の締めを待たずに月中でも計算できる速報性というメリットはありますが、期の途中までは儲かっていると思っていたが、いざ期末に締めた後の数字を見ると儲かっていなかったという精度面のデメリットがあります。これは、期末の締め後に標準原価と実際原価の差異の配賦を行うために生じる問題です。原価差異の配賦は、品目元帳を利用していない限り、個々の品目毎に配賦するというよりも、会社全体や事業毎に、棚卸資産と売上原価に配賦するケースが多いため、期中と期末締め後の金額ギャップは、会社全体や事業毎に比較した結果として生じます。個々の品目の標準原価と実際原価の乖離が大きければ大きいほど、デメリットはより大きくクローズアップされます。

現状、標準原価にて予実管理を行われているSAPユーザ向けに、予実管理の精度を高める方法として、以下の3つがあります。

<予実管理の精度を高める方法>

  1. 予実の実は、標準原価を実際原価におきかえる。
  2. 予実の実は、現状の標準原価の仕組みを残しつつ、期末に品目別実際原価を新たに計算する。
  3. 上記1同様、予実の実は標準原価を実際原価におきかえるが、精度の向上と速報性を両立させるために、一部標準を用いた実績原価計算をおこなう。

1、2については、SAP ERPの品目元帳を導入する、あるいはSAP ERP外で実際原価の仕組みを構築することで対応可能です。

3について補足すると、精度を高めるために基本的には実際値を使った実際原価を目指しますが、速報性も確保するために、期末の締めを待たないと確定しない労務費レートや間接費レート等は標準単価を使用し、それ以外は実際額を用いた計算方法となります。精度向上と速報性を両立できる方法ですが、操業度の予測を誤ると、標準原価と実際原価の原価差異が大きくなります。

製造業のSAPユーザが品目別実際原価を必要とする理由 ④経営判断を行うため

経営判断を行うために品目別実際原価を活用する場面は、企業により様々な場面が想定されます。以下に代表的なケースを3つご紹介いたします。

一つ目は、どの製品の販売に注力するかを検討する際の判断基準として品目別実際原価を利用するケースです。
具体的には、製品毎の限界利益を、【製品毎の売上高】-【製品毎の実際原価(変動費)】で算出し、限界利益額や限界利益率の高い製品をより多く販売できる戦略の検討、あるいは、限界利益率がマイナスの製品に関する事業継続性の判断等での利用です。
企業によっては、工場の能力制約も加味し、注力製品の検討している企業もあります。
例えば、【表4】では、製品1個当たりの限界利益額は製品Mが最大ですが、工場の能力制約を加味した場合、製品Lが最大となります。

【表4】

もちろん、注力する製品の検討は、今後ビジネスとして伸ばしていきたい製品や、限界利益は低くても新規顧客との取引のきっかけになる製品等、多岐にわたる判断基準が個々の企業で存在するかと思いますが、多くの製造業で、限界利益は判断基準の一つとして重要な要素になっています。

二つ目は、製品のラインナップを検討する際の判断基準として品目別実際原価を利用するケースです。
板材を製造・販売している企業を例に説明します。当該企業は、顧客の多様な要求に応えるために、同じ材質/同じ強度の板材を、長さ×幅×厚さが異なる複数の種類用意しているとします。
顧客要求に柔軟に対応するためには、サイズ違いの製品種類数を増やせば増やすほど対応力が増しますが、逆に製造原価はアップします。
例えば【表5】では、製品サイズ「100×30×0.5」と「150×40×0.5」は、小ロット生産を行っている都合上、製品サイズの割に原価高となっており、他の製品サイズに統合できないかを検討するきっかけになります。このようなケースで品目別実際原価は役立ちます。

【表5】

三つ目は、どの製品を、どの地域、どの工場で製造するかを検討する際の判断基準として品目別実際原価を利用するケースです。

最適な製造拠点の検討は、カントリーリスクや自然災害等のリスク、製造品質、原材料調達容易性、輸送費や輸送リードタイム、製造した製品の販売地域等も加味して検討されるかと思いますが、製造業にとり製造原価は重要な判断基準の一つになるはずです。
製造拠点の検討は、新製品の製造開始時のみならず、当該製品のライフサイクルに応じて最適な拠点への移転の検討、各種リスクや生産量の増減を考慮しての工場移転や複数工場での製造、単一工場への集約等、既存製品でも最適な製造拠点の検討は発生します。
この際、現在の製造拠点においていくらで製造できているか、また、移転先の拠点で製造を行った場合の原価を見積もるための参考となる実績情報を移転先工場より収集できるかが、適切な判断を行うために必要です。
ただし、グローバルに製造拠点を展開していたり、製造会社を子会社化している場合は、各国あるいは各子会社間での原価計算方法(人件費、製造経費等の配賦ルールや、各原価要素に含まれる原価の内容等)を統一していないと、比較検討の有効性が低くなるため、原価計算システムや原価計算方法をグループ全社で標準化・共通化することが前提となります。

まとめ(前半)

ここまで、「製造業のSAPユーザにとって品目別実際原価が必要な理由とは?」を解説してきました。

<品目別実際原価が必要な理由>

  • 原価低減を行うため
  • 販売価格を決定するため
  • 予実管理を行うため
  • 経営判断を行うため

次章以降では、皆さまの関心が最も高いであろう“原価低減“にフォーカスし、原価低減に向けた製造業のSAPユーザにおける品目別実際原価の分析方法について解説していきます。

製造業のSAPユーザにおける品目別実際原価の分析方法 ①原価の見える化

上述の通り、品目別実際原価の分析の前に、まず準備として“実際原価の見える化”が必要となります。
見える化の第一歩は、品目別実際原価の原価要素をできる限り細かいメッシュで分類する事です。
まずは、直接費/間接費の観点で分類します。以下は一部例です。

<直接費/間接費の分類(例)>

  • 直接材料費:原材料費、買入部品費
  • 間接材料費:燃料費、工場消耗品費、消耗工具・備品費
  • 直接労務費:賃金 ※直接部門人件費
  • 間接労務費:給与、法定福利費 ※間接部門人件費
  • 直接経費 :外注加工費、原材料や半製品の搬送運賃
  • 間接経費 :減価償却費、修繕費、工場賃料、水道光熱費

注意点として、財務で扱っている勘定科目単位ほどの細かいメッシュで区切ってしまうと、分析データが膨大になり、システムに負荷がかかってしまうことで、逆に分析しづらくなる場合があります。
そのため、雇用保険料や健康保険料をまとめて法定福利費とするなど、分析に最適なメッシュを検討する必要があります。

また、業種/業態によって生産形態は様々なので、ある企業では、
・ 運賃は間接経費にしたい
・ 減価償却費の一部は直接経費にしたい
・ 販売管理費も含めた見える化を行いたい ……など
企業ごとに適切な分類方法は異なってきます。
自社の生産形態を考慮した適切な原価要素の分類が必要となります。

直接費/間接費の分類ができたら、さらに各原価要素を固定費/変動費に分類しておくとよいでしょう。後の固変分析に役立ちます。

<固変分析(例)>

  • 変動費 :原材料費、外注加工費
  • 準変動費・準固定費 :賃金、水道光熱費、修繕費
  • 固定費 :給与、法定福利費、工場賃料

上記で分類した原価要素に対してより詳細な分析を行うには、品目別に累加ではなく、非累加で分析できる原価システムが必要です。

累加と非累加のシステムデータによる見え方の違い

  1. 累加のシステムデータの見え方(例)
    例えば、半製品Yを製造し、製品Zに投入します。
    製品Zを起点としてシステムデータを見た場合、ひとつの原価要素(※下記では原材料費 もしくはSAP設定により前工程費)に纏まってしまい、製品Zの正味の原材料費(\100+\50=\150 )がわかりづらい。

  2. 非累加のシステムデータの見え方(例)
    下位品目のデータを全て原価要素別に保持している為、製品Zの各原価要素別の金額がわかりやすい。

製造業のSAPユーザにおける品目別実際原価の分析方法 ②原材料費

原価の見える化ができたら、いよいよ分析に入っていきます。
具体的な分析方法は以下の通りです。

<原価分析の方法>

  • 特定品目の実際原価を時系列に分析する
  • 特定品目の標準原価/目標原価と、実際原価を比較する
  • 類似品目間の実際原価を比較する

課題のある品目が特定できたら、原価要素別に分析していきます。
管理会計において、コスト分析を行う際は、単価と消費量に分解し(コスト=単価×消費量)、単価/消費量どちらによるコスト上昇か、という視点で分析することが重要です。

また、各原価要素よって原価低減活動を実施する部門は多岐に渡りますので、特定の部門だけではなく、会社全体として取り組む意識が大切です。その為、原価企画部門や経営企画部門などが主体となって行うケースも多いかと思います。各部門が協力しあって、継続的に実施していく事が重要です。

まず、原材料費において「単価」を視点に分析してみます。
購買単価を下げる“という観点からは、以下3つなどが考えられます。

  1. 購買方式の見直し(集中購買や分散購買)・・・購買部門
  2. 購買事務手続きの見直し(期間単価契約など)・・・購買部門
  3. 材料仕様の精査(より安価な代替品の検討、仕様の見直しなど)・・・設計部門

次に、「消費量」を視点に分析してみます。
材料費の消費量を下げる”という観点からは、以下2つなどが考えられます。

  1. 歩留まり率の向上(材料ロス低減)・・・製造、生産管理部門
  2. 構成仕様の精査(過剰機能の精査や部品統合、構成部品品目の削減)・・・設計部門

製造業のSAPユーザにおける品目別実際原価の分析方法 ③労務費

労務費を単価/消費量という観点で分解すると、「労務費=賃率×作業時間」と表す事ができます。

「賃率」を視点に分析してみます。
賃率を下げる”という観点からは、以下3つなどが考えられます。

  1. 単価の低い工場勤務者への仕事のシフト・・・経営、人事部門
    例)ある職場の人員構成を、社員4名+パート2名→社員3名+パート3名にする
  2. 人員配置の適正化・・・経営、人事部門
  3. 外作の内製化・・・製造、生産管理部門
    例)社内の工場勤務メンバにゆとりがあれば、外作を中に取り込めば、賃率の分母(作業時間)を下げる事ができる

作業時間を下げる”という観点からは、以下2つなどが考えられます。

  1. 生産効率の向上(ライン集約化、工法見直しなど)・・・製造、生産管理部門
  2. ムダ時間の削減(段取り時間短縮、待ち時間短縮など)・・・製造、生産管理部門

様々なIE(インダストリアルエンジニアリング)手法を利用し、作業時間を短縮する事が、最も現実的であり、多くの企業が採用している原価低減活動となります。

製造業のSAPユーザにおける品目別実際原価の分析方法 ④経費

経費については、単価/消費量という観点ではなく、経費金額をどう品目に分配するか、つまり配賦基準をどれだけ原価要素の特性に近しいもの設定するかがポイントとなります。

<経費分析(例)>

  • 水道光熱費・・・設備稼働時間で1次配賦し、品目別の作業時間で品目配賦する
  • 減価償却費・・・設備耐用残年数で1次配賦し、品目別の作業時間で品目配賦する
  • 旅費交通費・・・製造部門の人数比率で1次配賦し、品目別の作業時間で品目配賦する

また、外注費や金型の償却費など、どの品目の経費なのか明確にわかる費用については、品目直課することで、正確な実際原価を把握できます。

経費の分析には、各原価要素の配賦基準を確認し、原価要素の特性にあった基準になっているかどうかチェックする事が重要となります。

標準原価の限界と品目別実際原価の必要性とは?
~ SAPユーザが品目別実際原価を実現する方法を徹底解説! ~

まとめ(後半)

ここまで、「製造業のSAPユーザにおける品目別実際原価の分析方法」を解説してきました。

<品目別実際原価分析のポイント>

  • 各原価要素別に、「単価」 「消費量」という軸で分析することで、
    どの部門が主体となって、どのような原価低減活動を実施していくかべきか
    を導き出す事ができるようになる

(上記の原価低減活動はあくまでご参考例となりますので、各企業の業種/業態の特徴にあった低減活動を導き出していただければと思います)

ただし、正確な分析には原価の見える化が必須です。そのためには品目別実際原価の情報を、詳細 かつ わかりやすくデータ分析できる原価管理システムの構築が肝要です。これを機に、原価管理システムの導入/見直しを検討されてみてはいかがでしょうか?

電通総研は、品目別実際原価の見える化ソリューション:ADISIGHT-ACSをご提供しております。
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以下のページに、製品コンセプトを1分で解説したアニメーション動画や詳細な製品説明動画を掲載しております。
ご興味がございましたら、是非、ご覧ください。
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弊社の豊富な経験を踏まえ、皆さまと一緒に最適解を検討させていただければと存じます。