SAPで受注生産に対応するには?(vol.81)

  • 公開日:2022.08.22

製造業にも多数のSAPユーザがいますが、「受注生産」と言われる生産形態へのシステム対応について、どのような対応方法(ソリューション)があるでしょうか?
一口に「受注生産」といっても、その生産形態の中にも各々異なる要素があります。正確に分類することが難しい点もありますが、本ブログでは、次の3種類に大別した上で、それぞれの生産方式に対応可能なSAP S/4HANAにおける対応方法(ソリューション)とその特徴などを解説します

  1. 量産系
  2. コンフィグレーション系
  3. 個別受注生産系

SAPで量産系受注生産に対応するには?

まず1点目は、量産系受注生産への対応について解説します。
量産という概念であれば、受注生産とは相入れない印象を持たれるかと思いますが、同一規格の製品を、受注に基づいてロットで生産する、というイメージを持っていただければと思います。
(この後に記載する「コンフィグレーション系」や「個別受注生産系」は、いずれも顧客仕様に基づき製品の構成が異なるものを生産する形態となりますが、1点目の本方式は、構成が同じものを生産する考え方となります。)

SAP S/4HANAでは、構成は品目BOMという共通のBOMマスタを用いながら、受注の情報を所要として、MRP計算により手配を受注番号別に展開するということが可能です。
システムの設定としては、品目マスタの「個別/包括所要量」や品目BOMマスタの「展開タイプ」に対して行うことで、そのような制御がなされます。
SAP以外のパッケージ製品では、受注番号もしくは製番のようなものをキーとして持たせたBOM構成を、物理的に保持して同等の処理を実現するものもありますが、個別のBOM構成をすべて保持するために、データ量が膨大になってしまうといった課題が起こり得ます。
SAP S/4HANAでは、そのような制約はなく、“共通のBOM構成を利用して、手配に受注番号を付与する”といった運用により、データ量を圧縮できるメリットがあります。
この方法の考え方の延長として、例えば、家電メーカーにおける「生産月」のような運用へも対応が可能です。BOM構成自体は、生産月毎に持たないが、手配の情報を生産月と紐付けて管理するようなイメージとなります。

SAPでコンフィグレーション系受注生産に対応するには?

2点目は、もう少し顧客仕様(個別受注)の要素が強い生産方式への対応方法について、SAP S/4HANAの「バリアントコンフィグレーション」という機能を活用した方法を解説します。
通称「バリコン」と呼ばれるこの機能は、主に次の3種類の情報から成り立ちます。

  1. お客様からの受注仕様を選択するための「特性・特性値」というマスタ
  2. すべての子品目や作業手順を持った「スーパーBOM/スーパータスクリスト」と言われる品目BOM/作業手順
  3. 顧客仕様に基づいたBOM構成や作業手順を選択・抽出する為の「対象依存」と言われる条件式

本ブログで述べる「コンフィグレーション系受注生産」とは、この3種類の情報から、顧客仕様に合わせたBOM構成(受注BOM)を作り出し、受注番号別の手配情報を生成する方式となります。

「対象依存」という条件式は、「if then else」形式のプログラミングのようなものであり、一般的には本機能を運用する上での課題になってくるのですが、この条件式を簡易に作成するようなツールを開発・併用することで、“顧客仕様毎のBOM構成を、人作業による間違いを防ぎながら作れる”といったメリットを享受することができます。
バリアントコンフィグレーション機能を用いて作成される顧客仕様毎のBOM構成は、受注BOMと言われるものになり、受注番号を用いて、手配や在庫が分けられることになります。

さらに、SAP S/4HANAの特徴として、物理的な受注BOMを作成せずとも、受注により選択された「特性・特性値(仕様情報)」と、「対象依存(条件式)」、「スーパーBOM/スーパータスクリスト(品目BOM/作業手順)」の3つの情報を元に、MRP計算の中で論理的に受注BOMを作り出し、手配情報を生成することができます。パソコンのBTO販売をイメージしていただきたいのですが、“顧客仕様を管理しながら、膨大な件数となる仕様毎のBOM構成をすべて作らずに済む“というメリットを享受することができます。この場合のオプションとして、通常は仕様毎のBOM構成を作らないが、何か特別部品を構成に追加した時にのみ、物理的なBOM構成を保存するといった制御を行う事も可能です。

*「バリアントコンフィグレーション」機能について、より詳しく知りたい方は、「SAPバリアントコンフィグレーションとは?」のブログ記事をご覧ください。

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SAPで個別受注生産に対応するには?

3点目は、さらに顧客仕様(個別受注)の度合いが強い生産方式への対応方法です。
SAP S/4HANAでは、プロジェクト/WBS要素という機能を用いて、案件もしくは作業単位の収支や日程計画を管理することが可能です。非製造業でも、幅広く利用されている機能です。本章では、このWBS要素をキーとしたBOM構成を利用する方法を解説します。

産業機械など大型の製品を製造する際に、WBS要素をキーとしたBOM/作業手順を登録してMRP計算することで、そのWBS要素紐づきの手配を生成することが可能です。さらに、製造行為以外の「設計」作業や、プリセールス段階で技術担当者が活動した工数なども集計し、プロジェクト/WBS要素単位に収支や日程計画を確認することが可能です。

より顧客仕様(個別受注)の度合いが強い場合、WBS要素別のBOM構成を登録するのではなく、WBS要素に品目を紐付け、ネットワーク指図という形で指示を出す方法をとることも可能です。
WBS要素別のBOM構成とは直接の関係は無いですが、この機能を利用する場合、プロジェクト/WBS要素の階層をどのように定義するか、どのように収支をみていくか、がポイントとなります。
本方式は、上述の2つの方法と比べ、より大型の製造物に適した方法となります。

まとめ

ここまで、受注生産の3種類のパターンに対するSAP S/4HANAにおけるソリューションを解説して参りました。現実の運用としては、上述の対応方法を組み合わせて利用することも十分に考えられます。
重要な点は、SAP S/4HANAは、お客様の生産形態に応じて、システムやマスタデータの各種設定を変更することにより、柔軟に対応できるシナリオを保持しているということです。
大量生産に近いシナリオとしては1点目の方法をとり、個別受注生産の要素が強いが、仕様をマスタ管理できる状況であれば2点目の方法、個別受注の要素が非常に強い場合は3点目の方法、という考え方になるかと思います。

弊社電通総研は、過去の知見から、お客様のニーズに合わせた最適なシナリオを選別し、ソリューションをご提供できます。SAP S/4HANAの新規導入やSAP ERPからの移行に伴う受注生産の課題解決をご検討の場合は、是非、電通総研までお声掛けください。
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