SAPデータを有効活用し不正の兆候を掴もう!(vol.55)
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会計不正の公表は、毎年、全上場企業の1%程度発生しています。
この数値は、企業が適時開示基準に基づき公表を行った件数、すなわち、投資者の投資判断に重要な影響を与えると企業が判断した件数であり、公表されていない会計不正も含めると、決して他人事とは言えない件数が発生しているものと推察できます。
会計不正は、粉飾決算と着服横領とに大別されますが、いすれも、発見が遅れれば遅れるほど、その損失額は増大していきます。また、不正の発見手段としては、内部・外部問わず圧倒的に通報が多く、能動的に発見できている件数は少ないのが実情です。
そこで、本ブログでは、不正の早期発見や能動的な発見に向け、SAP ERPのデータ(以下、SAPデータという)から発見可能な不正兆候やSAPデータを活用した不正発見アプローチを解説します。
*本ブログの「SAP ERP」は、「SAP ERP」および「SAP S/4HANA」を指します。
SAPデータで発見可能な不正兆候とは
SAP ERPのどのモジュールを使用しているかによりSAPデータで発見可能な不正兆候は変わってきますが、ここでは、FI(財務会計)、CO(管理会計)、SD(販売管理)、MM(在庫/購買管理)モジュールを使用している企業を例に解説します。
企業の会計不正の代表例として以下2つが挙げられます。
- 財務諸表不正(いわゆる粉飾決算)
・ 架空の売上計上による売上の水増し
・ 不適切な資産計上/評価
・ 計上時期の操作
・ 見積項目を使用した費用の繰り延べ
・ 循環取引の実施(支払サイクルの変更)
・ 製品出荷に対する売上未計上 など - 資産の流用(いわゆる横領)
・ 資金横領による隠ぺい工作(ラッピング)
・ 特定の仕入先との癒着、キックバック
・ 在庫を横領して転売
・ バックリベートの私的着服
・ 経費の水増し精算
・ 架空の仕入先、購買発注 など
上記すべての不正兆候例は、SAPデータを用いることで発見可能です。
では、これらを発見するには、具体的にSAPデータをどのように用いて、どのように分析すればよいでのしょうか?
まず、「架空の売上計上による売上の水増し」を対象とした具体的なデータ分析方法を例示します。
- SAP ERPの出荷伝票と請求伝票を比較することで、不整合が無いかを確認する方法
(出荷基準で売上計上している企業の場合) - 同一製品の売上の販売単価が、他の取引と比較して異常に高いものがないかを確認する方法
- 売上の計上時期が一時期に不自然に集中していないかを確認する方法
具体的なデータ分析方法は複数あるため、売上計上する対象が製品かサービスか、売上に関わる業務の特徴、SAP ERPの運用方法などを加味し、上記3例以外も含めてデータ分析方法を検討していくことになりますが、SAPデータをデータソースとすることで様々な分析が可能となります。
次に、「資金横領による隠ぺい工作(ラッピング)」を対象とした具体的なデータ分析方法を例示します。
- 得意先ごとの数カ月間の入金データを分析し、異常な入金日の取引を抽出する方法
(数カ月前までは毎月25日に入金回収されていた取引がここ数カ月間は20日であったり、月末であったりするなど) - 得意先ごとの数カ月間の入金データを分析し、入金内訳の金種が頻繁に変化している取引を抽出する方法
こちらも、企業の業務運用方法などにより、企業が採用するデータ分析方法は変わってきますが、SAPデータは有効活用できます。
さて、本章ではSAPデータで発見可能な不正兆候と具体的なデータ分析方法を例示しましたが、次章ではSAPデータを活用した不正発見アプローチの全容を解説します。
SAPデータを活用した不正発見アプローチとは
SAPデータを活用した不正発見アプローチは、以下4つのステップで構成されます。
- 財務指標分析
- トランザクション分析
- リスクの内部監査・調査
- 不正調査
以降に各ステップの概要を解説しますが、上記の「1. 財務指標分析」と「2. トランザクション分析」において、SAPデータを活用します。
- 財務指標分析
FI(財務会計)モジュールより財務会計情報を取得し、売上高営業利益率、ROIC、ROE、ROA、売掛債権回転期間、棚卸資産回転期間、流動比率、当座比率などの各種財務指標を計算し、会社間比較、時系列比較などを行うことで、俯瞰的に不自然な兆候が無いかを分析します。
例えば、「資金横領による隠ぺい工作(ラッピング)」が行われていた場合、売掛債権回転期間が徐々に長くなる傾向があります。売掛債権回転期間の変化を不自然に感じた場合、その原因分析を行っていくことになります。 - トランザクション分析
FI(財務会計)、CO(管理会計)、SD(販売管理)、MM(在庫/購買管理)モジュールより、請求伝票、出荷伝票、入金伝票、購買発注伝票などのトランザクションデータを取得し、深く重点的に分析します。
例えば、「資金横領による隠ぺい工作(ラッピング)」が行われていた場合、得意先ごとの数カ月間の入金データを分析し、異常な入金日の取引や金種の頻繁な変更が無いかなどを分析していきます。
分析対象が量の多いトランザクションデータとなるため、一定の閾値で対象データの絞り込みができれば、分析の効率を上げることが出来ます。 - リスクの内部監査・調査
リスクの内部監査・調査計画を立て、監査・調査を実施するステップです。内部監査・調査の対象部門は、ITを活用しない従来手法だとローテーションで順番を決め実施している企業が大部分かと思います。ここでは、ステップ1、2でITの力を活用し不正兆候まで検出していますので、不正兆候が発生している部門や関連部門、不正兆候より想定される不正内容の調査を重点的に行うよう計画を立て推進していきます。
データ分析による不正の兆候(疑い)に対して監査や調査を行なえ、監査の効率を上げることが出来ます。 - 不正調査
ステップ3の結果、不正の疑いが更に深まれば、関係者への聞き取り調査や監視カメラの確認、パソコンの操作ログの確認などを行うことで、不正の証言、証拠をつかむ活動を行います。最終的には、不正の容疑者自身へのヒアリングもおこない、不正の有無を判断していきます。
不正発見が遅れた代償と早期発見のポイントとは
不正発覚が遅れた場合の企業としての代償は、以下のように非常に大きなものとなります。
- 不正の外部公表を余儀なくされた場合、調査内容、原因分析、再発防止策などを記した調査報告書の作成に多大な労力が発生
- 更に外部公表により、企業価値低下、顧客離れ、取引停止など、多くの代償が発生
- 上場廃止や倒産・民事再生に繋がるケースも発生
- 着服横領で中央値約100万円、粉飾決算で中央値約1,000万円の直接的損害額発生
一度、企業内で不正が発生すると、単発で終わるケースは少なく、多くは同一手口の不正が繰り返される傾向にあります。当然ですが、発生から発覚までの期間が長くなればなるほど、企業における損失額は大きくなります。損失額を最小化するためには、不正の早期発見が必要不可欠です。
従来のITを活用しない不正発見アプローチは、前述のステップ3からのスタート、あるいはステップ1,2に関する数値の提出を監査部門より関連部門に求めての実施でした。その為、網羅的、客観的な分析ができず、問題が大きくなってから発覚することケースがほとんどでした。
不正の早期発見を行う為には、ITの力は必要不可欠です。基幹系業務を広くカバーするSAPデータを活用し、ステップ1,2で網羅的、客観的な分析を行うことで、不正の早期発見を図ることができます。
まとめ
会計不正は、発見が遅れるとその代償も大きくなります。SAPデータを活用し、不正の兆候を掴むことで、不正の早期発見につなげることができます。また、SAPデータを活用し、不正の兆候を監視していることを社内に広くアナウンスできれば、不正の動機があったとしても、不正行為を躊躇するような心理的作用が働き、不正そのものの発生頻度を減らすことができるかもしれません。
電通総研では、上述のステップ1、2を支援するソリューションとして「EMPHASIGHT」を提供しています。SAPデータを活用した不正発見をご検討の際は、是非、電通総研へお声掛けください。
EMPHASIGHTご紹介ページ:https://erp.dentsusoken.com/solution/emphasight
EMPHASIGHT基本ガイドブック:https://inv.dentsusoken.com/erp/guidebook/emphasight_2
※EMPHASIGHTのデータソースは、SAP ERPの他、連結会計システムも対象とすることが可能です。