SAP入門 ~モジュール・用語などをわかりやすく解説~(vol.101)

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  • 公開日:2023.08.21
SAP Beginners

「これからSAP製品に携わる上で最低限理解しておくべき用語は?」といった初歩的な疑問を解決すべく、SAP社の成り立ちから、SAP社が提供しているERP製品に存在する代表的なモジュールERP製品以外のソリューションERP製品の拡張方法などをわかりやすく解説します。

*本ブログの「SAP ERP」は、「SAP ERP」および「SAP S/4HANA」を指します。

SAP入門①SAP社の成り立ちとは?

はじめに、SAP社の成り立ちを含め、SAPとは?という疑問にお答えします。

本ブログを読み進めるにあたり、まず覚えていただきたいのは、SAPの読み方は「エス・エー・ピー」ということです。「サップ」ではありませんので、ご注意ください。

SAPは、1972年に元IBM社員がドイツ中西部のヴァルドルフに設立したソフトウェア会社です。SAPは、「System Analysis Program Development」(ドイツ語:Systemanalyse und Programmentwicklung)からとった名称であり、システム分析とプログラム開発の両方の意味を持っています。

SAP社が提供するERP製品にも「SAP」という言葉が付いていることから、一般的にはSAPと言えば会社名よりもERP製品を指すことが多いかと思います。
*ERP(Enterprise Resource Planning)とは、企業全体の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報など)を適切に分配して有効活用すべく、経営資源を統合的に管理し、経営の効率化を図るための手法・概念を意味します。ERPシステムとは、この手法を実現するためのシステムであり、すべての業務を一元的に管理する全部門共通のシステムのことです。

SAP社が提供する最新のERP製品は、リアルタイム性とデータ統合に強みがあり、基本的に転記された伝票を元に財務諸表などの各種データがリアルタイムに更新される仕組みとなっています。また、データ改ざんなどができないよう、外部からデーターベースの直接更新ができない仕組みになっています。

ERPシステムをパッケージ化したSAP社の製品である「SAP ERP」(または、その後継製品である「SAP S/4HANA」)を採用している企業は、世界190カ国で44万社以上、日本でも2,000社ほど存在するため、安心してご利用いただけます。

*SAP製品の歴史やSAP社が推奨する企業の目指すべき姿などは「SAP R/3 から S/4HANA へ ~ERPの”これまで”と”これから”~(vol.46)」をご覧ください。

SAP入門②モジュール(機能群)にはどんなものがあるの?

SAP製のERPシステムは、業務領域ごとの機能群=「モジュール」で構成されます。
よく利用されるモジュールについて、それぞれ簡単にご紹介します。

  • 財務会計(FI)モジュール
    FI(Financial Accounting)は、決算書などの作成や固定資産、債務・債権管理などを行うために必要な機能を備えており、基本的には社外向けに財務諸表を作る目的で活用されます。
    ほかの販売管理モジュールなどと連携して、自社の売上や支出を自動的に計算できるため、経理作業の負担軽減にもつながります。
  • 固定資産管理(FI-AA)サブモジュール
    FI-AA(Asset Accounting)は、固定資産の取得や減価償却計算、処分などプロセスに関わる処理を行う機能を指します。固定資産の取り扱いが多い業種において役立つサブモジュールだといえるでしょう。
  • 管理会計(CO)モジュール
    CO(Controlling)は、管理会計の業務をカバーする機能のことです。部門単位の業績管理や間接費の管理など、主に社内向けの会計を行う機能に対応しています。
    管理会計のモジュールを活用することで、自社の経営状況をグラフ化したりレポートを作成したりする手間を大きく削減することが可能です。コスト管理やコスト分析を適切に行うことで業務改善に取り組めるほか、販売実績などをタイムリーに把握できるため、スピーディーな意思決定にもつなげられるでしょう。
    *ご参考ブログ「SAP FI CO を用いたデータ分析とは?(vol.40)
  • 販売管理(SD)モジュール
    SD(Sales and Distribution)は、販売管理に関する業務を行うときに必要な機能です。受注、出荷、請求などをリアルタイムで一元的に管理します。
    商品の販売状況や出荷、納品といったさまざまな手続きを行えるほか、これらの作業に必要となる見積書や納品書、請求書などの作成もできます。
  • 在庫購買管理(MM)モジュール
    MM(Material Management)は、在庫の入出庫管理や棚卸管理などの在庫管理機能です。資材やサービスの購買から発注、入庫など購買と調達をサポートする機能だといえます。
  • 生産管理(PP)モジュール
    PP(Production Planning and Control)は、生産管理を担う機能を指します。生産計画、在庫管理、原価管理を着実に行うことができるほか、異常品の管理や歩留まり率の管理などの生産効率を把握できるERPパッケージもあります。
    *ご参考ブログ「SAP MM SD PP を用いたデータ分析とは?(vol.12)
  • 人事管理(HR)モジュール
    HR(Human Resources)は、人事、人材管理、勤怠、給与計算などを担う機能です。多様な人事管理業務に対応しているため、人的資源を最大限に活用したいときに役立ちます。
    HRモジュールのなかには、社会保険やマイナンバーの管理、シフト管理などの機能を備えているものもあります。

上記以外にも様々なモジュールが存在します。SAP ERPのライセンスがあれば個別に有効化することで利用可能となるモジュールもあれば、別途でライセンスを購入しなければ利用できない機能群もあります。

また、モジュールとは言いませんが、重要な機能群として「SAP Fiori」があります。

  • SAP Fiori
    SAP Fioriは、優れたユーザーエクスペリエンス(以下、UX)を備えた、SAP S/4HANAに実装可能なアプリケーションを作成できる設計システムのことです。
    主な用途としては、ECCで利用していたSAP GUIに変わる新たなUI環境を構築することです。具体例としては、伝票を入力したり、レポートを出力したりする環境などが挙げられます。
    SAP Fioriの機能を「タイル」と呼びます。このタイルは日々増えており、2023年3月時点で約16,000のタイルが存在しています。この中から必要なタイルを選択し、Webアプリとして機能を有効化することで利用することができます。
    *Fioriを有効化する方法は「SAP Fiori とは?(vol.59)」をご覧ください。
    *旧来のSAP GUIとの違いは、「SAP GUIとFioriの違いとは?(vol.91)」をご覧ください。

SAP入門③ERP以外のソリューションとは?

SAP社は、ERP製品以外にも、様々なソリューションを提供しています。これらのソリューションは、ERP製品と連携することで、経営を効率化/高度化してくれます。今回は、主要なソリューションをいくつかピックアップしてご説明します。

  • SAP Concur
    「SAP Concur」は、経費の精算や出張管理、請求書管理ができるクラウドシステムです。SAP Concurの利用者数は世界で7,500万人以上おり、約16兆円分の経理処理を行っています。
    SAP ERPとしても経費精算処理の機能やワークフローは存在していますが、こちらは直感的に操作可能なUI/UXを誇り、外部サービスである旅行サイトやタクシー配車アプリなどと直接連携することにより、外部で発生した精算対象伝票を直接SAP ERPに連携することが可能となっています。
  • SAP SuccessFactors
    「SAP SuccessFactors」は、人材採用や人材育成、労務管理に至るまで人事に関する業務全般をクラウドで行えるサービスです。
    SAP ERPとしても人事/給与のモジュールは存在しますが、タレントマネージメント領域の機能群(人事評価や分析、人員計画などの管理)が行えます。
    また、労務関係は法改正がたびたび行われるため、SAP ERPとは異なるサーバー上にSAP HRを構築し、運用しているケースも少なくありません。しかし、SAP SuccessFactorsを利用すれば、そうした作業が不要となり、業務をより効率化できるでしょう。
    *ご参考ブログ「SAP SuccessFactorsへHRモジュールを移行する方法とは?(vol.60)
  • SAP Ariba
    「SAP Ariba」はクラウド型のシステムであり、調達管理を行えるサービスです。
    SAP ERPとしても調達管理の機能は存在していますが、こちらは様々なバイヤー/サプライヤーがパートナーとして登録しているネットワークであり、直接バイヤーがサプライヤーとやり取りできプラットフォームとなっております。
  • SAP Fieldglass
    「SAP Fieldglass」は、人材シェアリングのプラットフォームであり、派遣社員など外部からの人員調達を管理する仕組みを有しています。1999年のリリース以来、180ヶ国以上にサービスを提供しています。SAP Fieldglassは、納品・検収・支払い・請求処理といった事務作業の効率化だけでなく、蓄積されたデータを基にさまざまな分析を行い、人材採用の最適化を図ってくれるのが特徴です。例えば、派遣元企業でも利用してもらうことで、契約管理なども可能となります。

SAP入門④カスタマイズとアドオンの違いとは?

最後に、SAP S/4HANAの導入や運用保守にあたり、頻出する用語を解説します。

  1. パラメータ設定
    パラメータの設定でシステムの動きを調整し、要望する業務プロセスを実現できます。
    SAP Screen Personasによる画面修正が可能であり、項目の表示/非表示、テキスト追加・変更、タブの統合等をノーコーディングで実装可能です。
  2. パーソナライズ
    項目の表示形式の変更や初期値の設定など、個々のユーザの画面周りの調整を実現できます。パーソナライズでは、一覧レポートの表示レイアウトを変更して自分のデフォルト設定にする、レポート実行時に自分固有の選択基準を設定しておく、よく使う選択可能値だけに絞り込んでおく、といったユーザが使いやすさを追求するための設定変更が可能です。
  3. 拡張
    事前に用意された拡張領域を利用してプログラムや項目を追加するなどして、細かな要望を実現できます。
    SAP S/4HANAには、標準プログラムにおいて、企業ごとに固有のロジックを追加できる箇所をあらかじめ用意しています。そのため、SAP標準機能を最大限いかしつつも貴社固有要件をコーディングしていただくことが可能です。
  4. アドオン(Add-on)
    独自の機能や画面・帳票を、個別に追加開発して実現します。
    SAP S/4HANAはシステム内に開発環境をもっており、SAP内部に直接機能を追加開発する形になります。
    *SAP S/4HANA内部には開発ツールが存在し、豊富な関数や画面レイアウト作成の仕組みも設けられています。

上記の「パラメータ設定」、「パーソナライズ」、「一部の拡張(例えば、UI変更)」のように、SAP ERPの標準機能を変更、あるいは有効化したり、SAP社が提供している機能を追加実装したりすることを、一般的に「カスタマイズ」と言います

SAP ERPの導入方針は「標準機能に業務を適合させる(業務に適合する機能を個別開発しない)」ことが一般的な考え方ですが、やはり海外のパッケージ製品であるため、業務に合わない部分に関しては追加で機能をアドオン開発する場合もあります。

SAP ERPには基本的な業務に必要な機能に加え、各国の法制度に対応するための機能や、特殊業務をサポートする機能が存在します。これらの機能をSAPコンサルタントが調査/設定することで、機能拡張することが可能です。この場合、個別でアドオン開発するよりも、コストを抑えることができます。このように、可能な限りSAP ERPに標準で備わっている機能を利用する形で導入/保守運用を行い、必要応じてカスマイズで回避すると、導入/運用保守コストを削減することが可能です。

まとめ

SAP製品は、長い歴史の中で標準機能が拡充され、必要な機能は少しずつ改善もされています。また、積極的にM&Aをすることで、ERP製品と連携可能なソリューションも徐々に増えています。
コアとなるERP製品であるSAP S/4HANAには、オンプレミス型に加え、クラウドを利用したSaaS型もあり、選択肢=ユーザが検討すべき範囲はどんどん広がっています。
もし、これからSAP S/4HANAを導入する、あるいは、現行のSAP ERPからSAP S/4HANAへ移行する予定があれば、高機能なSAP S/4HANAを最大限に活用しつつ、業務とシステムがマッチしない部分をどうしていくべきか、最寄りのSAPコンサルタントにご相談してみてはいかがでしょうか?

弊社は、高機能なSAP S/4HANAを最大限活用しつつ、+αの付加価値をもたらす様々なソリューションをご提供しております。

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本記事は、2023年7月1日時点の情報をもとに作成しています。
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