SAP 品目元帳でできること、できないこととは?(vol.71)
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SAP ERP*の品目元帳機能(以下、品目元帳)は、実際原価計算を可能とするオプション機能です。
製造業のSAPユーザ(or SAP導入予定)企業で、品目別実際原価、さらには品目別収益管理(品目毎の売上/原価/利益管理)を目指している場合、品目元帳は実現手段として検討する機能かと思います。
2020年から2021年にかけて実施した弊社独自の調査結果によると、SAP PP(生産計画/管理)モジュール導入済み企業のうち、品目元帳を利用している企業の割合は25%程度でした。(筆者の所感ですが、一昔前と比較して増えている印象を受けました)
※ご参考資料:https://inv.dentsusoken.com/erp/ebook/researchreports2021_2
品目元帳はとても有用な機能ではありますが、企業が目指す原価/収益管理のありたい姿によっては、品目元帳のみで実現できることに限界があることも事実です。また、品目元帳を一度でも有効化して運用をはじめると、業務影響から無効にすることは現実的ではなくなるため、品目元帳の利用には慎重な検討が必要です。
そこで本ブログでは、品目元帳を活用することで実現可能なことを整理した上で、品目元帳のみでは実現が難しいこと=品目元帳の限界とその解決策も併せて解説します。
*本ブログの「SAP ERP」は、「SAP ERP」および「SAP S/4HANA」を指します。
目次
SAP 品目元帳で実現可能なことは?
品目元帳で実現可能なことを一言で述べると、『品目別』の『実際原価』を算出できることです。(ここで言う『品目』とは、製品/半製品/部品/原材料 等のすべての品目を指します)
また、原価差異金額を、当月消費分(当月原価として算入分)と当月末在庫分(翌月以降の原価として繰り越し分)に分けて自動計算してくれることも挙げられます。
以下に、SAP PP(生産計画/管理)モジュール導入済み企業の大部分が活用している指図別製品原価と対比する形式で、品目元帳で実現可能なことを解説します。
- 『品目別』の原価計算を実現
原材料Aを加工し、部品Bを製造するケースで、部品Bを製造するための製造指図が当月に複数(製造指図100,101,102)発行され、実績計上されたとします。
まず、指図別製品原価では、次の例の通り指図別に原価が計算されます。【前提】
・原材料Aの標準単価 : 100円/個
・加工費の計画活動単価 :2,000円/h
・製造指図100,101,102における部品Bの完成数は、いずれも100個
・製造指図100,101,102における原材料Aの消費量は、各々 100,110,120個
・製造指図100,101,102における加工時間は、各々 10h,11h,12h【指図別製品原価計算の結果】
製造指図No 部品Bの完成数 原材料費 加工費 製造指図100 100個 10,000円
(100円/個×100個)20,000円
(2,000円/h×10h)製造指図101 100個 11,000円
(100円/個×110個)22,000円
(2,000円/h×11h)製造指図102 100個 12,000円
(100円/個×120個)24,000円
(2,000円/h×12h)一方、品目元帳では、品目別に原価が計算されるため、部品Bの原価は指図別製品原価の品目別合計値となります。
品目No 部品Bの完成数 原材料費 加工費 部品B 300個 33,000円
(110円/個)66,000円
(220円/個)注)下段は部品Bの1個当たりの単価
- 『実際原価』での算出を実現
上述の例では、原材料Aの単価/加工費単価ともに、標準単価を利用して計算していました。品目元帳では、価格差異(実際単価-標準単価)分の原価差異金額を、原価差異が発生した品目の消費分と在庫分に数量按分し、さらに上位品目に原価差異をロールアップすることで、実際原価を計算していきます。【原材料価格差異の消費分と在庫分への按分(例)】
仮に、原材料Aの実際単価=105円/個、加工費の実際活動単価=2,100円/hとした場合、品目元帳で計算される部品Bの実際原価は、次の表の通りとなります。
品目No 部品Bの完成数 原材料費 加工費 部品B 300個 34,650円 *1
(115.5円/個)69,300円 *2
(231円/個)*1 原材料費:105円/個×330個=34,650円
*2 加工費:2,100円/h×33h=69,300円指図別製品原価では、標準単価を用いて計算されていたのに対して、品目元帳では原価差異を配賦することで、品目別に実際原価が計算されます。
SAP 品目元帳の限界① 管理原価目的での利用
SAP ERPは、良くも悪くもあらゆるモジュールがFI(財務会計)モジュールと密結合しているERPパッケージのため、品目元帳を利用する際は、まずFI(財務会計)モジュールを意識して各種パラメータやマスタ設定を行う必要があります。
言い換えると、品目元帳は、次の例で示すような管理会計目的での利用には適していないと言えます。
品目元帳の利用が適さないケース
- 在庫を加味せず、当月調達/製造分のみで実際原価を計算
(財務会計では、在庫を加味しないことは許されていません) - 面積原価*1 や スループット会計*2 等の管理原価手法の採用
*1 面積原価:原価に時間軸も含めて評価を行う手法
*2 スループット会計:TOC(制約理論)をもとに考えられた手法 - 品目へ直課可能な費用は直課する手法
購買諸係、金型/設備の減価償却費、在庫の保管及び入出庫費用、輸送費、特許料等の直課可能な費用は、該当品目に直課したいというニーズへの対応
SAP 品目元帳の限界② 原価シミュレーションの実施
加工費/製造経費の配賦設定を見直したい時やwhat-if分析をしたい時 等、本番環境とは別環境でシミュレーションを実施したいというニーズをよく耳にします。
原価を対象としたシミュレーションとしては、以下のようなケースが挙げられます。
- 原材料価格を変更してのシミュレーション
- 為替レートの変動シミュレーション
- 労務費や設備等の減価償却費、製造経費等の配賦元金額を変えてのシミュレーション
- 配賦設定(配賦基準や配賦率等)を変えてのシミュレーション
- 製造する設備やラインを変更してのシミュレーション
- 不良や歩留まり発生率を変えてのシミュレーション
- 内作/外作を変更してのシミュレーション
SAP ERPでは、原価をシミュレーションできる環境がなく、シミュレーションニーズの多い企業では、悩ましい問題になっています。
SAP 品目元帳の限界③ 販管費の配賦と品目別営業利益の算出
品目元帳が対象としている原価計算は、製造原価までです。販管費に関しては、SAP ERPでは会社全体や原価センタ別に実績金額を捉えることは可能ですが、品目別の販管費実績まで捉えることはできません。
製造業のSAPユーザ企業の中には、製造原価のみならず販管費を製品や商品に直課/配賦することで、製品や商品別に売上/総原価(製造原価+販管費)/営業利益を捉え、損益管理に利用している企業が存在します。
さらには、販管費に関しても製造原価同様に変動費と固定費に分割し、販管費も含めた製品別の限界利益を算出している企業や、販管費を超えて営業外収益/費用や特別利益/損失や税額まで品目別実際原価の計算対象として、品目別経常利益や純利益まで算出されている企業も存在します。
企業によって品目別にどのレベルまで原価を捉え活用したいかは異なりますが、製造原価を超える範囲でニーズがある場合、品目元帳の限界を理解した上で解決策を検討する必要があります。
SAP 品目元帳の限界に対する解決策
2章~4章で品目元帳のみでは実現が難しいこと=品目元帳の限界を解説して参りましたが、本章ではその解決策としてどのような手段があるかを解説します。筆者は、以下の順で検討していくことをお勧めします。
- 品目元帳+(必要に応じて)小規模なアドオン開発
自社の要求機能レベルが、品目元帳の標準機能で対応可能、または品目元帳+小規模なアドオンで対応可能な場合であり、品目元帳の使い勝手に問題ない場合は、この選択肢がベストだと思います。
(品目元帳は、標準原価に原価差異を加減算して品目別実際原価を算出しており、「解り難い」 「運用が難しい」という声をよく耳にするため、使い勝手に問題ないかの評価は必須です) - 原価パッケージの導入
上記1の選択肢が難しい場合は、まず、原価パッケージの導入を検討すべきかと思います。自社の要求機能レベルが、原価パッケージの標準機能でカバーできる範囲内であれば、費用面/品質面より、この選択肢がベストと思われます。 - すべてアドオン開発
上記2の選択肢が難しい場合は、すべてアドオンでの開発となります。ただし、すべてアドオン開発となると、費用/品質/導入期間 等でリスクも発生するため、自社要求をパッケージ標準に合わせられないかの面で、上記2の選択肢の再考も並行して進めることをお勧めします。
SAP 品目元帳の限界と解決策 まとめ
ここまで、品目元帳で実現可能なこと、および品目元帳のみでは実現が難しいこと=品目元帳の限界とその解決策を解説してきました。
品目元帳の限界
- 管理原価目的での利用
- 原価シミュレーションの実施
- 販管費の配賦と品目別営業利益の算出
解決策(以下の順で検討を推奨)
- 品目元帳+(必要に応じて)小規模なアドオン開発
- 原価パッケージの導入
- すべてアドオン開発
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本ブログは、2022年4月20日時点の情報を基に作成しています。製品・サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。
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