GROW with SAPとは?~特徴やメリット、導入方法について解説~(vol.110)
- 公開日:
- 最終更新日:
近年、中堅・中小企業向けのクラウドERPソリューションとして注目されているのが、SAP社の「GROW with SAP」です。
GROW with SAP は、クラウド ERP「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」を中核とし、導入期間を短期化させる仕組みや、自己学習のためのコミュニティ/学習コンテンツ、運用負荷を軽減する仕組みなどを合わせてサービス提供する包括的ソリューションです。
本ブログ記事では、「GROW with SAP」について、「RISE with SAP」との違いや特徴・メリット、導入方法について詳しく解説します。
目次
GROW with SAP とは? ~ソリューションコンポーネントや提供サービスを解説~
GROW with SAP は、SAP S/4HANA Cloud Public Edition に、SAP BTPの一部のサービス/業界ベストプラクティス/導入支援ツール/ラーニング などを組み合わせたサービスです。
中堅中小企業のニーズに合わせたソリューションをパッケージ化してご提供しています。
主なソリューションコンポーネント
GROW with SAP のソリューションコンポーネントは、次の3つの要素で構成されています。
- SAP S/4HANA Cloud Public Edition
SAP S/4HANAは、SAPが提供するクラウド型のERP(Enterprise Resource Planning)ソリューションです。SAP社が構築した環境を、複数のユーザー企業が共同で利用するモデルとなります。
* SAP S/4HANA Cloud Public Edition については、「SAP S/4HANA Cloud Public Edition とは?(vol.57)」で詳しく解説していますので、是非ご覧ください。 - SAP Business Technology Platform(BTP)
SAP Business Technology Platform(SAP BTP)は、SAP が提供するクラウドベースのプラットフォームです。
SAP BTPの主な機能には、アプリケーション開発/データ分析/データ統合/自動化/AIなどがあり、その特徴は、迅速な開発/低コスト/使いやすさ/拡張性/イノベーションとされています。
また、 2021年4月にSAP Build という、SAP Business Technology Platform 上に構築された、ローコード/ノーコード開発ツールが提供開始されました。SAP Buildは、従来の開発方法よりも迅速かつ簡単に、ビジネスアプリケーションを開発/自動化/展開できるソリューションです。
GROW with SAP のライセンスには、SAP BTPを使用するための「BTP CPEA」クレジット(上限あり)と「SAP Build」の一部機能がバンドルされています。
*BTPについては「SAP BTPとは? ~機能・特徴・サービスなどをわかりやすく解説~(vol.100)」で詳しく解説していますので、是非ご覧ください。 - 業界ベストプラクティス
業界ベストプラクティス は、各業界で培われたノウハウをもとに、効率的な業務運営を実現するためのテンプレートやガイドラインです。2024年6月現在、GROW with SAP で提供されている業界ベストプラクティスは次のとおりです。
*別途で有償ライセンス購入し、追加インストールが必要な機能も存在します。
導入支援サービス
導入支援サービスは、GROW with SAPのスムーズな導入を支援し、最大限の成果を得られるようにする一連のサービスです。
これらのサービスには、次のようなものが含まれます。
- SAP Activate
SAP Activate は、SAP の導入フレームワークであり、お客様が迅速かつ確実にプロジェクトを完了できるように支援します。計画、準備、実行、移行、およびサポートの各フェーズを網羅する、包括的かつ実証済みの方法論を提供します。 - Packaged Activation Services
Packaged Activation Services は、あらかじめ定義された範囲のサービスとコンポーネントを提供するサービスです。これにより、迅速かつ予測可能な導入が可能となり、プロジェクトのリスクと複雑さを軽減することができます。 - パートナーエコシステム
GROW with SAP は、経験豊富な SAP パートナーの広範なネットワークによって支援されています。これらのパートナーは、導入/移行/カスタマイズ/サポートなど、さまざまなサービスを提供できます。
コミュニティとラーニング
コミュニティとラーニングは、GROW with SAP を最大限に活用できるように支援するための包括的なリソースセットです。
- SAPコミュニティ
SAP コミュニティは、世界中の GROW with SAP ユーザー/パートナー/専門家が交流し、協力し、情報やベストプラクティスを共有する場です。コミュニティには、次のようなさまざまな機能があります。- ディスカッションフォーラム: GROW with SAP に関連するさまざまなトピックについて、他のユーザーと質問したり、回答したりできます。
- ブログ: SAP の専門家やパートナーによる最新の記事や洞察を読むことができます。
- イベント: ウェビナー/カンファレンス/ユーザーグループミーティングなど、さまざまなイベントに参加できます。
- サポート: 技術的な問題や質問について、SAP サポートチームに問い合わせることができます。
- ラーニング
GROW with SAP ラーニングは、GROW with SAP のさまざまな機能と使用方法を学ぶための包括的なオンラインリソースです。ラーニングには、次のようなさまざまなリソースが含まれています。- eラーニングコース: GROW with SAP のコア機能に関するさまざまなトピックをカバーする、インタラクティブな e ラーニングコースを受講できます。
- チュートリアル: 特定のタスクを実行する方法を段階的に説明するチュートリアルに従うことができます。
- ドキュメント: GROW with SAP の機能と使用方法に関する詳細なドキュメントにアクセスできます。
- ビデオ: GROW with SAP の機能と使用方法を説明するビデオを見ることができます。
GROW with SAP のライセンスタイプによる違いとは?
2024年11月現在、「GROW with SAP」には2つのエディションが存在します。コアとなるSaaS型ERPシステムである「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」自体は共通ですが、バンドルされているライセンスに違いがあります。
大きな特徴としては、どちらのエディションでも、SAP BTPの一部ライセンスやデジタルアクセスライセンスがバンドルされていて、クイックなスモールスタートが可能な点です。
*デジタルアクセスライセンスについては、「SAP デジタルアクセスライセンス とは?(vol.65)」をご覧ください。
*上記は「GROW with SAP S/4HANA Cloud, public edition Supplement English v.8 2024」の情報に基づいて記載しております。
詳細な情報 及び 最新の情報は「 SAP Trust Center 」から該当製品・サービスの「 Supplement 」をご確認ください。
GROW with SAP と RISE with SAP の違いとは?
GROW with SAPとよく似た名前の「RISE with SAP」というソリューションも存在しますが、その違いは何なのでしょうか?
GROW with SAP と RISE with SAP との違いを、対象企業 / コアERPのエディション / SAP ECCからの移行方式 などの観点で解説します。
- 対象となる企業規模
・ GROW with SAP:新規でSAP ERPを導入する中堅・中小企業
・ RISE with SAP:高度な財務管理機能やABAPによるClassic拡張を必要とする中堅・大企業向け - コアERPとなるSAP S/4HANA Cloudのエディション
・ GROW with SAP:SAP S/4HANA Cloud Public Edition
・ RISE with SAP:SAP S/4HANA Cloud Private Edition
*Public Edition とPrivate Edition の違いは「SAP S/4HANA Cloud Public Edition とは?(vol.57)」で解説しておりますので、ご覧ください。 - SAP ECCからの移行方式
・ GROW with SAP:新規で構築するグリーンフィールド(リビルド)方式
・ RISE with SAP:個別要件に合わせてグリーンフィールド(リビルド)方式 or ブラウンフィールド(コンバージョン)方式を選択可能
*SAPの移行方法については「SAP おすすめの移行方法とは? ~3つの選択肢を解説~(vol.36)」にて解説しておりますので、是非ご覧ください。
GROW with SAP の特徴・メリットとは?
GROW with SAPは数多くの特徴やメリットが挙げられますが、本ブログでご紹介するGROW with SAPの特徴・メリットは次の通りです。
GROW with SAP の特徴
GROW with SAPの主な特徴は次の7点です。
- 業務標準化
SAP社は、グローバルNo.1のERPパッケージベンダーとして世界中の企業の基幹業務システムを長年サポートしており、あらゆる業種・業態のお客さまへの導入実績を有します。そのため、世界中の企業で利用される様々な成功シナリオを自社に取り込み、業務を標準化することが可能です。事前定義済みのベストプラクティスに加え、業種固有シナリオのご提供により、包括的なエンドツーエンドビジネスプロセスを実現可能です。
また、主要各国の言語/通貨/法制度に対応しているため、同一プラットフォームで業務を標準化することも可能となります。
*2402バージョンでは、59ヶ国向けの標準提供国/地域固有ローカル機能と33言語のサポートが可能です。 - 継続的なイノベーション
2024年6月現在は、半年に一度は必ずバージョンアップする仕組みとなっており、継続的なイノベーションを実現します。 - 幅広い拡張性
幅広い業務領域を網羅した豊富な機能や様々なポイントソリューション群により、ERPコア業務の効率化・高度化を促進します。
また、SAP社は、様々なビジネスプロセスにおいてAIを活用できるシナリオ・新機能を順次ご提供しております。自然言語生成型AIアシスタント「Joule」をはじめとして、各ソリューションにAI機能が組み込まれており、これまで気づくことができなかったインサイトをご提供したり、人手で行っていた業務を効率化したりなど、お客様の業務の高度化・自動化をご支援します。 - リアルタイム分析
GROW with SAPでは、メニューをタイル形式にしたユーザーインターフェース「Fiori」をご利用可能です。タイル上にKPIをリアルタイムで表示することができるため、高い可視性を誇り、デバイスを問わずに誰でもどこからでも直感的な操作が可能です。
例えば、月中でも予算/計画に対する着地点を把握可能なため、意思決定のための十分な時間を捻出することができ、どのような手を打つべきかを検討することが可能です。 - 導入コスト低減
GROW with SAPは、業務に合ったシステムを構築する従来の「Fit & Gap」と異なり、業務をシステムに合わせる「Fit to Standard」という導入方針に則り、標準機能をベースに業務設計を行います。自社固有の機能(=アドオン)は構築しない前提のため、短期導入が可能となります。
また、短期導入が可能なため、イニシャルコストを低減し、投資回収の早期スタートを実現可能です。 - 運用負荷低減
GROW with SAPは、基盤や運用をSAP社が担うため、ユーザーのメンテナンスやバージョンアップ負荷を軽減し、業務改革/システム改善へリソースを注力することが可能となります。 - サブスクリプション契約
サブスクリプション型ライセンスのため、オフバランス化(資産から費用化)が可能です。
GROW with SAP のメリット
GROW with SAPを導入する最大のメリットは、「長く使えるDX基盤を、早く導入し、楽に運用できる(=TCOが削減できる)」ことです。
- DXの基盤となる
- 高速なDBであるSAP HANAとシンプル化された大幅帳テーブルの採用
- 基幹系と情報系のデータを統合して一元管理できる
- 入力データを即座に分析に活用できるアーキテクト
- Fit to Standardによる業務標準化、固有機能の排除
- データモデルの標準化
- 安心して長期に渡り利用できる(継続的なイノベーション)
- 定期的に新機能がリリースされる
- 定期的に税制や法制度対応機能がリリースされる
- AIや機械学習などの先端ソリューションが提供される
*2024年6月現在は、半年に一度、自動的にバージョンアップされます - 短期導入による導入コスト抑制が可能なため、投資回収を早期スタートできる
- 標準的な業務シナリオ(ベストプラクティス)の採用による短期導入
- サブスクリプション型ライセンスの採用によるオフバランス化(資産から費用化)
- 契約更新時(1年/3年/5年ごと)に、ユーザー数や使用機能を適正化できる
- SAP社がインフラを運用してくれるので、IT運用リソースを本業へ集中させることができる
- SAP社がクラウド環境でシステムを運用
- SAP社がインフラ・ベーシス作業を代行
- SAP社が半年に一度、定期的なバージョンアップを実施
GROW with SAP の導入方法とは?
GROW with SAPの導入にあたり、まずは「SAP Activate」と「SAP Best Practice」を理解しておきましょう。
SAP Activate
GROW with SAP の導入方法は、SAP社の導入方法論 「SAP Activate」 に従い、導入を進める必要があります。GROW with SAP の導入は、次の6つの主要なステップで構成されています。
- Discover(構想)
GROW with SAPを導入することによってビジネスにどのように利益がもたらされるかを理解する必要があります。 - Prepare(準備)
プロジェクトの初期計画と準備を行います。このフェーズでは、プロジェクトを開始し、計画を完成させ、プロジェクトチームを割り当てることが必要になります。 - Explore(評価)
Fit-to-Standard 分析を実行し、プロジェクトスコープに含まれるソリューション機能を検証し、ビジネス要件を満たすことができるかどうかを確認するフェーズになります。 - Realize(実現)
Explore(評価)フェーズで特定され、バックログで取得されたビジネスプロセスおよびビジネス要件に基づいて統合されたビジネスおよびシステム環境を、構築およびテストするフェーズです。このフェーズでは、プロジェクトチームが顧客データをシステムにロードし、採用アクティビティを計画し、カットオーバー計画およびソリューションの運用的な実行の計画を準備する必要があります。 - Deploy(デプロイ)
本稼動システムを設定し、組織の準備状況を確認した上で、業務オペレーションを新しいシステムに切り替えるフェーズになります。 - Run(運用)
ソリューションの運用性をさらに最適化および自動化するフェーズです。ここでの運用性とは、IT システムを機能的な稼動状態に保ち、企業における業務オペレーションの実行をサポートするためのシステムの可用性と必要なパフォーマンスレベルを保証する能力を意味します。
SAP Best Practice
SAP S/4HANA Cloudで実現可能なビジネスプロセス群(スコープアイテム)やスターターシステム(プロトシステム)における操作ガイド(テストスクリプト)をご提供しており、SAP S/4HANA Cloudのスコーピング(要件定義)は、このスコープアイテムを選択することで実施します。
スコープアイテムが決定しないとライセンスBOMが確定せず、費用見積もりはできません。ざっくりいくらかどうかを確認する前に、必ずDiscoverフェーズを完了しましょう。
< SAP Best Practice(スコープアイテム)>
まとめ
ここまで、GROW with SAPの概要、RISE with SAPとの違い、特徴・メリットや導入方法について解説して参りました。
GROW with SAPによって、中堅・中小企業は迅速にクラウド ERP を導入することが可能となります。
また、本社はSAP S/4HANA(On-Premise) や RISE with SAP を使用し、グループ会社や海外法人はGROW with SAP を使用するといった2層ERP(Two-tier ERP)モデルでも活用が広がっています。
電通総研は、30年近くSAP ERPの導入・運用をご支援し続けて参りました。その経験に基づき、業務プロセス改革を成功に導くための深い知見とノウハウがございます。GROW with SAPの導入についてご検討の際は、是非弊社までお声掛けください。
電通総研の導入支援サービス:https://erp.dentsusoken.com/solution/sap-s4hana-cloud-public-edition/
※本記事は、2024年6月1日時点の情報を基に作成しています。製品/サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。
https://erp. dentsusoken.com/inquiry/