SAP HANAとSAP S/4HANA の違いとは? わかりやすく解説(vol.111)
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SAP HANAとSAP S/4HANAは、SAP社が提供するエンタープライズ(法人)向けのソフトウェア製品です。数多くのパートナーと連携し、世界中の企業で利用される製品として提供されています。
どちらも同じ「HANA」という単語が入っており、一見「同じ製品やソリューションであり、バージョンが異なるだけかな?」などと思われる方もいますが、全く別の製品です。
そこで本記事では、SAP HANAとSAP S/4HANAの違いについて解説します。
SAP HANA とは? ~インメモリや カラム型についても解説~
SAP HANA(読み方:エスエイピー ハナ)とは、2010年にSAP社がリリースした、カラムストア型リレーショナルインメモリーデータベースのことです。
広義の意味では、SAP HANA用のアプリケーションの実行環境/開発環境といった周辺機能を含めたプラットフォーム全体を指す場合もありますが、本ブログ記事ではデータベース単体の機能特徴について解説します。
SAP HANAの特徴①インメモリデータベース
従来の一般的なデータベースではハードウェアに搭載されたハードディスクにデータを保持しながら動作していました。
このようなハード型に対し、SAP HANAは「インメモリデータベース」という、メモリ上に全てのデータを保持し、メモリ上で処理を行うことで、従来のハードディスクでの処理に比べて圧倒的に高速な処理ができるデータベースとなっています。
従来のハードディスクは、物理的なディスク装置をモーターで動作させるという機械的な動きが発生していました。従って、処理速度には限界がありました。
このような欠点を補うため、SAP HANAは、全てのデータをメモリ(半導体)内に展開して動作させることで、データの読み書きを非常に高速に行えるという特徴があります。
SAP HANAの特徴②カラムストア型データベース
2点目の特徴は、SAP HANAは「カラムストア型」(以下、カラム型)であるということです。別の言い方として「カラム型」あるいは「列指向型」と呼ばれる場合もあります。
一般的なデータベース製品として、例えば、Oracle Database / Microsoft SQL / Server / PostgreSQL / MySQL などは「行指向型」のデータベースです。
カラム型のデータベース製品の代表例には、Exadata / Vertica などがあります。
SAP HANAの特徴として「インメモリ型」であることを取り上げているケースは多いですが、「カラム型」であるという特徴も重要な要素となるため、今回はその特徴について掘り下げます。
カラム型のデータベースの特徴のひとつは、データの圧縮効率が高いという点です。
列単位のデータを見ると、当然データ型は同じであり、同じ値のデータが繰り返し入っていることが多くあります。
そのため、列方向のデータでは圧縮が可能となり、データ容量の削減が期待でき、場合によってはオリジナルデータの数分の一の大きさになることもあります。昨今の生成AI/ビッグデータ時代において、ストレージコストの面でも大きな効果があるのではないかと推察されます。
また、行指向型のデータベースでは、行単位でデータを保持/取り出しを行えます。少数の行に対する多くの列の取得や更新を効率的に実行ができ、データの追加も行単位で行われます。一方、少数の列に対して集計処理を行う場合には、非効率な動きとなります。
これに対しカラム型のデータベースでは、列単位でデータの取得/取り出しを行い、大量の行に対する少数の列の集計処理を実行します。このような処理により、全ての行に対する更新を効率的に行うことができます。
つまり、カラム型のデータベースは、特定の列の値をまとめて処理するのは得意ですが、特定の行を更新したり削除したりするのは苦手と言えます。
ここで、カラム型(列指向型)データベースと行指向型データベースの違い/特徴をまとめます。
- カラム型(列指向型)データベースは、主にデータ分析のために最適化され、列を抜き出して大量データに対する集計処理を高速に行うことが得意です。そのため、列データの圧縮によるデータ容量の削減効果が高いことが特徴として挙げられます。
- 行指向型データベースは、頻繫にレコードにアクセスしデータを更新することや、インデックスを使用した検索によるオンライントランザクション処理が得意です。
SAP S/4HANAとは? ~ERPとは?~
SAP S/4HANA(読み方:エスエイピー エスフォーハナ)とは、2015年にリリースされた、SAP製インメモリデータベース「SAP HANA」搭載のERPパッケージ製品のことです。
SAP S/4HANAは、SAP Business Suite for HANAの略であり、SはSimpleを、4は第4世代を意味します。
*第1世代からはじまるSAP社のERPパッケージ製品の歴史については、「SAP R/3 から S/4HANA へ ~ERPの”これまで”と”これから”~」をご覧ください。
「ERP」とは、Enterprise Resource Planning(企業資源計画)の略で、企業経営の基本となる資源要素(ヒト/モノ/カネ/情報など)を適切に分配し、ビジネスに有効活用する計画(考え方)を意味しています。
SAP社はERPを実現するための仕組みをシステム化してパッケージ製品として販売しており、世界標準のERPシステムとして多くのグローバル企業で利用され、経営管理のベースとなり、ビジネスの成功を支えています。
世間では「ERPシステム」と謳っている製品が数多く存在しますが、実際には企業が保有する経営資源を横断的に管理可能なシステムとはなっておらず、企業の経営戦略にとって重要な位置付けとなる基幹系の情報システムを指すことが多いです。その点、SAP社は、自社のERPパッケージ製品を「真のERP」と謳っています。
ERPシステムの最大のメリットは、「情報の一元管理」にあります。ERPシステムを導入することで、業務間でのデータのやり取りの手間がなくなり、リアルタイムで企業の経営状況が確認できるようになります。
*SAP 社が提供するERPパッケージ製品のラインアップや機能概要については、「SAPとは? 機能・特徴・製品種類をわかりやすく解説」をご覧ください。
SAP S/4HANAは、従来のSAP ERPからアーキテクチャを全面的に再構築し、データモデルを簡素化しています。同時にSAP HANAを採用することにより、高速なデータ処理を実現しました。従来のSAP ERPではSAP社以外が提供している主要なデータベース製品を選択可能でしたが、SAP S/4HANAではデータベースとして利用できるのはSAP HANAのみとなっています。
また、SAP S/4HANAの構築環境はオンプレミスでもクラウドでも自由に選択することができます。Amazon Web Services(AWS) / Microsoft Azure / Google Cloud Platform(GCP)などのパブリッククラウド上にも構築可能なため、より戦略的な情報システムを構築することが可能となっています。
その他、SAP社がインフラ提供や運用代行まで担うクラウド ERP 「SAP S/4HANA Cloud」も存在します。
* 「SAP S/4HANA Cloud」 については、SAP S/4HANA Cloud Public Edition とは?」をご覧ください。
SAP S/4HANAの特徴をまとめます。
- インメモリデータベース「SAP HANA」を採用することにより、データ処理速度を向上
- SAP HANAのデータ圧縮効果により、ストレージコストを削減
- SAP S/4HANAは、オンプレミスはもちろん、クラウド(プライベートクラウド/パブリッククラウド)上にも構築可能であり、SAP社がインフラ提供や運用代行まで担うクラウド ERP 「SAP S/4HANA Cloud」も存在する
SAP HANA と SAP S/4HANA の違い まとめ
ここまで、SAP HANAとSAP S/4HANAの違いや特徴を解説して参りました。
SAP HANAは新しい種類のデータベースであり、このSAP HANAを搭載したERPパッケージ製品が、SAP S/4HANAです。
本ブログ記事と出会いをきっかけに、SAP HANA 及び SAP S/4HANA についての理解を深め、次世代の情報システム構築に向けて検討してみてはいかがでしょうか。
また、SAP HANAにまつわる疑問を皆さまにわかりやすくご説明しているブログ記事もございますので、併せてご覧ください。
https://erp.dentsusoken.com/blog/hana-vol-67/
※本記事は、2024年7月1日時点の情報をもとに作成しています。製品/サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。
https://erp.dentsusoken.com/inquiry/