SAP S/4HANAの会計機能「銀行統制勘定」とは?(vol.95)

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SAP S/4HANAでは、SAP ECC6.0以前には存在しなかった多くの新機能が登場する一方、一部の従来機能については廃止されるなど、機能面での向上を目的とした多くの変更が発生しています。

そこで本ブログ記事では、SAP S/4HANA 2020より追加された新機能の一つである「銀行統制勘定(現金勘定)」について、その概要とメリット、カスタマイズ等の設定方法について解説します。

SAP S/4HANAの会計モジュール機能:銀行統制勘定(現金勘定)とは?

まずは、SAP S/4HANA特有の勘定科目の種別の一つである「統制勘定」とはどういったものか、解説します。

統制勘定とは、総勘定元帳への記帳に加え、より詳細に取引先別あるいは資産別といった切り口で記帳額や残高を管理するための機能といえます。

「統制勘定」 例

  • 得意先統制勘定:総勘定元帳への転記と同時に得意先別の補助簿にも記帳
  • 仕入先統制勘定:総勘定元帳への転記と同時に仕入先別の補助簿にも記帳
  • 資産統制勘定:総勘定元帳への転記と同時に資産台帳にも記帳

この統制勘定に類する新たな概念のひとつに「銀行統制勘定(現金勘定)」があります。
得意先統制勘定が得意先別の取引額を管理しているように、銀行統制勘定は銀行口座別の取引額を管理しています。

「銀行統制勘定(現金勘定)」は、SAP S/4HANA 2020から新たに追加された勘定コードマスタの種類です。
従来のSAPの勘定コードマスタ機能では、取引する銀行(口座)や支払方法単位で勘定コードマスタ(銀行勘定及び銀行仮勘定)を設定する必要があり、多くの取引銀行口座を管理する企業にとっては、その分だけ勘定コードマスタが増えてしまうという課題がありました。また、勘定コードマスタのメンテナンスや管理に手間がかかることに加え、(一部の例外を除いて)新たな勘定コードの登録にあたって承認を得る必要があり、新たな銀行で支払処理を行うたびに、承認を待つ必要がありました。

新機能である「銀行統制勘定(現金勘定)」は、「一つの銀行勘定」 「支払方法に応じた銀行仮勘定」のみ、あらゆる取引銀行/支払方法に対応して支払処理を可能とする機能です。したがって、新たな取引銀行口座を追加した場合でも、勘定コードマスタの追加は不要で、取引銀行関係のカスタマイズのみ変更すれば支払処理が可能となります。この新機能により、業務の変化に円滑に対応できるようになりました。

SAP S/4HANAの会計モジュール機能:銀行統制勘定(現金勘定)の設定方法とは?

次に、「銀行統制勘定(現金勘定)」の設定方法について解説します。

  1. 勘定コードマスタ
    まずは、勘定コードマスタの登録(Tr-cd:FS00)で以下の設定をします。

    銀行統制勘定
    GL勘定タイプ 現金勘定
    GL勘定subtype B

    銀行仮勘定
    GL勘定タイプ 現金勘定
    GL勘定subtype S
    統制勘定 紐づけの対象となる銀行統制勘定

    上記のとおり、
    ・ 新たなGL勘定タイプの「現金勘定」を設定すること
    ・ 新たに追加された項目である「GL勘定subtype」を設定すること
    ・ 勘定コードマスタレベルで「銀行統制勘定」と「銀行仮勘定」の紐づけを行うこと
    が従来の銀行関連の勘定コードマスタの設定と異なる点となります。

  2. 取引銀行口座
    取引銀行口座に対して「銀行統制勘定」として設定している勘定コードを設定します。
    Basic cash management のFioriアプリである「銀行口座管理」から、
    ・ [銀行統制勘定]:「はい」
    ・ [G/L勘定]:該当する銀行統制勘定
    となるように設定します。
  3. 設定:電子銀行報告書グローバルセッティング
    支払方法に応じた勘定シンボルを設定し、銀行仮勘定の勘定コードを割り当てます。
    例えば、
    ・ 銀行勘定: 11000000
    ・ 銀行仮勘定:11000020
    の場合、エントリに追加する銀行仮勘定は「++++++20」といった形でマスクした状態で登録することも可能です。
  4. 割当:勘定シンボル→支払方法
    国コード、支払方法ごとに上記で定義及び勘定コード割当を行った勘定シンボルを紐づけます。

その他、自動支払処理における銀行選択などの設定は、定義した取引銀行で従来通り設定を行う必要があります。

SAP S/4HANAの会計モジュール機能:銀行統制勘定のメリットとは?

最後に、「銀行統制勘定」の導入メリットを解説します。

銀行統制勘定のメリット

  • システムで銀行口座を新規登録する際、資金管理部門と総勘定元帳部門間の照合作業が削減される
  • 総勘定元帳における、銀行勘定と銀行仮勘定の数が(長期的に見ると)削減される

従来のようにGUIによる勘定コードレベルでの口座別残高の確認はできなくなりますが、SAP S/4HANAのユーザーライセンスがあれば(追加ライセンス不要で)、Fioriから「Basic cash management」の機能を利用することで、銀行口座毎のキャッシュポジションなどを確認できます
※「SAP S/4HANA Cash and Liquidity Management」ライセンスを追加契約すれば、日次資金繰りや流動性管理など、さらに多くの機能を利用可能です。

また、取引銀行口座のマスタデータ設定により方式を管理できるため、従来の銀行口座ごとに勘定コードを設定する方式との並行利用が可能です。そのため、段階的な導入や、現行業務で勘定コードレベルでの口座残高確認を行っていない銀行口座のみを適用するなど、利用開始のハードルが低いことも特徴です。

*ご参考:「SAP S/4HANA Basic cash management」の主要機能(Fiori App)
・ 取引銀行,銀行口座管理(インポートエクスポート/照会 など)
・ 銀行口座残高照会
・ 流動性予測照会
・ メモレコードの編集/照会 など

まとめ

さて今まで、SAP S/4HANAの勘定コードマスタの種別の一つである「銀行統制勘定(現金勘定)」について解説して参りました。SAP S/4HANAの標準機能はバージョンアップ毎に、運用面/業務面でシンプルかつ効率的に処理/管理できるよう改善されています。
SAP S/4HANAをご利用中の皆さまも、今からSAP S/4HANAをご利用予定の皆さまも、是非、これらの新機能を活用することで、業務をより効率化/高度化いただければと思います。

弊社は、既存のSAP ECCからSAP S/4HANAへの移行にあたり、「選択データ移行」という手法を用いることで、現行システムのデータの変換や統廃合をしながらの移行を可能とします。
これにより、現行業務を踏襲しつつ、新機能を活用した運用課題/業務課題へのアプローチも同時にご提案できます。
(例:SAP S/4HANA移行のタイミングで、現行の勘定コードマスタの体系を見直し、銀行関係の勘定コードを銀行統制勘定へと集約させる など)

もちろん、今からSAP S/4HANAの新規導入をご検討中の皆さまや、SAP S/4HANAをご利用中の皆さまにも、各社の状況に合わせた最適なご提案が可能です。SAP S/4HANAの新機能活用についてご検討される場合は、是非、電通総研までお問い合わせいただければと思います。
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