SAP EWM とは?(vol.82)

  • 公開日:2022.09.05

SAP S/4HANAにおいて、棚番レベルで在庫管理を行なう際に必要となるSAP EWMですが、日本語による解説は少ないかと思います。
そこで本ブログでは、SAP EWMの導入経験があるSAPコンサルタントによる実体験を交えながら、SAP EWMとSAP S/4HANAとの連携方法やライセンス形態について解説します

SAP EWMとは? ~EWMとERPは別システム?~

SAP EWM(Extended Warehouse Management)とは、複合倉庫における各種在庫移動処理と在庫管理を実現するソリューションです。これにより、倉庫でのロジスティクスプロセスすべての処理を、計画に基づいて効率的に行うことが可能となります。

SAP EWMはSAP S/4HANAで利用できるモジュールですが、FI/CO/SD/MM/PP/PSのような標準のERP機能とは異なる別システムの位置付けになっていると言えます。これは元々、SAP EWMという別システムをSAP ERPに統合した名残だと思われます。

別システムと感じる理由

EWMとERP機能はQRFCによる通信で連携しています。SDで請求伝票を登録した際、一連のプログラムによる処理でFI伝票が登録されますが、EWMとERP間はそれとは異なり、RFC通信キュー(QRFC)を利用して連携します。ほぼリアルタイムに連携しますが、一度処理が途切れるため、排他処理などでエラーが発生すると通信キューにデータが残り、ERP側のデータとEMWのデータが不一致の状態となりえます。運用パターンを洗い出し、想定される連携エラーについて、運用で対処、BADIによるチェックロジックで防止するなど、対応策を考える必要があります。

SAP S/4HANAとEWMの連携フロー

ここからは、SAP S/4HANAの各ERPモジュールとEWMの連携フローについて解説していきます。連携において、EWM対象と判定するのは保管場所の設定です。保管場所の設定がEWMの場合は、EWM側に連携され、そうでなければ通常のERPプロセスとなります。
*以降で解説する連携対象となるSAP S/4HANAの導入対象モジュールは、FI/CO/SD/MM/PP/PS/EWMです。EWMの利用目的は棚番管理のみのため、EWMを最もシンプルに利用するモデルケースかと思います。

<PP製造指図とのEWM連携フロー>

  1. 製造指図伝票をリリースすると払出品目についてEWM側に生産品目要求が登録されます。
  2. EWMにて生産品目要求に対して倉庫タスクを登録します。払出ルールによりEWM上で在庫が引当されます。
  3. 倉庫タスクを確認すると引当した在庫が作業区に紐付く棚番(指図払出用の棚番※1)に移動します。
  4. 生産による消費という機能を利用して倉庫タスクを作ることにより※1の棚番から出庫され、製造指図についても出庫処理が行われます。
  5. 製造指図の親品目を入庫するために、EWMにて入荷伝票を登録します。
  6. EWMの入荷伝票を入庫すると、中継の棚番※2に入庫されます。この時点で製造指図伝票に対する入庫が行われます。
  7. 入荷伝票に対して倉庫タスクを登録します。固定棚マスタが設定してある場合は、入庫先の棚番※3が提案されます。
  8. 倉庫タスクを確認することで※2の棚番から※3の棚番に在庫が移動されます。

ご覧の通り、これはかなり長いステップです。これでは運用できないと思うのではないでしょうか?
私達も当初、ここは導入において大きな懸念点でした。この懸念点については、後述の在庫同期機能により解消されることになります。

<MM購買発注とのEWM連携フロー>

  1. 購買発注伝票からERPの入荷伝票を登録すると、EWM側にも入荷伝票が登録されます。
  2. EWMの入荷伝票を入庫すると、中継の棚番※1に入庫されます。この時点で購買発注伝票に対する入庫が行われます。
  3. 入荷伝票に対して倉庫タスクを登録します。固定棚マスタが設定してある場合は、入庫先の棚番※2が提案されます。
  4. 倉庫タスクを確認することで※1の棚番から※2の棚番に在庫が移動されます。

製造指図伝票ほどではありませんが、ERPのプロセスに慣れた方からすると、ステップ数は多いと感じると思います。こちらも在庫同期機能により懸念は解消されることになります。

<SD受注とのEWM連携フロー>

  1. 受注伝票からERPの出荷伝票を登録すると、EWM側にも出荷伝票が登録されます。
  2. EWMの出荷伝票に対して倉庫タスクを登録します。払出ルールによりEWM上で在庫が引当されます。
  3. 倉庫タスクを確認すると引当した在庫が中継の棚番※1に移動します。
  4. EWMの出荷伝票を出庫すると※1の棚番から出庫されます。この時点でERPの出荷伝票の出庫確認が行われます。


SAP対応データ連携/BIツールの最適解

これは便利! SAP EWMの在庫同期機能とは? ~EWM meets MIGO!~

前章で解説したように、製造指図や購買発注の処理ステップは複雑で、導入時の課題になる可能性が高いです。また、「ERPの処理のようにMIGOで棚番指定して処理ができないの?」と思われるかもしれません。従来のEWMでは、MIGOでEWM対象データを処理するとエラーになりましたが、SAP S/4HANA 2020 FPS01より在庫同期機能(Synchronous Goods Movements)がリリースされました。これより一部の処理についてMIGOの操作でERPとEWMを同時処理できるようになりました。これにより製造指図や購買発注の処理ステップの短縮が実現され、QRFCは利用しないため、ERPとEWMのデータ不一致が解消されます。在庫同期機能を適用した場合は製造指図と購買発注の処理ステップは以下のようになります。

<PP製造指図とのEWM連携フロー(在庫同期機能を使用)>

  1. 製造指図伝票をリリースすると払出品目についてEWM側に生産品目要求が登録されます。
  2. EWMにて生産品目要求に対して倉庫タスクを登録します。払出ルールによりEWM上で在庫が引当されます。
  3. 倉庫タスクを確認すると引当した在庫が作業区に紐付く棚番(指図払出用の棚番※1)に移動します。※ここまでは同じです
  4. MIGOにて製造指図参照の出庫を行います。MIGOの倉庫管理タブに※1の棚番が表示されます。出庫によりEWMの倉庫タスクが登録されます。登録された倉庫タスクはMIGOの画面に表示されます。
  5. 製造指図の親品目を入庫するために、MIGOで製造指図参照の入庫を行います。MIGOの倉庫管理タブの棚番に入庫先の棚番を入力します。入庫によりEWMの倉庫タスクが登録されます。登録された倉庫タスクはMIGOの画面に表示されます。

<MM購買発注とのEWM連携フロー(在庫同期機能を使用)>

  1. MIGOにて購買発注参照の入庫を行います。MIGOの倉庫管理タブの棚番に入庫先の棚番を入力します。入庫によりEWMの倉庫タスクが登録されます。登録された倉庫タスクはMIGOの画面に表示されます。

製造指図と購買発注の処理ステップは短縮されます。またMIGOで処理できることにより、EWM対象の保管場所とEWM対象外の保管場所の処理を同一オペレーションで行えるというメリットもあります。
2022年7月現在では、在庫同期機能は一部機能までのサポートとなっていますが、S/4HANA2022にて機能が強化され、MIGOでほぼすべての処理が可能になることが期待されています。新機能のリリースを楽しみに待ちたいと思います。

SAP EWMのライセンスとは? ~コア課金とエンジン課金~

SAP EWMの機能は豊富で、棚番管理はもちろん、ヤード管理や在庫配置最適化など、倉庫管理関連する多くの機能があります。注意点として、同じEWMの機能であっても、コア課金ではない、エンジン課金の機能があります。
切り分けがわかりにくいのですが、1つの目安として、倉庫の使用モードがあります。「基本倉庫管理」と「拡張倉庫管理」があり、前者で動作する機能はコア課金機能、後者で動作する機能はエンジン課金と考えることができます。
なお、棚番管理するのみであれば「基本倉庫管理」で十分です。

まとめ

ここまで、SAP EWMについて、SAP S/4HANAとの連携方法や、新機能である在庫同期機能、ライセンス形態について解説して参りました。
もしかしたら、ここまで読んで、「使いづらい機能だな……」とネガティブな印象を持たれた方もいるかもしれません。正直、私達も導入当初はそのように感じた部分もありますが、まずは要件として必ず対応しなければいけないポイントを中心に、それを行うために最小限の構成で、最もシンプルに利用するのが良いと考えています。
冒頭で述べた通り、SAP EWMについて日本語の解説はあまりないと思います。私達も、導入作業における必要な情報の収集はすべて英語で行いました。技術的に詳細な情報を把握したい場合は、英語でインターネット検索することをおすすめします。SAP EWMについて、いつの日か、日本語で有益な多くの情報を見つけられるようになることを願っています。

弊社電通総研は、過去の知見から、お客様のニーズに合わせた最適な構成で、SAP EWMをご提供できます。SAP S/4HANAの新規導入やSAP ERPからの移行に伴う在庫管理の課題解決をご検討の場合は、是非、電通総研までお声掛けください。
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本ブログは、2022年7月15日時点の情報を基に作成しています。製品・サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。