SAPテスト自動化はなぜ進まない?303社調査でわかった壁と解決策(vol.129)
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「必要だと分かっているのに、誰も動かない」——SAPのテスト自動化をめぐって、多くの企業がこの膠着状態に陥っています。
2026年6月、私たち電通総研は「SAP運用、テストをベンダー任せにすることでコスト増と品質不安を招いていませんか?」と題したセミナーをPanaya社と共催開催しました。303社へのSAPユーザー意識調査をもとに、この「進まない理由」を3つの数字で解き明かし、後半ではテストソリューションを提供するPanaya社との対談を通じて、具体的な突破口を探りました。
本記事では、私たちがセミナーでお伝えした内容を軸に、Panaya社の言葉も交えながら、SAPテスト自動化が進まない構造的な理由と、少人数のIT部門でも始められる現実的な進め方を解説します。
「3つの数字」から始まったセミナー
私たちがセミナーの冒頭でお伝えしたのは、3つの数字でした。
SAPユーザー303社の意識調査から見えた重要な数字——それが、54.9%、82.5%、そして31.0%です。
この3つは、それぞれ「テスト自動化の必要性」「進まない構造的な理由」「今こそ動くべき理由」を象徴しています。

▲ SAPユーザー303社調査で見えた3つの数字(54.9%・82.5%・31.0%)
講演の冒頭では、参加者の皆さまにライブアンケートも実施しました。「いま一番の課題・関心事はどれか」を尋ねたところ、回答は「テスト品質」「ベンダー依存(IT部門のリソース不足)」「テスト自動化のROI」に分かれました。いずれも、上記の3つの数字が指し示す論点と、そのまま重なります。
調査は、SAP製ERPを導入する国内企業を対象に実施され、有効回答は303社(SAP ECC 6.0ユーザー169社、SAP S/4HANAユーザー134社)。日本のSAPユーザーの“いま”を映し出すデータです。
なぜこの数字が、SAPテスト自動化のカギになるのか。ひとつずつ見ていきましょう。
■調査概要
調査名称 SAPユーザー意識調査アンケート2025
調査主体 株式会社電通総研
調査方法 電通総研の独自アンケート方式
調査対象 SAP製ERPを導入する国内企業 1,300社(有効回答303社)の担当者様
有効回答303社の内訳
SAP ERP Central Component (ECC)6.0 ユーザー169社
SAP S/4HANAユーザー 134社
※両方利用している1社はいずれにも加算
調査実施日 2025年9月10日〜2026年2月28日
出典:電通総研SAPソリューション https://erp.dentsusoken.com/download/ebook_sap-user-researchreports2025/
54.9%——「テスト品質がボトルネックになっている」
1つ目の数字は54.9%。S/4HANA移行を終えたユーザーが挙げた「最大の課題」です。私たちは、この数字をこう受け止めています。
S/4HANA移行時の最大の課題は、アドオンの改修・構築の品質でした。54.9%のお客様が課題と回答しており、テストの品質がボトルネックになっている——そう私たちは分析しています。

▲ S/4HANA移行時の課題ランキング:アドオン改修/構築の品質が54.9%で第1位
背景には、根深い構造があります。50.9%の企業がClassic拡張(アドオン開発)を利用しており、移行時には全アドオンのリグレッションテストが必要になる。ダウンタイムを課題とする企業も37.2%にのぼり、「リハーサルごとの手動テストがスケジュールを圧迫する」状況です。
さらに強調したいのは、テストが移行時だけの問題ではない、という点です。
バージョンアップテストは、運用も含めた全テスト工数の中で見ると、およそ17%にすぎません。残りの83%は、パッチ適用や組織変更、年次業務など、日常運用で発生するテストなのです。
だからこそ、テスト自動化の効果は大きいと私たちは考えます。リグレッションテストの自動化による網羅性の確保、リハーサル回数を増やしながらのダウンタイム短縮、そしてバージョンアップテスト工数の大幅削減(一般に87%削減とされます)——こうした効果が見込めます。
解決策は明白に見えます。ではなぜ、テスト自動化は進まないのか。話は2つ目の数字へと移ります。
82.5%——登壇者が語った「不都合な真実」
2つ目の数字は82.5%。テストを含む運用を「外部ベンダーに依存している」企業の割合です(外部ベンダーが担当31.7%+社内と外部の両方50.8%)。

▲ SAP運用・保守体制の内訳:外部ベンダー依存が合計82.5%
ここで、あえて踏み込んでお話ししました。
少し言いにくいことですが、これは私たちが営業活動の中で繰り返し見聞きしてきた実態です。
手動テストの委託は、ベンダーにとって安定した売上になります。ところがテスト自動化が進むと、その売上は大きく減ります。だからこそ、お客様が自動化を相談すると、こんな反応が返ってきがちです。
「ツール習得にコストがかかるので当初は費用が上がる」「自動化スクリプトの保守にもコストがかかる」「手動テストの方が柔軟に対応できる」——いずれも嘘ではありません。ただ、2〜3年先まで見れば、初期コストは増えても2年目以降は大幅に削減できます。
そして「柔軟な対応」という言葉の裏側には、こんな構造があります。
「柔軟な対応」とは、工数のバッファーを上乗せしているということでもあり、どうしてもコストは高くなりがちです。
一方で、顧客側にも事情があります。IT部門は少人数で、テストの実態を把握しきれていない。ベンダーの説明にデータで反論できず、社内に推進者もいない。結果として生まれるのが、冒頭の膠着状態です。

▲ SAPテスト自動化が進まない構造(ベンダー依存82.5%の背景)
結果として、誰も推進しない「膠着状態」が生まれます。ベンダーには推進するインセンティブがなく、お客様にはスキルやリソースがない。必要だと分かっているのに、誰も動けない——これが実情だと私たちは見ています。
31.0%——「認識」と「行動」のギャップ
3つ目の数字は31.0%。S/4HANAユーザーが「今後取り組みたい」施策としてテスト自動化を挙げた割合です。3社に1社が必要性を認識しながら、ここまで見てきた構造のなかで動けずにいる——31.0%は、その「認識」と「行動」のギャップを示す数字です。早く動くことには、こんな意味があると私たちは考えます。
テスト自動化は、始めた時点から資産が蓄積されます。早く始めるほど再利用の回数が増え、遅く始めるほど手動テストの“捨てコスト”が積み上がっていきます。
待っている間も、パッチ適用や組織変更にともなうテストは発生し続けます。31.0%を「これから」から「今」に動かせるかどうかが、数年後のコスト差として表れます。
対談で見えた突破口——「素人が使えるツール」という発想
では、どうすればこの構造を打破できるのか。私たちは対談の場で、聴講者の代弁者として、Panaya社の山岡氏に問いかけました。
山岡氏の答えは、意外な告白から始まりました。テスト自動化は、かつては専門家でなければ無理だった——自身も30年テストに携わり、「12年前に同じ質問をされたら『無理でしょう』と答えていた」と言うのです。それを変えたのが、Panayaの成り立ちでした。
「実は、テストの素人たちがテストツールを作ったんですよ。その結果、何が生まれたかというと——『このテストツール、誰でも使えるよね』というポイントなんです」

▲ Panayaのテスト自動化ソリューション概要
※ 図中の各プラットフォームのロゴは各社の商標のため、社名・製品名のテキスト表記に置き換えています。SAP/SAP S/4HANA、Oracle、Salesforce、ServiceNow、Workday は各社の商標または登録商標です。本記事は上記各社との提携・スポンサー・推奨関係を示すものではありません。(本図はPanaya作成資料に基づく/掲載にはPanaya社の許諾確認が必要)
だから、こう言い切ります。
「エクセルが使えればPanayaの自動化ができる、という話になれば、全然話が変わってくる」
抽象論ではありません。山岡氏は、進行中の具体例を挙げました。
「今スクリプトを作っているお客さんがちょうど5社。そのうち3社がエンドユーザーさんなんです。これは過去にはなかった話なんですね」
この「プログラミング不要」「ベンダー非依存」という条件こそ、82.5%の壁を越える出発点だと私たちは考えています。
テストを任せきりにしていた関係から、より高付加価値な業務をベンダーにお願いし、こうしたテストは自分たちで巻き取っていく。ベンダーとの関係を、より良い形へ変えていけるはずです。
この考え方は、クリーンコア戦略とも結びつきます。急なクリーンコア化が難しい中で、山岡氏はテストこそが要だと指摘しました。
「クリーンコアを一回のプロジェクトで全部やり切れると思っているSIさんはいません。徐々に進めるとなった時に、絶対ボトルネックになるのがテストなんですね。だから、テスト自動化はもうマストだと思っています」
実際、自動化された回帰テストの効果は劇的だといいます。
「人がやったら2〜3ヶ月かかる回帰テストが、2〜3日で終わる。この“変更に対しての強さ”が、これからの時代に効いてきます」
この点について、私たちはこう考えています。
クリーンコアとテスト自動化は、セットで考えるべき施策です。
「使うのは7年後では?」——現場の証言が覆した誤解
対談では、経営層が抱きがちな率直な疑問も取り上げられました。
「バージョンアップは7年後。テスト自動化に今投資しても、次に使うのは7年後なので、なかなかペイできないんじゃないか——」
この誤解を、山岡氏は現場の実感で覆します。鍵は、先に示された「テストの83%は日常運用」というデータでした。

▲ 5〜7年サイクルでの投資回収:62.1%が定期バージョンアップを予定
「テスト自動化を“プロジェクト”にしないでください、というのが回答だと思います。保守運用の中で、いくらでも走らせることができる」
「あるお客様は、1〜2ヶ月で200本近いビジネスシナリオを自動化しています。手でやったら2〜3ヶ月は余裕でかかり、10人20人が張り付く。それを1人か2人でやっているんです」
さらに、従来のテスト自動化が「破綻してきた」理由——アプリの変更でスクリプトが動かなくなる問題——にも、AIによる自己修復機能で応えると説明しました。
「オブジェクトの場所が変わった、サイズが変わった、という程度であれば、Panayaはそれに気づいて、勝手にスクリプトを修正します」
「今は器(ツール)自体が簡単で、そこにAIが入ったことで、テスト自動化のハードルが一気に低くなりました」
投資対効果についても、私たちの実感をお伝えしました。Panayaの販売代理店であり、自社のプロジェクトでも活用するSI(システムインテグレーター)の立場から見て、こう感じています。
Panayaを使うことで、50%程度の削減効果は明らかにある——それが私たちの率直な手応えです。
まとめ——SAPテスト自動化を自社主導で始めるために
セミナーで語られた内容を整理すると、SAPテスト自動化の論点は次の通りです。
・54.9%が「テスト品質」を課題とし、テストが移行と運用のボトルネックになっている
・82.5%がベンダーに依存し、「誰も推進しない」膠着状態が生まれている
・31.0%が関心を持ちながら、行動に移せていない
・突破の条件は「(プログラミング不要で)簡単」「ベンダー非依存」——自社主導で始められること
・クリーンコア・S/4HANA移行とテスト自動化はセットで進める
・日常運用のテストからスモールスタートすれば、少人数でも効果を出せる

▲ SAPテスト自動化を実現する4つの条件(対談まとめ)
Q&Aで山岡氏が語った「テスト資産が手元にある強さ」は、この記事の核心を象徴しています。
「10年以上使っているお客様に『何が資産ですか』と聞くと、テスト資産が全部溜まっていて、誰にも依存せず、いざという時に自分たちでテストができる、と言うんです」
テスト自動化は単なる工数削減ではありません。ベンダーとの関係を「任せきり」から「対等なパートナーシップ」へと変え、SAP投資の効果を最大化する取り組みです。
私たち電通総研は、SAP運用・S/4HANA移行におけるテスト課題の可視化から、AIを活用したテスト自動化(Panaya)の適用までをご支援しています。「自社の場合、どこから手をつければよいか」を整理したい方は、まず現状のテスト範囲・工数・品質の棚卸しから始めてみませんか。
関連資料・問い合わせ導線
SAPユーザーの“いま”と“これから”(2025)調査レポートは以下からダウンロードいただけます。
https://erp.dentsusoken.com/download/ebook_sap-user-researchreports2025/
SAP運用・S/4HANA移行のテスト、テスト自動化にお悩みの場合は、ぜひ電通総研までお問い合わせください。
https://erp.dentsusoken.com/inquiry/
引用・出典
・電通総研「SAPユーザーの“いま”と“これから”~意識調査結果ご報告資料(2025年度版)~」(2026年4月改訂版)。調査期間:2025年9月10日〜2026年2月28日/有効回答303社(ECC 6.0:169社、S/4HANA:134社)。
・本文中の「>」引用は、2026年6月18日開催ウェビナー講演内容に基づく。
作成時点の注記
※本記事は、2026年7月時点の情報をもとに作成しています。



