SAP×AIとは?SAP Business AIとJouleの可能性(vol.118)
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近年、AIは企業の競争力を高める重要な要素となっています。
SAPにおいても、様々なAIソリューションが提供されています。それらのAIソリューションは、企業がAIを活用してビジネスプロセスを最適化し、革新的な価値を生み出す手助けをしています。
本記事では、SAPと生成AIの繋がりから、SAPのAIソリューションである『Business AI』、そして、『Business AI』の一機能である『Joule』についても解説します。
SAPシステムと生成AIのつながり
SAPのAIソリューションについて説明する前に、まず「生成AI」とは何かについて簡単に説明します。
「生成AI」とは、「Generative AI(ジェネレーティブAI)」とも呼ばれる、深層学習などの機械学習モデルを用いて、新しいデータやコンテンツを自動生成する技術です。様々な「生成AI」の中で注目を集めているのが大規模言語モデル「LLM」です。「LLM」とは大量のデータと深層学習技術で構築された言語モデルです。与えられたテキストに後続するトークン(単語やフレーズ)の確率計算に基づいて、応答を生成します。
現在ビジネス利用される「生成AI」としては、Microsoft社提供の『Microsoft Copilot』や、Open AI社提供の『ChatGPT』、アドビ社提供の『Adobe Firefly』などが挙げられます。
活用例としては、ソフトウェア開発/広告制作/商品企画/文書作成/翻訳/チャットボットのサポート対応など多岐にわたります。
基幹システムでの「生成AI」の活用方法としては、「企業独自のデータを活用したAIシナリオの実現」が想定されます。SAPの基幹システムと連携した業務プロセスにAIを組み込み、組織全体でAI活用に取り組むことで業務効率化や生産性の向上が期待できます。
特に、SAPシステム内の豊富なビジネスデータを活用し、企業独自のAIシナリオを構築することで、さらなる価値を生み出すことが可能です。
次章以降では、SAPシステムと生成AIが具体的にどのように連携されるのかを説明します。
SAP Business AIの全貌
はじめに、SAP社が提唱するビジネスに必要なAIの定義を紹介します。
SAP社はビジネスに求められるAIとは次の3つの要素を持ち合わせているものと定義しています。
- 関連性(Relevant):
業務プロセスへシームレスに組み込まれていること - 信頼性(Reliable):
各業界における広範なビジネスデータに基づく信頼性を持つこと - 責任性(Responsible):
先進的な倫理、およびデータプライバシー基準に基づいて構築されていること
これらの要素を持ち合わせたAIソリューションが『SAP Business AI』です。
『SAP Business AI』の正式名称は、『SAP BTP Business AI』です。
『SAP BTP(Business Technology Platform)』とは、SAP社が提供するPaaS型の拡張プラットフォームです。クラウドERPやサプライチェーン管理、人事システムなどの領域で、迅速にアプリケーションを開発・拡張できる基盤として位置付けられています。
*SAP BTPについては、「SAP BTPとは?機能・特徴・サービスなどをわかりやすく解説(vol.100)」にて解説しておりますので、併せてご覧ください。
この『SAP BTP』上で展開されるAIソリューションが『SAP BTP Business AI(以下、Business AI)』です。
<SAP BTP Business AIの全体像>
『Business AI』は大きく4つのレイヤーによって構成されています。
- SAP Joule(ジュール):
デジタルアシスタントの役割を担う機能です。『SAP Joule(以下、Joule)』に関しては、次章で詳細に説明します。 - 組込AI機能(Embedded AI capabilities):
SAPの業務アプリケーションに「生成AI」をあらかじめ組み込んだもので、利用者側で追加の開発を意識せずにAIを活用できる仕組みです。たとえば、以下のような業務領域に特化したAIが提供されています。
(Ex.1)SAP Cash Application FI-AR
入金明細を未決済の売掛金と自動照合し、手作業での請求書照合を大幅に削減します。売掛金の照合作業を70%削減し、DSO(売掛債権回収転日数)の短縮や売掛金の90%自動マッチングといった効果が得られます。(Ex.2)SAP Concur Request
出張費用の見積もりを最小限の入力で自動作成し、上司への申請プロセスを効率化します。調査・見積もり提出にかかる時間を83%削減できます。 - カスタムAI:
『Joule』や『組込AI機能』では対応しきれない、より固有の要件に合わせたAI機能を開発したい場合に活用される機能です。
後述の『Generative AI Hub』と『SAP HANA Cloud Vector Engine』を用いることで、最新の情報や社内データ、機密情報を活用した機能開発ができます。
例えば、製品の画像から生成AIが商品を識別して、効率的に棚卸し作業を行うアプリなどが開発可能です。 - AI基盤(AI Foundation):
企業やパートナーが自社の業務要件に合わせてカスタムAIを開発・運用するための基盤です。
『AI Services』、『AIライフサイクル管理』、『ビジネスデータ&コンテキスト』といった機能があります。
『Generative AI Hub(AI基盤上で、LLMなどの生成AIをまとめて扱いやすくする仕組み)』と『SAP HANA Cloud Vector Engine(ベクトル化した文書を保管する)』といったSAPアプリと連携した生成AIアプリケーションの開発機能もあります。
AI基盤全体としても、SAPの各サービスと連携できる上、連携パートナー各社が提供する大規模言語モデルを取り入れ、ビジネス課題に応じて最適なモデルを選択・チューニングも可能です。 - AIエコシステムにおける連携パートナー:
Microsoft やAWS、Google Cloudなど主要ベンダーと協業し、各社の主要アプリケーションとSAPを連携することで、迅速かつ柔軟なAI活用を支援します。
このように、『Business AI』は、既存のSAPソリューションに統合されるAIを中心に据えています。業務における意思決定や、生産性向上を促進させるAIソリューションです。本章では、『Business AI』の全体像に触れましたが、次章ではその中の『Joule』について深堀していきます。
聞きたいことが全部わかる?Jouleの機能と活用メリット
『Joule』とは、SAPシステムのクラウドソリューション全体を支える生成AI型デジタルアシスタントです。SAPシステムのクラウドソリューション全体を一つの窓口としてまとめ、チャット型のUIに質問内容を書くことで、どのような業務シナリオであっても、ユーザーが必要とする情報にすばやくアクセスできるようサポートしてくれます。
「LLM」を活用し、SAPシステム独自の業務データとコンテキストを組み合わせ、高度な自然言語処理によりユーザーの質問に対し、必要な業務アプリや過去履歴を参照して「ネクストアクション」や「最適な情報ソース」を提案します。
また、人事(Human Resources)/販売(Sales)/購買(Procurement)/コード生成(IT開発)/RFP作成(Sourcing)といった多様な業務領域へ展開されています。
なお、『Joule』は『SAP BTP』の機能の一種であるため、SAPシステムのクラウド製品群であるRISE with SAP および GROW with SAPを対象としており、オンプレミス環境には対応していないことに改めてご注意ください。(2024年12月時点の情報)
*SAPシステムのクラウド製品群(RISE with SAP および GROW with SAP)についての詳細は「RISE with SAP とは?GROWとの違い・ライセンスタイプ・メリット・移行方法をわかりやすく解説(vol.90)」にて解説しています。併せてご確認ください。
機能
- カスタマイズ機能:
『Joule』を顧客それぞれの業務にカスタマイズできる機能も用意されています。
『Joule Studio』は、顧客独自の『Joule』のカスタムスキルを開発できる機能です。SAPがリリースする『Joule』の標準シナリオに加えて、お客様独⾃の『Joule』シナリオを開発することができます。これにより、SAP以外のシステムとの連携を含む、オリジナルのスキルを『Joule』に追加可能になります。 - AI Agent:
『AI Agent(AIエージェント)』は各業務の細かいプロセスを行うコンサルタントをエージェントという単位で管理し、それらを組み合わせることで目的に向かって自律的に解決してくれる機能です。複数のエージェントが組み合わさることで、企業横断的なワークフローを⾃動化することができます。
例えば、請求書の誤りや紛失、クレジットの未申請、⽀払い拒否や重複⽀払いなどに対する解決シナリオを⾃律的に分析し、解決に導いてくれます。また、「Joule Studio」でエージェントを構築し、⾃社固有のプロセスを⾃動化するといったことも可能です。 - 拡張ABAP開発:
『拡張ABAP開発』には、ABAPに特化AIスキルをもつ「Joule with ABAP開発者機能」を活用できます。最新のS/4 HANA Cloudの2.5億行のABAPコードを追加学習したモデルを用いて、クリーンコア実現に向けたABAP Cloudのコードが生成できます。
また、『Joule』自体をカスタマイズできる拡張スキルも同時に発表されており、SAP Buildによるローコード/ノーコード開発と組み合わせることで、企業独自のビジネスプロセスに合ったチャットボットを実現しやすくなります。 - SAPコンサルティング機能:
『Joule』は大規模な学習データをベースに開発されており、50のSAP認定プログラム、200,000ページ以上かつ2TBものコミュニティ知識とベストプラクティスから学習しています。具体的にはSAPカスタマイズの設定方法やベストプラクティスを瞬時に回答できる『SAPコンサルティング機能』が搭載されており、調査や検証に費やしていた時間を大幅に削減する効果が期待されます。実際にSAP社内4,000人のコンサルタントが試験導入した際には、毎日2時間程度の調査コストが削減できたとの報告もあります。
ここまで、 『Joule』についてご紹介しました。『Joule』はSAPのAIソリューションの中でも中核をなす存在であり、今後さらなる機能強化と領域拡張が進む見込みです。SAPユーザーにおいても、『Joule』活用の有無で業務に大きな差が生まれる可能性があります。
まとめ
本記事では、SAPが提供する AIソリューションと「生成AI」 の関わり方、そして 『SAP Business AI』 や 『Joule』 の概要と役割について紹介しました。「生成AI」による個人レベルでの生産性向上から、今後は基幹システムの膨大なビジネスデータを活用した企業独自のAIシナリオが主戦場になります。
こうした背景の中、SAP BTP Business AIは、SAP独自の業務データ・ビジネスコンテキストに対して、高度なAI活用 を推進するための強固なプラットフォームになっていくことが予想されます。さらに、SAP Jouleは、ユーザーが自然言語ベースでSAPアプリケーションを操作・参照できるだけでなく、SAPの豊富な知見やベストプラクティスを瞬時に参照し、SAPを用いた業務効率化と意思決定の加速に繋がることでしょう。
製品・サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。お問い合わせ|電通総研 SAP SOLUTION
*本記事は、2024年12月1日時点の情報を基に作成しています。