SAPシステムの自動仕訳連携の必要性 S/4HANA導入成功のための戦略的な一手(vol.124)
- 公開日:

多くのSAP ECC6.0ユーザーは、SAP S/4HANAへの移行を単に既存システムのサポート期限(2027年問題)に対応するためだけに留まらず、次世代のビジネスモデルを支えるDX基盤を構築するための戦略的な投資と位置付けています。
移行を完了したSAP S/4HANAユーザーは、SAP S/4HANAが提供するインメモリデータベースを基盤とする高速データ処理能力と、財務会計・管理会計データを一元化するUniversal Journalという革新的なアーキテクチャを最大限に引き出し、データドリブン経営を実現することを目指していると思います。
しかし、現実には多くの企業で経費精算、資産管理、販売管理などSAP ERP以外の「周辺システム」の存在が多々見受けられ、非効率な仕訳連携・マスタ連携に依存しており、SAP S/4HANA導入後の大きな課題となっています。
SAP S/4HANAの真の価値は、「データの品質」と「スピード」によって決まります。周辺システムから流入する財務データがリアルタイムかつ高精度で統合されなければ、いかにSAP S/4HANAが高性能であっても、その価値を十分に享受することはできません。
本記事では、SAPシステムと周辺システムとのデータ連携の課題のうち「仕訳連携」にフォーカスし、SAP S/4HANA導入成功のための戦略的基盤となる「自動仕訳連携システム」の重要性を紹介します。
目次
電通総研独自調査から見えた、周辺システムとのデータ連携の課題
電通総研が2018年から毎年実施している「SAPユーザー意識調査」では、SAP ECC 6.0ユーザー、SAP S/4HANAユーザーに対し、以下のアンケートを実施しています。
内容
・SAP S/4HANA移行に向けた意識調査アンケート
・SAP S/4HANAユーザー企業の利用実態調査アンケート
SAP ECC 6.0ユーザーへの設問のうち、Q9「SAP S/4HANA移行にあたり、コスト面以外ではどのような課題や懸念事項が挙げられますか?」では、下記のような回答が挙げられました。
SAP S/4HANA移行検討中ユーザー企業の回答(一部抜粋)
・インターフェース(基幹システムをはじめとした既存システムとの連携がスムーズにいくか不安)
・インターフェースが非常に多いこと、テストの負担が大きいこと
・データ項目のコンセプトが大きく変わったと聞いたので、SAP S/4HANA移行時のデータ移行/変換が心配

また、SAP S/4HANAユーザーへの設問のうち、Q16「SAP S/4HANAのご利用にあたり、どのような課題や懸念事項がございますか?」では、下記のような回答が挙げられました。
SAP S/4HANAユーザー企業の回答(一部抜粋)
・ユーザーインターフェースの改善(モジュール毎に実行ボタンが違う)
・他システムとの連携が難しい点

課題や懸念事項の一つに、「インターフェース」や「周辺システムとの連携」が挙げられていることが分かります。
これらの課題を細分化すると以下のような現状が見えてきます。
周辺システムが抱える「データサイロ化」の現実
多くの周辺システムは、それぞれ独自のデータ構造を持ち、SAPシステムとのデータ連携がシステム的に分断されている「データサイロ化」の状態にあります。 データサイロ化は、特に財務報告の際に大きな障壁となります。 周辺システムで発生した取引データ(トランザクション)をSAPシステムに仕訳データとして取り込む際、システム間でシームレスな接続がないため、データの加工や転記に多大な工数とリスクが生じてしまうのです。
経理財務業務のボトルネックとなる「手動連携」の弊害
周辺システムとのデータ連携において、経理財務部門または、情報システム部門が、周辺システムから抽出されたデータをSAPシステムに取り込む作業を手動で行っている企業もあります。この過程で発生したヒューマンエラーが、「転記ミス」という形で財務データに組み込まれるとデータ品質が損なわれてしまいます。
決算早期化を阻害する「データ遅延」
周辺システムとのデータ連携が依然としてバッチ処理や、手動でのデータ抽出・転記に依存している場合、連携のタイムラグがそのまま月次決算や四半期決算のリードタイムを決定づけることになります。手動プロセスは、迅速性を欠くだけでなく、仕訳ロジックの適用や承認フローが属人化しやすく、経理財務部門の負荷を特定時期に集中させます。
これにより、SAP S/4HANAのメリットとされる「決算処理の迅速化」や「リアルタイムの可視性」 を十分に享受できず、大規模なERP投資効果が限定的になってしまうという課題が生じます。
SAPシステムと周辺システムの仕訳連携の実態
「インターフェースの改善」や「周辺システムとの連携」は、SAP S/4HANA移行や運用において避けて通れない重要なテーマです。特に、周辺システムからSAPシステムへの「仕訳連携」は、経理財務業務の効率化やデータ品質の向上に直結するため、多くの企業にとって大きな課題となっています。
以下では、この「仕訳連携」に焦点を当て、その具体的な方法や課題について詳しく見ていきます。
SAPシステムと周辺システムの「仕訳連携」は、大きく4つの方法に分けられます。
- 手動データ変換とマニュアル転記
- アドオン(ABAP)開発
- 標準APIまたは統合プラットフォーム(BTPなど)の活用
- 自動仕訳連携システムの導入
現在、多くの企業が「1. 手動データ変換とマニュアル転記」または「2. アドオン(ABAP)開発」に依存しており、これがSAPシステムの運用を複雑化させる要因となっています。
周辺システムとの仕訳連携手法
ここでは、前述した4つ仕訳連携手法のポイントを解説します。
1. 手動データ変換とマニュアル転記
システムから抽出されたCSVやExcelデータを、経理財務部門担当者が手動で編集・加工し、SAPシステムの汎用トランザクションやインプットツール(LSMWなど)を使って転記する方法です。
この方法は、柔軟に対応できる反面、前述の通り、仕訳ロジックの適用が担当者のスキルに依存し、転記ミスのリスクが非常に高いという致命的な欠陥を持ちます。
また、仕訳の発生源(周辺システム)からSAPシステムに転記されるまでにタイムラグが生じるため、リアルタイムに経営情報を把握できません。
これは、ガバナンスが厳格化する中で、内部統制における監査証跡の完全性を確保する上でも大きなリスクとなります。
2. アドオン(ABAP)開発
周辺システムとのインターフェースをABAP(SAPシステム独自のプログラミング言語)で個別開発し、バッチ処理でデータを取り込む方法です。
SAP ECC6.0を長期間利用してきた企業では、この方法が主流でした。しかしSAP S/4HANAへの移行を検討する際、このアドオン開発に依存した連携手法は、深刻な「技術的負債」となります。
SAP S/4HANAは、Universal Journalという新しいデータ構造を核としていますが、アドオン開発された旧来のインターフェースは、この新しいデータ構造や技術基盤に適合しない場合があります。
この手法は、対応コストと期間を大幅に増加させるだけでなく、SAP S/4HANAの標準機能(業務の標準化・効率化)を活かせない「個別最適化」のシステムを温存することになり、システムの継続的な保守・運用・バージョンアップ時にも恒常的なコストが発生し続けます。
3. 標準APIまたは統合プラットフォーム(BTPなど)の活用
SAP Business Technology Platform(BTP)などの最新の統合プラットフォームや、標準のAPIを利用して、APIファーストの接続を確立する方法です。
周辺システムとの接続を標準化し、SAP S/4HANAのコア機能に影響を与えない形でデータ連携基盤を構築します。
コア機能の改修を行わないためメンテナンス性が高まり、システムの継続的な保守・運用や、バージョンアップコストの削減を実現します。
4. 標準APIまたは統合プラットフォーム(BTPなど)の活用
専門の自動仕訳連携システムを利用し、周辺システムからSAPシステムへの仕訳連携を自動化する方法です。
周辺システムのトランザクション発生と同時に、複雑な仕訳ロジックを外部システムで標準化・集中管理し、SAP S/4HANAにリアルタイムで仕訳データを連携します。
この方法は、特に多岐にわたる周辺システムや複雑な仕訳ルールを持つ企業において、SAP S/4HANAのインメモリ・アーキテクチャのメリットを最大限に享受するための前提条件となります。
周辺システムとの仕訳連携手法とSAP S/4HANA移行・運用上の課題一覧

自動仕訳連携が実現するSAP S/4HANAの真価
周辺システムとの連携に関して、手動連携や個別最適化のアドオン開発から脱却し、自動仕訳連携システムへ切り替えることは、SAP S/4HANAのインメモリ・アーキテクチャが持つポテンシャルを引き出す戦略的な一手です。自動仕訳連携は、単なる経理業務の効率化に留まらず、経理財務部門の役割自体を戦略的なものへと変革させます。
自動仕訳連携が実現するSAP S/4HANAの真価について考えてみましょう。
データの統合による「自律型財務」
SAP S/4HANA導入により期待できる効果の一つが、経理財務部門が反復的な作業から解放され、戦略的な意思決定支援に集中できる状態、すなわち「自律型財務(Autonomous Finance)」です。
自動仕訳連携システムは、周辺システムのトランザクション発生時に即座に仕訳ルールを適用し、正確性の保証された仕訳データを生成・連携します 。このプロセスで人手を介さないデータの統合が実現することで、ヒューマンエラーの混入が排除され、AIが信頼できるインサイトを生み出すための「データ品質」が確保されます 。
システム改修負荷を最小化するアーキテクチャの標準化
SAP S/4HANAへの移行プロジェクトにおいて、既存のアドオン開発が原因で発生する、コンバージョンコストと期間の増加は深刻な課題です。
自動仕訳連携システムは、仕訳ロジックの管理や周辺システムとの接続部分をコアシステム(SAP S/4HANA)から切り離し、標準化します。これにより、SAP S/4HANA導入時のカスタムコード改修の負荷を削減できます。またSAP S/4HANAのコアに手を加えずに接続が行えるため、周辺システムの変更やSAP S/4HANAバージョンアップの際メンテナンス性が向上し、属人化の解消にもつながります。
Ci*X Journalizerが実現する自動仕訳連携
自動仕訳連携システムの中でも、電通総研のCi*X Journalizer (サイクロス ジャーナライザー)は、特にSAP S/4HANAの要件に最適化され、複雑な周辺システムとの仕訳連携の課題を根本から解決するために設計されたシステムです。
以下、Ci*X Journalizerの特長を説明します。
ノンプログラミングで実現する柔軟な仕訳ロジック
Ci*X Journalizerは、あらゆる仕訳化要件に対し、アドオン開発に頼らず、ノンプログラミングで対応できます。
またETL機能を標準装備し、複数帳簿や様々な入出力要件にも設定のみで柔軟に対応可能です。
これにより、周辺システムの追加や変更が発生した場合も、システム部門による大規模なコーディング作業なしで、SAPシステムとの迅速な連携を実現します。
SAP S/4HANAのポテンシャルを活かす高速処理
Ci*X Journalizerは、仕訳化処理をインメモリ化し、さらにマルチスレッド化することで、仕訳データ作成の超高速化を実現します。トランザクションデータが爆発的に増加しても、パフォーマンスを維持し、SAP S/4HANAの「リアルタイムの可視性」 を後押しします。
監査証跡とデータ品質の完全保証
Ci*X Journalizerは、自動生成された仕訳データの信頼性を担保するため、仕訳データ(アウトプット)とその元となったソースデータ(周辺システム)との完全な紐づけ情報を保持します。
会計システム上の仕訳データから元データまでを追跡できる「ドリルスルー機能」により、エラー発生時の追跡が容易になり、ボトルネックの解消を迅速化。正確性を保証することで、コンプライアンスリスクを低減します 。
Ci*X Journalizerの詳細をみる
https://gms.dentsusoken.com/cix/solution/journalizer/
まとめ: SAPシステムの自動仕訳連携の必要性
SAP S/4HANAへの移行は、単なる技術的なバージョンアップではなく、企業全体のビジネスプロセスとデータ活用のあり方を見直し、変革する機会でもあります。
仕訳連携の自動化は、SAP S/4HANAの真価を引き出し、「自律型財務」を実現するための重要なピースです。移行を控える企業にとっては、レガシーな連携手法が技術的負債として移行の足かせとなることを避けるため、SAP S/4HANAプロジェクトと並行して導入することが有効です。
一方、すでにSAP S/4HANAを導入した企業にとっても、決算早期化やデータ品質向上といった当初の目標を達成できていない場合、個別のアドオンに依存した古い連携手法を見直し、標準化された自動仕訳システムへ切り替えることは、システムの継続的な有効活用とTCO削減のために不可欠な施策となります。
Ci*X Journalizer は、高速処理、ノンプログラミング対応、柔軟な周辺システム連携といった特長により、SAP S/4HANAの複雑なデータ連携要件に確実に応えます。
レガシーな連携手法から脱却し、デジタル技術を継続的に有効活用できる環境を構築することで、SAP S/4HANAへの投資効果を最大化し、競争優位性の高いデータドリブン経営の実現を強力に後押しします。
Ci*X Journalizerの概要をみる
https://gms.dentsusoken.com/cix/solution/journalizer/
Ci*X Journalizer概要資料をダウンロード
https://gms.dentsusoken.com/cix/document/1952/
Ci*X Journalizeに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。
https://gms.dentsusoken.com/cix/contact/
*本記事は、2025年12月1日時点の情報を基に作成しています。



