ERPとは?基幹システムとの違いやCloud化についてご紹介(vol.119)
- 公開日:

企業経営では、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源の関連性や使用傾向を把握することで、迅速な意思決定をすることが求められます。ERP(Enterprise Resource Planning)システムは、経営資源を一元管理し、最適に活用することを目的とし、多くの企業で導入されています。
本ブログ記事では、ERPの基本概念から、昨今のトレンドであるCloud ERPについて解説のうえ、企業経営におけるERPシステム導入のメリットを探ります。
*本ブログの「SAPシステム」は、「SAP ECC6.0」および「SAP S/4HANA」を指します。
目次
ERPとは? ~ERPシステムについても解説~
ERPとは、企業活動に必要な資源の使い方を考える経営手法です。
企業活動に必要な資源とは、「ヒト・モノ・カネ・情報」です。これらの使い方を考えるということは、最も効率的に使うための計画を立てることです。
具体的な「企業活動」や、必要な資源「ヒト・モノ・カネ・情報」には、下記のようなものがあります。
|
必要な資源 |
||||
ヒト |
モノ |
カネ |
情報 |
||
企業活動 |
購買 |
発注担当者 |
発注した材料 |
発注にかかる費用 |
よく買う/安い仕入先 |
製造 |
製造の作業員 |
製造に使った機械や材料 |
作業時間の時給 |
完成品の歩留まり率 |
|
販売 |
商品の営業担当者 |
販売する商品 |
販売による利益 |
よく受注してくれる得意先 |
|
財務会計 |
経理担当者や会計士 |
事務用品 |
資産、負債、資本、収益、費用 |
電子記録債権 |
|
管理会計 |
原価、予算 |
部門別の収益や費用 |
※上表は一例です。
上表のような資源の使い方の考え方として、次の3点などが挙げられます。
・この材料に費用がかかりすぎているので、仕入先を変えよう
・この商品は利益率が悪いから、販売数量を減らそう
・この商品の製造に時間がかかりすぎているから、作業員の増員や機械化を検討しよう
以上の例のように、コスト削減や生産性の向上を目的とし、企業活動に必要な資源を効率的に分配する考え方が、ERPです。
ERPシステムとは?
ERPシステムとは、企業活動に必要な資源の使い方を検討し、最適なERPを実現するためのシステムです。
具体的には、資源のデータを一つのシステムに集約することで、例えば仕入から製造までのリードタイムの計算等の分析を可能にします。
このように、個別の企業活動(仕入業務や財務会計など)の枠を超えた資源の分析ができるという点がERPシステム導入の大きな利点です。
ERPシステムと基幹システムの違いは?
ERPシステムと基幹システムは大きく目的が異なります。
- ERPシステムの目的:企業活動に必要な資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の最適化
- 基幹システムの目的:企業活動における特定の基幹業務プロセスの効率化
ERPシステムは、前章に記載した通り、企業活動に必要な資源を一元管理するシステムです。
これにより、各企業活動に資源を最適に配分することができるため、企業活動全体の効率化につながります。
一方、基幹システムは、基幹業務システムとも言われ、その名の通り企業活動の基幹業務を支えるシステムです。基幹業務とは、前述の表に記載の業務(購買・製造・販売・財務会計・管理会計など)を指します。
例えば、紙で管理していた伝票をシステム上で管理するように変えるなど、各業務の効率化につながります。
ERPシステムは、企業全体の業務を統合的な視点から管理し、経営における意思決定に活用したい企業に適しています。
一方、基幹システムは、特定の基幹業務のプロセスに課題を感じており、改善し効率化したい企業に適しています。
昨今注目を集めるCloud ERPとは?
Cloud ERPとは、クラウド環境で動くERPシステムで、インターネットを通じてアクセスできます。前章にて取り上げた主要なERPシステム/パッケージ製品もすべてCloud ERPであり、現在のERPシステムのトレンドとなっています。Cloud ERPのメリット・デメリットをご紹介します。
Cloud ERPのメリット
- 短期間・低コストでの導入が可能
社内サーバの設置が必要ありません。そのため、設置にかかる初期費用を大幅に削減できます。 - 保守・運用の負担が軽い
システムは通常、法令対応やセキュリティ対応に伴うソフトウェアのバージョンアップなどの保守・運用を必要とします。これらを管理するには専門的な知識が必要です。しかし、Cloud ERPの場合はベンダーが保守・運用を担うため、人材確保や管理業務の負担を軽減することができます。
また、多国籍企業の場合は上記のような法令対応が各国で必要となるため、Cloud ERPを導入するメリットがより大きいです。 - 時間・場所を問わずに利用可能
時間・場所・端末を問わず、インターネットへ接続があれば利用できます。例えば、タブレットで利用できるようにしておけば、倉庫内を歩き回りながら作業可能です。また、商品の在庫などの情報がリアルタイムでシステムに反映されるので、営業の機会を創出できます。
- BCP対策になる
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、企業が災害などにより危機的状況下におかれた場合でも、重要な業務は継続できるよう方策を記述した計画です。Cloud ERPは、災害等の緊急事態にも対応できるよう、メーカー側で対策を行っているので、ユーザ側でのBCP策定のコストを削減できます。
Cloud ERPのデメリット
- インターネット環境に依存する
インターネットの接続が不安定な場合や障害が発生した場合、システムにアクセスできなくなる可能性があります。これを考慮し、多重インターネット接続の確保やデータバックアップの利用などを十分に行う必要があります。 - ベンダー依存のリスク
ベンダーが提供するサービスのプランが決まっているため、導入企業自身の基準でサービスや価格、カスタマイズ設定を柔軟に変更することが難しくなる可能性があります。例えば、ベンダーが採用している障害時の復旧対策によって復旧速度が異なります。そのため、ベンダー選定が重要になります。 - バージョンアップ管理の負担
システムがベンダー側の計画に基づいてバージョンアップされる可能性があります。そのため、バージョンアップ計画の継続的な確認と対応が必要になります。
主要なCloud ERPシステム/パッケージ製品とは?
Cloud ERPシステム/パッケージ製品は世界中で開発されており、目的や用途に応じて選択肢が変わります。
ここでは、主要なCloud ERPシステム/パッケージ製品についてご紹介します。
- SAP S/4HANA Cloud
世界中の企業で広く利用されているERPシステムの一つで、ドイツのソフトウェア会社であるSAP社が提供しています。
大企業向けのERPシステムとしてはグローバルスタンダードの製品であること、また、カスタマイズ性が高い点が特徴です。
財務管理・販売管理・生産管理・プロジェクト管理などの機能を標準で備えており、各企業活動の情報を横断して参照することができます。そのため、企業活動全体を考慮した意思決定が可能となります。
カスタマイズ性の高さは、独自性の高い複雑な企業活動を行っている企業にとって非常に重要です。SAPシステムには、様々なカスタマイズの手法や特定の業種・業務に特化したソリューションが用意されており、多様な業種の特殊な要件にも対応できるようになっています。 - Oracle ERP Cloud
アメリカのソフトウェア会社であるOracle社が提供しています。
同社は「Oracle Database」で知られているように、データベース技術に長けています。このような背景から、Oracle ERP Cloudは、システムの利用者やデータ処理量の増加などに対応できる度合い(スケーラビリティ)や信頼性の高さが評価されています。また、データベース技術の強みから、「Oracle AI for Fusion Applications」のようなAIを活用した機能や、ユーザの行動や履歴に基づいたレポートのレコメンド機能であるパーソナライズドエクスペリエンスにも優れています。 - Microsoft Dynamics 365
アメリカのソフトウェア会社であるMicrosoft社が提供しています。
中小企業から大企業まで幅広い規模の企業に対応しており、他のMicrosoft製品との統合が容易であるという特徴があります。例えば、Outlookを連携させることでメールのやり取りからDynamicsの直接顧客情報にアクセスしたり、商談の進捗を更新したりすることが可能です。また、多種多様なソフトウェア製品を開発している実績があるため、使いやすさにも定評があり、導入と運用が迅速に行えることも魅力の一つです。
世界で最も有名なERPシステム「SAP」とは?
SAPシステムは世界中の多くの企業で導入されており、日本でも約2,000社がSAPシステムを採用しています。
SAPの特徴と強み
SAPシステムの特徴は、利用範囲の広さです。一般的なERPシステムに含まれている標準機能(財務会計・管理会計・販売管理・生産管理など)以外にも、購買管理ソリューションや経費精算ソリューションなど、個別の業務に特化したSaaS型ソリューションが豊富に提供されており、さまざまな業務のデジタル化を促進し、すべてのデータを一元管理できます。
また、SAP S/4HANA Cloudのインフラ環境は、SAP社の環境に加えて主要クラウドベンダー3社(Amazon・Microsoft・Google)のインフラサービスからも選択可能であり、保守・運用はSAP社が代行してくれるため、安心してシステムのクラウド化を促進できます。
SAPシステムの強みは、豊富な経験と信頼性です。1972年の設立以来、長年にわたりERP市場でのリーダーシップを維持しています。世界中の多くの大手企業がSAPシステムを採用しており、実績の高さはもちろん、さまざまな企業で標準的に利用される業務処理をブロック化し、それらを組み合わせて利用できる仕組みを採用しており、成功例を取り入れて業務を効率化できることも評価されています。
これらの特徴と強みから、SAPの導入は多くの企業にとって魅力的といえます。
*SAPについては、「SAPとは? 機能・特徴・製品種類をわかりやすく解説(vol.85)」にて詳しく解説しておりますので、ぜひご覧ください。
ERPシステム導入事例
弊社では、実際にERPシステムを導入したユーザ企業の事例コンテンツをWeb掲載しております。
今後のERP導入プロジェクトのご参考になるかと思いますので、是非、こちらも併せてご覧ください。
*2024年1月1日に電通国際情報サービス(ISID)は、電通総研へ商号変更しました。
事例コンテンツの社名は発表当時のものです。あらかじめご了承ください。
東急リバブル株式会社
同社の財務部にて、長年活用してきた会計システムを、SAPの最新ERPであるSAP S/4HANAに刷新。
さらに、電通総研が開発したBIツール「Business SPECTRE」も導入することで、会計データの抽出や他システムとの連携が可能となった。スピーディーかつ効率的な決算情報分析により、経営層への報告などで威力を発揮している。
事例記事URL:https://www.dentsusoken.com/case_report/case/2019livable.html
株式会社セブン銀行
同社の事業拡大を支え、変化対応力のある経営管理を行うため、会計システムにOracle社のOracle Fusion Cloud ERPを採用し導入。
総勘定元帳の二重管理が解消されることによる業務負担の軽減、発注登録プロセスが再設計されたことによる人的ミスのリスクの低減、AI等最新テクノロジーの活用、リアルタイムデータに基づく迅速な意思決定などが期待できる。
事例記事URL:https://www.dentsusoken.com/news/release/2024/0425.html
ERPシステム(SAPシステム)の導入事例については、以下ページにも一覧を掲載しています。是非ご覧ください。
まとめ
今回は、「ERPとは?基幹システムとの違いやCloud化について」と題して、ERPの概念や昨今のトレンドについてご紹介してまいりました。ERPシステムを活用することで、各部門が保有しているデータを一元化し、業務効率の改善や意思決定のスピードを速めることが可能です。
SAPシステムはERPシステムの代表的な製品の一つであり、豊富な機能と多くの導入実績があります。拡張性が高く、個別業務に対応した柔軟なカスタマイズが可能であることが特徴です。
また、SAP社では昨今トレンドのCloud ERPとして「SAP S/4HANA Cloud」を提供しています。
経営資源を効率的に運用し、企業経営における迅速な意思決定に活用するために、ERPシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
本記事は、2024年12月1日時点の情報を基に作成しています。
製品・サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。
https://erp.dentsusoken.com/inquiry/