SAP 選択データ移行 とは?(vol.45)

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既存のSAP ERP Central Component(以下、ECC)からSAP S/4HANAへデータや業務プロセスをそのまま移行するブラウンフィールド(コンバージョン)ではなく、SAP S/4HANAをゼロから再構築するグリーンフィールド(リビルド)でもない、高い柔軟性を持つ中間的な移行方式:選択データ移行 をご存じでしょうか?
本ブログでは、この第三の移行方式である選択データ移行について詳しく解説します。

SAP 選択データ移行 とは? ~なにができるの?~

まずは、SAP S/4HANAへの移行方式の概要を整理しましょう。
ECC6.0ユーザがSAP S/4HANAに移行するには、下記3つの選択肢があります。

  1. ブラウンフィールド(コンバージョン)
     現用のECC6.0の“設定・アドオンプログラム・データをそのままSAP S/4HANAへ移行する方式”です。
  2. グリーンフィールド(リビルド)
    現用のシステムにとらわれず、ゼロベースで業務プロセスを見直し、
    “SAP S/4HANAを基盤とした新しいシステムとして再設計・再構築する方式”です。
  3. 選択データ移行
    現用のECC6.0やその他ERPシステムの“任意のデータを選択してSAP S/4HANAへ移行する方式”です。

これだけでは、具体的に何ができるのかよくわかりませんね。
そこで次に、選択データ移行でできることについて、より詳細に解説していきます。

前述の通り、選択データ移行とは、現用のECC6.0やその他ERPシステムの任意のデータを選択してSAP S/4HANAへ移行する方式を指します。
つまり、選択データ移行とは、SAP S/4HANAへの移行において、
 ・システム統合
 ・システム分割
 ・組織変更
 ・データ変換(通貨/勘定コード、得意先/仕入先/品目マスタデータ など)
 ・データ削減(スリム化)
 ・任意データの選択移行
 ・アップグレード/ユニコード返還/データベース移行
 ・データセンター移行/クラウド化
 ・リアルタイムレプリケーション
 ・システム比較/分析
といった、コンバージョンやリビルドのみでは満たせない固有の要件に対して、柔軟に対応できる移行オプションのことを指します。

具体的に、どのような課題やニーズを解決可能とするのか、以下に例示します。

選択データ移行により解決可能な課題/ニーズ(例)

ブラウンフィールド(コンバージョン):課題/ニーズ(例)

<ダウンタイム極小化>
・ ビジネスダウンタイムを極小化したい
・ 48時間以内に移行完了したい

<クレンジング>
・ 不要なデータや大量の履歴データは事前に削除してコンバージョンを⾏いたい
・ 古いマスタデータや使用していない組織データを新環境に持っていきたくない

<ユニコード化スキップ移行>
・ SAP ECC環境でユニコード対応をせずに一気にコンバージョンを⾏いたい

<特定データ移行>
・ 特定部門、特定モジュールのデータのみをSAP S/4HANA移行したい
・ 会社コード単位で順次/段階的にSAP S/4HANAへデータ移⾏したい

<SAP S/4HANA Cloudへの移行>
・ SAP S/4HANA Cloudへ既存ECCのデータを引き継いで移行したい

※上記はあくまで一例であり、お客様固有要件にもとづいた対応が可能です。

グリーンフィールド(リビルド):課題/ニーズ(例)

<特定データ移行>
・会計データは残⾼のみ、ロジデータは明細すべてを移⾏したい

<複数システムの統廃合>
・ 複数のSAP ECCのインスタンス/クライアントを統合してSAP S/4HANAへ移行したい
・ SAP ECCとNon-SAPのデータを統合してSAP S/4HANAへ移行したい

※上記はあくまで一例であり、お客様固有要件にもとづいた対応が可能です。

 

選択データ移行により、SAP S/4HANAという最新のプラットフォーム(の新機能)を利用しつつ、既存の資産を最大限に活用することが可能となります。

※ ブラウンフィールド(コンバージョン)とグリーンフィールド(リビルド)の解説については、「SAP おすすめの移行方法とは? ~3つの選択肢を解説~(vol.36)」をご覧ください。

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SAP 選択データ移行 とは? ~どうやるの?~

では、前章のような課題/ニーズを解決するための具体的なアプローチはどのようにすればよいのでしょうか?

選択データ移行に関して、信頼性が高く実績のある移行アプローチを提供すべく、SAP社はパートナーのエキスパートグループである「SAP S/4HANA Selective Data Transition Engagement」を設立しました。
グループのメンバーとして、世界で5つの企業が存在しています。

<SAP S/4HANA Selective Data Transition Engagement 参加企業>
・ SAP 社(日本でサービス提供あり)
・ SNP 社(日本でサービス提供あり)
・ CBS 社(日本でサービス提供あり)
・ Datavard 社(日本ではサービス未提供)
・ Natuvion 社(日本ではサービス未提供)

上記メンバー企業のソリューションを活用することで、品質の保たれた選択データ移行が可能となります。
それぞれの企業によって使用するツールやサービス内容は異なりますが、アプローチは大きく異なりません。

ここで、一般的な選択データ移行のアプローチについて解説します。
通常のSAPコンサルタントによるSAPシステムに対するアプローチのスタンスを「内科的療法」(=カスタマイズパラメータの変更/投薬による対応)とすると、選択データ移行は「外科的療法」(=データ構造レベルでの変更/手術による対応)と言えます。

前章の冒頭で述べた3つのSAP S/4HANA移行アプローチは、移行先SAP S/4HANA環境の構築方法と既存SAP ECC資産の再利用度に応じて分類可能です。

<移行先SAP S/4HANA環境の構築方法>
 ① 新規構築:
  Model Company + SAP Best Practicesなどを活用して、
  新たにSAP S/4HANAシステムを構築。

 ② ミックス&マッチ:
  新たにSAP S/4HANAシステムを構築したうえで、
  既存ERP のトランザクション・マスタデータやカスタマイズの一部を移行し、
  必要な調整を実行。

 ③ シェル構築:
  既存SAP ERPのカスタマイズのみをSAP S/4HANAにコンバージョンし、
  ベースラインとして再利用。新たなカスタマイズをその上に追加。

 ④ システムコンバージョン:
  既存ERPをSAP S/4HANAへ移行し必要な調整を実行。
  既存データを継承。

選択データ移行は、上記②ミックス&マッチ(移行先を新たに構築する場合)と③シェル構築(既存システムのカスタマイズのみをシステムコンバージョンして移行先を構築する場合)のどちらでも利用できるアプローチです。

選択データ移行のアプローチは大きく3つのSTEPに分けられます。
 STEP① データフィルタリング:移行するマスタ/トランザクションデータを選択的にフィルタリング
 STEP② データ変換:対象のデータをマッピングし、SAP S/4HANAデータモデルへ変換
 STEP③ データ移行:SAP S/4HANA環境へデータを移行

STEP①データフィルタリングの仕分け条件としては、例えば以下の要素が挙げられます。
<データフィルタリングの仕分け条件>
 ・ 組織単位:会社コード、プラント、販売組織
 ・ 期間単位:全過去データ移行、過去X年分のデータ移行、オープン伝票データ移行
 ・ アプリケーション/オブジェクトベース:ロジスティクス、財務会計、固定資産
 ・ マスタデータ:得意先、仕入先、品目

STEP②データ変換におけるデータ変換マッピングおよびデータモデル変換の対象としては、例えば以下の要素が挙げられます。
<データ変換マッピング>
 ・ 組織統合、カスタマイズ、マスタコード変換(1:1 or N:1)
 ・ 伝票番号変換

<SAP S/4HANAデータモデル変換>
 ・ 品目入出庫、在庫データ
 ・ XPRA, XCLAS
 ・ SDM(Silent Data Migration)
 ※ 会計トランザクションデータについては、
   選択データ移行後に会計コンバージョンをダウンタイム中に実施する必要あり。

STEP③データ移行のパターンとしては、例えば以下の要素が挙げられます。
<データ移行技術>
 ・ テーブル直接更新・移行
 ・ 標準 API によるデータ移行
 ・ 事前データ移行(ダウンタイム短縮)

<移行先システム>
 ・ ミックス&マッチ
 ・ シェル構築

これらを組み合わせることで、以下の移行要件をクリアできます。
 ・ システム統合/分割
 ・ 組織単位でフェーズ分けしてのシステムロールアウト
 ・ データ削減/調整
 ・ 任意データの選択的移行

次に、選択データ移行の手順について解説します。
SAP ERP 6.0 から SAP S/4HANA への最低限必要な手順は以下となります。
 手順①System Copy:
    既存ECC環境のコピー環境を作成&データ削除
 手順②Unicode Conversion & OS/HANA DB Migration:
    ユニコード対応&OS+HANA DBへのマイグレーション
 手順③SAP S/4HANA System Conversion:
    事前準備(アプリ調整/SUM実行など)のうえ、SAP S/4HANAへシステムコンバージョン
 手順④SFIN Conversion:
    会計トランザクションデータをダウンタイム中にコンバージョン
 ※ 実施方法/利用ツールによっては、分割が可能な手順や並行実施が可能な手順、
   あるいは、追加作業が発生する場合があります。

これら選択データ移行アプローチにより、
SUM実行処理によるSystem Conversion部分をテーブルベースで直接移行/変換処理を行うことによるダウンタイム短縮 や、
移行先環境を事前に準備しておくこと+移行手順のシンプル化による移行リスク低減
を実現します。

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SAP 選択データ移行 とは? ~誰がうれしいの?~

ここまでの解説から、
「選択データ移行で“できること”と“やり方”は何となくわかったけど、
 自分たちに必要かどうか……」
とお考えの皆様に向け、実際の事例をご紹介します。

事例①:選択データ移行により、ダウンタイムの大幅短縮を実現

  • こちらのケースでは、国内の3つのSAPシステムに対して、同時にSAP S/4HANAへの移行を実施。
    (3つの内、2つのシステムに対して選択データ移行アプローチを適用)
  • 事前の試算ではダウンタイムに約6日の移行期間が掛かるという結果となりましたが、PoCと3回の移行テストを通じて、移行のエキスパート、データベースのエキスパートがパフォーマンスチューニングを実施し、選択データ移行方式で約320億件/2TBのデータを23時間でSAP S/4HANAへ移行しました。
  • お客様による変換作業も含め、当初希望の3.5日以内での移行を実現しました。
  • 移行中にアドオンテーブル内の値変換を行う設定を実装しました。
    特にデータボリュームが大きいテーブルについては、アップタイム中に過去データの事前移行を実施しています。

事例②:既存ECC6.0資産を有効活用してS/4HANA Cloudへの移行を実現

  • こちらのケースでは、ECCから SAP S/4HANA Cloud(旧Extended edition)への移行を実施。
  • ECC6.0からSAP S/4HANA Cloudへの移行では、通常、データ移行はマスタデータおよび残高移行のみに限られるため、カスタマイズやアドオンプログラムもマニュアル実装が必要でした。
  • 選択データ移行により、既存ECCからマスタ/過去データも含めたトランザクションデータとカスタマイズ/アドオンプログラムのスムーズな移行を実現しました。

事例①のように、データボリュームが2TB程度であっても、ダウンタイムに時間を要するケースもあるため、自社には選択データ移行は不要とお考えの方でも、まずはデータに応じたダウンタイムのシミュレーションを実施してみてはいかがでしょうか?

また、事例②のように、システム移行を機にSAP S/4HANA Cloudへ移行したいとお考えの場合も、既存のデータ資産を最大限にご活用されたいケースでは、選択データ移行が有力な選択肢と成り得ます。

この他、選択データ移行アプローチでは、ユニコード未対応のECC6.0からSAP S/4HANAへの移行を一度のダウンタイムで実現できるため、
「SAP S/4HANAへの移行は検討しなきゃだけど、まだユニコード未対応だからな……」
とお悩みの企業様にとっても、ご検討の余地は十分にあるかと思います。

SAP 選択データ移行 とは? まとめ

最後に、選択データ移行について振り返りましょう。

  • 選択データ移行とは?
    現用のECC6.0やその他ERPシステムの“任意のデータを選択してSAP S/4HANAへ移行する方式”であり、コンバージョンやリビルドのみでは満たせない固有の要件に対して、柔軟に対応できる移行オプションのこと
  • 選択データ移行はどうやるの?
    日本では、SAP社/SNP社/CBS社のソリューションを利用することで実行可能
  • 選択データは誰にとってうれしいの?
    以下のような課題やニーズを有するECC6.0ユーザにとって有効なアプローチとなる。

    ○ブラウンフィールド(コンバージョン):課題/ニーズ(例)
    <ダウンタイム極小化>
    ・ ビジネスダウンタイムを極小化したい
    ・ 48時間以内に移行完了したい

    <クレンジング>
    ・ 不要なデータや大量の履歴データは事前に削除してコンバージョンを⾏いたい
    ・ 古いマスタデータや使用していない組織データを新環境に持っていきたくない

    <ユニコード化スキップ移行>
    ・ SAP ECC環境でユニコード対応をせずに一気にコンバージョンを⾏いたい

    <特定データ移行>
    ・ 特定部門、特定モジュールのデータのみをSAP S/4HANA移行したい
    ・ 会社コード単位で順次/段階的にSAP S/4HANAへデータ移⾏したい

    <SAP S/4HANA Cloudへの移行>
    ・ SAP S/4HANA Cloudへ既存ECCのデータを引き継いで移行したい

    ○グリーンフィールド(リビルド):課題/ニーズ(例)
    <特定データ移行>

    ・会計データは残⾼のみ、ロジデータは明細すべてを移⾏したい

    <複数システムの統廃合>
    ・ 複数のSAP ECCのインスタンス/クライアントを統合してSAP S/4HANAへ移行したい
    ・ SAP ECCとNon-SAPのデータを統合してSAP S/4HANAへ移行したい

    ※上記はあくまで一例であり、お客様固有要件にもとづいた対応が可能です。

電通総研は、2021年9月1日より、CBS社とパートナー契約を締結し、今回ご紹介した選択データ移行によるSAP S/4HANA移行が可能です。
電通総研、CBS APACと日本企業で初のパートナーシップ契約を締結

電通総研独自の「SAP S/4HANA移行トータル支援サービス」と組み合わせ、以下のオプションメニューをご用意しております。
ダウンタイム短縮オプション
Unicode化対応スキップオプション

また、電通総研の独自サービスとして、SAP S/4HANAへの移行に伴う影響分析と選択データ移行を実施した場合のシミュレーション結果を組み合わせたアセスメントサービスもご提供しております。
もし、SAP移行をご検討中で上記のような課題/ニーズでお悩みでしたら、ぜひ、電通総研までお声がけください!!

本記事は、2021年9月1日時点の情報を基に作成しています。製品・サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。
https://erp.dentsusoken.com/inquiry/