SAP on Azureのメリットとは?(vol.98)

  • 公開日:2023.07.17

SAP ERPやSAP S/4HANAといったSAPシステムのインフラストラクチャをクラウド環境へマイグレーションする際、Microsoft Azure(以降、Azureという)が選択肢の一つとして挙がるかと思います。
しかし、Azureへマイグレーションすると、SAPユーザーは何がうれしいのでしょうか?

本ブログ記事では、Microsoft社とSAP社にどういった協力体制があるのかSAP on AzureにすることでSAPユーザーはどういったメリットを享受できるのか、解説します。

*本ブログの「SAPシステム」は、「SAP ERP」および「SAP S/4HANA」を指します。

SAP on Azureとは?

「SAP on Azure」とは、Azure上にSAP ERPやSAP S/4HANAを構築することです。
*クラウド環境上にSAP ERPやSAP S/4HANAを構築することを俗に「SAP on Cloud」と言います。同様に、Azure上に構築する場合は「SAP on Azure」、AWS上に構築する場合は「SAP on AWS」と言います。

一体、Azure上にSAPシステムを構築すると、何がうれしいのでしょうか?
まずは、Microsoft社とSAP社にどういった協力体制があるのか、紐解いていきましょう。

Microsoft社とSAP社は1993年から現在まで、特にハイパフォーマンスが影響されるSAP S/4HANAの基盤をベースとし、強力な相互協力体制を積み上げてきました。

Microsoft社とSAP社の協力実績

  • 1993年、Microsoft社とSAP社で強力な技術連携を開始
  • Waldorf及びRedmondに相互に開発拠点を設置
  • Microsoft社とSAP社が協力して開発したソリューション(例えば、Power BI for S/4HANAなど)をマーケットに提供
  • AzureがSAPソリューションの認定プラットフォームとなる
  • Microsoft社自体がSAP S/4HANAのユーザであり、10万を超すユーザ数のSAPシステムでビジネスを遂行(Microsoft社にとっても、SAP社はトップグローバルカスタマーです)

以前は「セキュリティやパフォーマンスなどの観点からERP基盤としてクラウドは適切ではない」
と考えるSAPユーザーが多く存在しましたが、拡張性や冗長化などクラウドならではのメリットを鑑み、近年では多くのSAPユーザーがクラウド移行に踏み切っています。
Azureは、SAP社との連携によるSAPシステムとの親和性の高さに加え、Microsoft Defender for Cloud など、堅牢なセキュリティシステムを有しており、現在ではERPシステムのインフラストラクチャとして、オンプレミスと同等か、それ以上の信頼性を確保しています。

しかし、長期にわたってオンプレミス環境でSAPシステムを利用している方など、中々クラウド移行に踏み切れないSAPユーザーも多いかと思います。
そこで次章では、SAPシステムのインフラストラクチャをAzureにするメリットを紹介していきます。

SAP on Azureのメリットとは?

SAP on Azureのメリットは次の通りです。

  1. SAPシステム(特にSAP HANA)との親和性の高さ
    1つ目のメリットは、AzureはSAPシステムのインフラストラクチャとして最適化されており、SAP社からの認定を受けている点です。

    <Microsoft Azureの特徴>
    ・Azureは、パブリッククラウドとしては最も豊富なSAP HANA用の認定インスタンスを提供
    ・最大サイズ24TBのSAP HANA専用仮想マシンを利用可能であり、VMとしても12TBまでサポート、OLAP用のスケールアウト構成としては60TBまで対応可能
    ・Azure上のSAP HANA認定インスタンスは最小メモリ192GB~最大24TBまで多彩な選択肢を提供

    選択肢の豊富さに加え、クラウド基盤の特性でもある柔軟性・拡張性の高さにより、オンプレミスでは大きな負担となっていたSAPシステムの運用効率を高め、システム要件に応じてリソースを柔軟、スピーディーに変更できるようになります。また、SAPシステムと親和性の高い基盤を利用することで、より問題の発生しにくい強固なSAPシステム基盤を構築できます。

  2. TCO削減
    2つ目のメリットは、様々なコストを削減できる可能性が高いことです。
    2020年にIDCが行ったAzureを導入した組織を対象とした調査では、ITスタッフ及びコンプライアンス管理のコストが、5年間で32%削減されていると報告されています。
    *ご参考:https://azure.microsoft.com/ja-jp/resources/azure-is-helping-organizations-manage-regulatory-challenges/

    Azureのクラウドサービスを利用すれば、次の4つの観点でコスト削減が期待できます。
    イニシャルコストの低減
    オンプレミス環境で必要となるサーバ調達やネットワーク整備といったインフラ関連の初期投資費用を低減することができます。

    ライセンス費用の低減
    Azureでは、オンプレミス環境で保有しているOS/DBライセンスを持ち込むことが可能です。Microsoft製品に関しては、他社のクラウド基盤より割安になるケースが多く、(契約形態にもよりますが)SQL Serverライセンスを無償で持ち込むことも可能です。当然、Azure上のOSやDBがMicrosoft製品であれば、保守サポートの面からも優位性が高いです。また、Azure Hybrid Use BenefitのOSライセンスコスト最適化により、仮想マシンのコストを大幅に削減可能です。

    リザーブドインスタンス適用による長期利用時の費用低減
    Azureでは、1年または3年の長期で契約することで、割引料金でサービスを利用することができるようになります。
    SAPシステムは基本的に長期に渡って利用するため、大きなリスクもなく、割引を利用することで、コストが大幅に削減できる可能性があります。他社クラウドでも同様のリザーブドインスタンスはありますが、通常、利用の予約はリソースの固定と同義となり、クラウドの優位性である柔軟性を損ねるということで、SIerによっては推奨しないケースも多く見られます。
    しかし、Azureのリザーブドインスタンスは変更やキャンセルが可能であり、クラウドの柔軟性を損ねることなく、状況に応じてコスト最適化が可能な設計となっています。

    ランニングコストの低減
    SAPシステムのインフラストラクチャをオンプレミスで構築した場合、マシンスペックを容易に増減させることはできないため、必要なリソースが変化するたびに大きなコストがかかってしまうといったリスクがあります。
    しかし、クラウド基盤であれば、必要なリソースをスピーディーに調達でき、インスタンスも数分で実装されるため、運用状況に応じた、フレキシブルな対応へつながります。結果的に、常に最適化したコストで運用できるというメリットにつながります。
    また、Azureを利用する場合、Microsoft社が運用する仮想環境を利用することになるため、これらの保守管理に掛かる人的コストは、すべてMicrosoft社が担うことになります。そのため、オンプレミスで保守管理に必要だった人件費を大幅に削減できる可能性が高くなります。
    *例えば、Azureのセキュリティサービスを利用することで、自社でのセキュリティ対応に掛かる人的負担を大きく軽減することができ、多大なコストや手間を削減できる可能性が高くなります。

  3. 安全性の高いセキュリティサービスの享受
    3つ目のメリットは、Azureのクラウド基盤やネットワークを利用することで、Azureが提供する安全性の高いセキュリティサービスの恩恵を受けられることです。
    Azure Virtual Network(VNET)により、プライベートネットワークを構築可能で、専用線またはセキュアなVPNで接続された拠点からのみ接続可能となります。
    インターネット経由で操作するAzureポータルについても、特定の国やIPアドレス範囲を指定して接続を制限し、脅威から保護することができます。
    また、Microsoft社では、3,500人のサイバーセキュリティのエキスパートが在籍しており、堅牢なセキュリティを実現しています。
  4. 安定した強固なバックアップシステム構築及び災害対策の実現
    4つ目のメリットは、安定した強固なバックアップシステム構築及び災害対策を実現できることです。
    SAPシステムのような基幹業務システムでは、安定したシステム稼働が求められるため、バックアップや災害対策は必須の対応事項となります。Azureでは、SAP HANAに対応した標準バックアップサービス(システムバックアップとDBバックアップ)や、DRサイトに非同期でレプリケーション可能 且つ テストフェールオーバー(切り替え試験)機能を有するDRサービスが標準搭載されており、容易にSAP HANAをバックアップ/リストア または DR転送する仕組みを構築できます。
    また、これらの標準サービスに加え、さらに可用性を高めるための仕組みとして、同一ゾーン内での可用性担保(可用性セット)、同一リージョン内での可用性担保(可用性ゾーン)、異なるリージョンへのバックアップ転送(GRS)、異なるリージョンを跨いだフェールオーバー・フェールバック(Azure Site Recovery)があり、さらなる可用性の向上を実現できます。
  5. Microsoft社サービスとのシステム連携
    5つ目のメリットは、Microsoft社サービスとSAPシステムを連携させることで、業務の効率化を実現できることです。
    例えば、Microsoft 365で利用するAzure Active Diretoryのユーザー情報を、SAP社のWebアプリケーション 及び SaaSの認証に利用可能です。これにより、業務効率化に繋がるユーザー管理の一元化とシングルサインオン化が実現可能です。
    また、データドリブン経営、API統合、ノーコードプラットフォーム、セキュリティサービス、AI・機械学習などの分析サービスといった、豊富なPaaSサービスやMicrosoft 365をSAPシステムと統合して利用可能になります。これらの機能を組み合わせて利用する事により、一貫した正確なデータというSAPシステムのメリットを担保しながら、経営層による意思決定の迅速化、業務ユーザーでの効率化を両立する事が可能となります。

まとめ

さてここまで、SAP on Azureのメリットを解説して参りましたが、要約すると次の5点が挙げられます。

  • Azureは、SAPシステム(特にSAP HANA)との親和性が高い
  • SAP on Azureにすることで、様々な観点でコスト削減できる可能性が高い
  • Azureが提供する安全性の高いセキュリティサービスを享受できる
  • 安定した強固なバックアップシステム構築 及び 災害対策(DR)を実現できる
  • Microsoft社サービスとのシステム連携による業務効率化/高度化

現在、パフォーマンスやセキュリティに不安がある、柔軟性/拡張性の低い基盤になっている、管理コストが膨れ上がっている……といった課題を抱えているのであれば、SAP on Azureを採用し、業務効率化や迅速な経営判断の促進を試みてはいかがでしょうか?

電通総研は、2010年にAWSグローバル認定を取得以来、AWSに代表されるパブリッククラウド上でのSAP ERPの移行や稼働について、累計100社以上のクラウド環境構築実績を誇り、豊富な実績に基づく独自のノウハウを保有しています。
また、Microsoft社の国内パートナーとして初めて「SAP on Azure Advanced Specialization*」を取得した実績がございます。
*マイクロソフトのGoldコンピテンシーパートナーのうち、高度な専門性を有し、サービスの提供やサポートにおいて卓越した能力を持つパートナーのみに与えられる制度です。取得にあたっては、実績および資格条件を満たした上で、第三者機関の厳正な審査を受ける必要があります。(Advanced Specialization:制度の詳細については、マイクロソフト社のWEBサイトをご参照ください)

もし、SAP on Azureをご検討の場合は、お気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
【電通総研 Webページ】SAP on Cloud マイグレーションサービス

本記事は、2023年4月1日時点の情報をもとに作成しています。
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