SAP おすすめの移行方法とは? ~3つの選択肢を解説~(vol.36)

  • 公開日:2021.07.13

2015年にSAP ERP Central Component(以下、ECCという)6.0の後継として、SAP S/4HANAがリリースされ、それに伴いECC6.0の保守サポートを2025年末に打ち切ることをSAPが発表しました。
これは、経済産業省のDXレポートで「2025年の崖」のキーワードが出たこともあり、「SAP ERPシステムの2025年問題」と呼ばれることになりました。

2020年2月には、ECC6.0のメインストリームサポート終了時期を2027年末まで延長し、追加のオプション料金を支払えば2030年まで保守延長できるものとする旨の発表がありました。

しかし、保守サポート期限が延長されたとはいえ、検証や評価に要する時間を考えると、残された時間はそう多くはありません。かかるコストやプロジェクト期間は未知数で、不安要素が多く残っています。

そこで、本ブログでは、ECC6.0ユーザがSAP S/4HANAに移行するための3つの選択肢について解説いたします。
お客様のシステムの状況に適したおすすめの移行方法をご検討される一助になれば幸いです。

SAP 移行 3つの選択肢

ECC6.0ユーザがSAP S/4HANAに移行するには、下記3つの選択肢があります。

SAP 移行方式>

  1. コンバージョン(ブラウンフィールド)
    現用のECC6.0の設定・アドオン・データをそのまま移行する方式です。
  2. リビルド(グリーンフィールド)
    現用のシステムにとらわれず、ゼロベースで業務プロセスを見直し、
    新しいシステムとして再設計・再構築する方式です。
  3. 選択データ移行
    現用のECC6.0にある任意のデータを選択してSAP S/4HANAへ移行する方式です。
    特定の期間・会社コード・モジュールのデータだけを選択して移行したり、
    複数のインスタンスを統合しながらSAP S/4HAHAに移行したりすることができます。

SAP おすすめの移行方法 ①: コンバージョン(ブラウンフィールド)

既存環境をそのまま移行するコンバージョン(ブラウンフィールド)方式は、移行コストと期間の圧縮ができ、ユーザ部門の負担もわずかで済みます。
業務フローやオペレーションは既存を踏襲し、データもそのまま引き継ぎが可能です。アドオンもシステム変換後に調整すれば継続して利用できます。既存のSAP GUIが継続利用できますが、SAP S/4HANAが新たに採用した新GUIのSAP Fioriも利用可能です。ほとんどの機能は既存環境と変えずに利用可能ですが、高度な分析や機械学習など、SAP S/4HANAで追加された新機能の利活用は、最小限に留まります。

【特徴(まとめ)】

  • 原則として既存ECC6.0の設定・データを継承
  • 移行作業は最低限必要な箇所の調整のみとし、コンバージョン後に改めて新機能の活用を検討することも可能
  • 旧システムの枠組みが残るため、システム移行を契機としたマスタデータ体系の大幅な見直しや、
    それに合わせた過去トランザクションデータの調整は困難

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SAP おすすめの移行方法 ②: リビルド(グリーンフィールド)

新規で構築するリビルド(グリーンフィールド)方式は、新しいサーバ上にSAP S/4HANAをインストールし、既存システムから一部のデータを移行します。
業務プロセスを見直してSAP S/4HANAのベストプラクティス(SAP標準テンプレート)をベースにゼロから検討するため、世界標準の業務シナリオと最新の機能をフル活用できます。旧態依然とした商習慣からも脱却ができ、BPR(Business Process Re-engineering=業務改革)を推進します。
一般的なコンバージョンの作業期間(1~2年程度)と比べて、リビルドはユーザ部門の協力を得ながらBPRと並行する必要があるため、3年~5年かかることもあります。
また、アドオンはすべて新規開発となるため、コンバージョンより導入コストが高額になりがちです。
なお、既存環境から移行できるデータは、一般的には残高データが主となります。

【特徴(まとめ)】

  • SAP S/4HANAの新規導入を契機として、従来のシステムやビジネスプロセスをゼロベースで見直すことが可能
  • ベストプラクティス(SAP標準テンプレート)の活用による短期導入が可能
  • システムの利用にあたり、データ移行が必要だが、旧システムからの過去“明細”データの移行は困難

SAP おすすめの移行方法 ③:選択データ移行

現用のECC6.0にある任意のデータを選択してSAP S/4HANAへ移行する方式を「選択データ移行」と呼びます。
SAP S/4HANAへの移行において、「システム統合」、「システム分割」、「組織変更」、「データ変換」、「データ削減(スリム化)」、「データ選択移行」、「アップグレード/ユニコード返還/データベース移行」、「データセンター移行/クラウド化」、「リアルタイムレプリケーション」、「システム比較/分析」といったリビルドやコンバージョンのみでは満たせない固有の要件に対して、柔軟に対応できる移行オプションです。

選択データ移行を実現するうえで、以下の3つのサービスが提供されています。

  1. SAP DMLT(Data Management and Landscape Tranformation)
    https://www.sapjp.com/blog/Services_DMLT
  2. SNP(Schneider-Neureither & Partner SE)
    https://www.snpgroup.com/
  3. CBS(Corporate Business Solutions)
    https://www.cbs-consulting.com/apac/jp-s4hanaの選択データ移行/

※詳細は、各社のWebサイトをご参照ください。

【特徴(まとめ)】

  • 複雑な要件に対応可能な柔軟な移行方式で、以下のようなニーズを満たすことが可能となる
    – 既存ECC6.0の必要なデータのみを選択して移行したい
    – 複数のSAP ERPシステムの統合を行いたい
    – SAP S/4HANA移行時のダウンタイムを極小化したい
    – ECC6.0環境でユニコード対応をせず、一気にコンバージョンを実施したい

※詳細は「SAP 選択データ移行 とは?(vol.45)」をご覧ください。

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まとめ

SAP S/4HANA移行における3つの選択肢を解説しました。
電通総研は、お客様のシステムの状況などを踏まえ、最適な移行方式をご提案させていただいております。
もし、どの移行方式にするかお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。
また、電通総研のWebサイトでは、SAP移行のお役に立つe-bookや事例などを公開しております。
是非、そちらもご覧いただけますと幸いです。

現状では、どの移行方式が自社に適しているのか、保守サポート期限ギリギリまで検討しようとお考えの方も多いかと思います。
しかし、ECC6.0の標準保守を2027年まで受けるには前提条件があります。
それは2025年までに機能拡張パッケージであるエンハンスメントパッケージ(以下、EhPという) 6.0以上が適用されていることです。
EhP5以下の場合は、2025年までにEhP6.0を適用するか、SAP S/4HANAへ移行するかのいずれかを選択する必要があります。
そのため、EhP5以下の場合、最新のEhPを適用することで2027年までECC6.0を継続利用できるようにしておくことが重要です。

電通総研は、Panayaというバージョンアップ時の影響分析ツールを活用した効率的なEhP適用プロジェクトの推進が可能です。
保守サポート期限ギリギリまで既存ECC6.0を継続利用したいが、EhPを最新化しなければならないとお困りの場合も、是非、電通総研へお声掛けいただければと思います。

また、SAP S/4HANAへの移行の前に、ハードウェアなどのインフラ基盤の更改を先行して検討しなければいけないというお客様もいらっしゃるかと思います。
パブリッククラウドであるMicrosoft AzureやAWSへの移行も重要な検討項目だと考えます。
電通総研は、これらの経験も豊富に有しており、その事例をWebサイトで公開しておりますので、ご興味がございましたら、以下URLよりご覧いただけますと幸いです。

【ご参考】
 東ソー株式会社 Panaya活用事例
 株式会社ソフトバンク Azure移行事例
 https://erp.dentsusoken.com/casestudy