SDT(Selective Data Transition)によるSAP S/4HANA移行のメリットとは?(vol.93)

  • 公開日:2023.04.24

SAP ERP Central Component(以降、ECCという)6.0からSAP S/4HANA(以降、S/4HANAという)へデータや業務プロセスを移行する方式には、データやアドオンをそのまま移行する ①Brownfield(ストレートコンバージョン)や、SAP S/4HANAをゼロから再構築する ②Greenfield(リビルド)のほか、高い柔軟性を持つ中間的な移行方式 ③Selective Data Transition(選択データ移行) があります。

本ブログ記事では、この第三の移行方式であるSelective Data Transition(選択データ移行)について、その仕組みやどのような点が優れているのかを解説します。

SAP SDT(Selective Data Transition)の仕組み

まずは、SDT(Selective Data Transition)の仕組みをご説明します。
SDT(Selective Data Transition)は、次の手順で行います。

  1. システム設定に関わる部分とデータを分離する
    既存のECC6.0本番機を、(便宜上)システム設定に関わる部分とデータ部分に分けます。
    *あくまで定義上の仕分けであり、実際に分断するわけではありません。
  2. システム設定に関わる部分を先行してS/4HANA化する(=シェルコンバージョン)
    システム設定に関わる部分=“シェル”(貝殻の“殻”という意味)だけになったECC6.0をS/4HANAにコンバージョンします。(この工程をシェルコンバージョンといいます
  3. データの初期移行
    データ移行を実施します。ここは初期移行となります。
  4. 差分データ移行
    差分で発生したデータを移行します。差分データ移行という形で、初期移行と分けて転送することが可能です。

“選択データ移行”方式による SAP S/4HANA移行

SDT(Selective Data Transition)は、移行工程そのものを「初期移行」と「差分データ移行」に分割することにより、移行ボリュームの調整が可能=任意のデータを自由にS/4HANAへ移行することが可能となります。

弊社電通総研は、CBS社の「cbs ET Enterprise Transformer for SAP S/4HANA(通称、ETツール)」を用いたSDTサービスをご提供しています。

SAP SDT(Selective Data Transition)でダウンタイムを短縮/最小化

移行のデータ量が大きい場合、ダウンタイムが課題となるケースがあります。
例えば、ストレートコンバージョンプロジェクトにおいて、データボリュームが1TB未満であっても、そのダウンタイムは72時間を超えるケースもあります

一般的なダウンタイム

ECC6.0からS/4HANAへの純粋なデータ移行に係るテクニカルダウンタイムはもちろん、その前後に必須となる工程でもビジネスダウンタイムが発生するため、業務上どこまでダウンタイムを確保できるのかは非常に重要なポイントといえます。

ダウンタイムの構成要素とは?

前述の通り、SDT(Selective Data Transition)では、まず殻のS/4HANAを構築します。そして、必要なタイミングで初期のデータ転送、任意のタイミングで差分転送を行う形になります。初期移行までは既存システムを継続して使用し、差分転送時のみシステムを停止するなど、データ移行の実施方法を工夫することにより、ダウンタイムを非常に短くすることができるようになるのです。そのため、ダウンタイムが課題となるECCユーザーには、非常に有効なソリューションとなります。

SAP SDT(Selective Data Transition)で複雑な要件に対応

SDT(Selective Data Transition)では、シェルコンバージョンのタイミングで、S/4HANAのカスタマイズを変えたり、設定変更や新規機能追加も可能です。そのため、SAP社提供の標準ツールではできないS/4HANA移行が可能になっています。

例えば、不要となった過年度データは移行対象にしない、使用しないモジュールのデータを削除しながら移行する、といったデータ削除/取捨選択が可能になります。また、特定モジュールや地域の移行タイミングを分けることで、段階的にSAP S/4HANAに切り替えることや、勘定コードやマスタ体系などを移行中に変更する、といったコード変換も可能です。
さらに、新機能採用に伴う過年度データの見直しやカスタマイズの最適化を行う、といったシステム改善や、複数のSAPインスタンスを統合しながら移行するシステム統合を同時に実施することも可能です。
システム技術面では、SAP S/4HANAにおいて必要となるDBのユニコード化を、S/4HANA移行と同一プロジェクト内で実施することができますので、事前のユニコード化(に伴うダウンタイム)をスキップすることが可能になります。

このように、SDT(Selective Data Transition)では、SAP社が提供している標準ツールだけでは対応できない、複雑な要件に対応することができるのです。

まとめ

SDT(Selective Data Transition)では、「ダウンタイム短縮/最小化」以外にも、「SAP標準ツールでは実現できない複雑な要件に対応可能」です。
S/4HANA移行に際して、このようなSDT(Selective Data Transition)特有のバリューを加えることにより、より効率的・より高付加価値のあるS/4HANA移行を実現できると考えております。

弊社は、S/4HANAへのスムーズな移行と更なる付加価値をご提供いたします。

SDT(Selective Data Transition)にご興味をお持ちいただけた場合には、是非、電通総研へお声掛けいただけますと幸いです。
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