SAP 移行 コンバージョンのメリットとは?(vol.1)
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自社に最適なSAP移行の方式を選択することは、多くの企業にとって喫緊の課題となっています。
- リビルド(グリーンフィールド)、
- コンバージョン(ブラウンフィールド)、
- 選択データ移行
と3種類ある移行方式の中でも、既存のECCシステムの使い方を踏襲した移行方式である「コンバージョン」のメリットが十分に理解されていないように感じます。
重要な基幹システムであるSAP ERPの将来像をどのように描くのか?
判断ポイントをどこに置くのか?
そもそもコンバージョン方式のメリットとは?
について、リビルド方式との比較を中心に解説します。
目次
SAP 移行 コンバージョンのメリット1:目指すゴールから考える
言うまでも無く、システムの更改には理由が必要です。
サーバーや運用のコスト削減、新しい機能の採用、ユーザーへのより良いサービス提供など様々な理由が考えられます。
SAP ERPのSAP S/4HANAへの移行は、そのゴールによって移行方式が変わるといっても過言ではありません。
まずリビルド方式から考えてみましょう。
Rebuild、すなわち「再構築」や「作り直し」という意味を持つこの移行方式は、SAP ERPの使い方(ビジネスプロセス)をゼロから見直すことを表しています。
ゼロから見直しますので、それまで使っていたアドオンプログラムやデータは捨てて、SAP S/4HANA移行をおこないます。
次にコンバージョン方式はどうでしょうか。
Convert、すなわち「質の転換」や「変換」という意味を持つこの移行方式は、既存の資産をSAP S/4HANAでも使えるように変えていくことを表しています。
既存の資産とはなんでしょうか?
それすなわち全ての明細データとアドオンプログラムです。
SAP ERPを導入して10年が経っていれば、その間に発生した取引データをSAP S/4HANAに引き継ぐというのが、コンバージョン移行の本質です。
SAP S/4HANAには、様々な分析機能が標準で用意されています。
これには予測機能やAIなども含まれますが、SAP S/4HANAの新機能に対するインプットデータとして「導入以降の全てのデータを活用出来る」というのがコンバージョンのメリットと言えるでしょう。
リビルド方式では残高のみや年度で区切った一部のデータを移行するのが主な移行内容となりますので、過去10年分のデータを分析したい場合、同じ運用期間を経ないと分析は行えません。
このように考えますと、目指すゴールを「ビジネスプロセスの変更に置く」のか、「過去データを資産と考え、生かすことに置く」のかによって移行方式を決めることも可能だと思います。
そしてコンバージョン方式のメリットは「SAP ERP導入以降の全ての明細データを SAP S/4HANAへのインプットデータとして使える」という点にあると考えます。
SAP 移行 コンバージョンのメリット2:費用/期間から考える
次に、移行にかかる費用/期間から考えてみます。ここではそれぞれの移行方式で必要になる移行プロセスに注目してみます。
リビルド方式では、どのような移行プロセスが必要になるでしょうか。
今のSAP ERPを導入した時の状況を思い出して頂ければイメージが湧きやすいと思います。
導入ベンダーがプロトタイプ環境(一般的にはBest PracticeやモデルカンパニーといったSAP ERP標準環境)を用意して、各業務担当と相談をしながら要件を決めていかれたことでしょう。
リビルド方式は基本的に同じプロセスを辿ります。
プロトタイピング/Fit Gap分析/カスタマイジング/アドオン開発の有無検討/開発仕様の決定/開発~テスト/ユーザー教育/オペレーション教育/総合テストといった一連のSAP ERP導入に必要なステップを経てシステムのカットオーバーに至ります。
コンバージョン方式では、どのような移行プロセスが必要になるでしょうか。
まず初めにアセスメント(これはベンダーが主体で行います)から始まり、機能差分とアドオンプログラム修正箇所を特定します。
システムでカバーする範囲や業務プロセスに変更は無い、というのが前提となりますので、主なタスクはECC6.0とSAP S/4HANAとで発生する差分の解消となります。
SAP ERPの仕様が変更になったことで影響を受ける業務オペレーションやアドオンプログラムの変更点に絞って対応をおこないます。既存環境の利用方法によっては大きな変更が必要となる可能性も無いとは言い切れませんが、機能差分に集中して移行を考えればよいということになります。
このように考えますと、多くの作業工程や検討が必要となるリビルド方式に比べ、コンバージョン方式ではスコープクリープや開発仕様が定まらないといったリスクを抑えられるというメリットもあると考えられます。
一般的に、リビルドでは2~3年(大規模システムでは5年)、コンバージョン方式では1年が移行期間のベースラインとして考えられます。
かかる期間はそのまま費用に直結します。コンバージョンのメリットはリビルドに比べて短い移行期間、すなわち低い費用にあると言えるでしょう。
SAP 移行 コンバージョンのメリット3:ユーザーにかかる負荷から考える
「SAP 移行 コンバージョンのメリット2:費用/期間から考える」で、リビルド方式の移行プロセスにおいてはプロトタイピング/Fit Gap分析/ユーザー教育/オペレーション教育が必要になるとご説明をいたしました。
これらはすべてユーザー様との共同作業、もしくはユーザー様主体で進められる工程です。
通常の業務をこなしながら新システムへの業務要件を検討しつつ、SAP S/4HANAで得られる新機能の習得も行わなくてはなりません。
6~12ヶ月をこの工程に費やされるお客様もいらっしゃるほどです。
これは何を意味するでしょうか?
それすなわち、リビルド方式はユーザーへの高い負担を強いるということになります。
反対にコンバージョン方式はどうでしょうか。
コンバージョン方式で行う主なタスクは差分の解消であるとお伝えしました。
ユーザーはECC6.0とSAP S/4HANAとで変更が発生した内容について確認をし、必要となる新しいオペレーションのキャッチアップをすれば良い、ということになります。
新しい業務プロセスや操作を一から覚える必要はありませんし、アドオンプログラムも必要最低限の改修が加わっているだけです。大規模なマニュアル改修も集合教育もありません。
すなわち、コンバージョン方式はユーザーへの負担が低くなるというメリットがあります。
まとめ
本ブログではリビルド方式とコンバージョン方式、二つの移行方式を比較しながら検討をおこないました。
あくまで相対的な比較であり、ある一面を捕えての比較検討ではありますが、コンバージョン方式のメリットをお伝え出来たかと思います。
SAP ERP導入当初から業務内容が大きく変わり、ビジネスプロセスの変革が求められている企業様もいらっしゃることと思います。
また、長期的な視点からシステム基盤をいま大きく改革しなければならないといった危機感をお持ちの企業様もいらっしゃるでしょう。
必要なのは基幹システムの一つであるSAP ERPを今後どのように活用していくのかという視点と、そこに費やせる人材/費用とのバランスだと思います。
リビルド方式でもコンバージョン方式でも、SAP S/4HANAへ移行することに変わりはありません。
そしてSAP S/4HANAは必ず導入企業様のDX(Digital Transformation)の中核を担うシステムになり得る潜在能力を秘めています。
電通総研はすべてのSAP ERP導入企業様がSAP S/4HANAへ移行を完了するまで、そのお手伝いをさせていただきます。
SAP S/4HANA移行トータル支援サービス:https://erp.dentsusoken.com/solution/sap-s4hana-assessment