SAPサポートを第三者保守に切り替えるリスクとは?(vol.17)
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SAP ECC6.0の End of Support(サポート)期限が2025年から2027年に延長されました。
SAP ERPからの移行を検討されているお客様から、第三者保守はどうなのですか?というご質問をいただくことがあります。
SAP S/4HANAへの移行(以下、SAP移行)を検討するうえで、基本となるグリーンフィールド/ブラウンフィールド/選択的データ移行といった方式だけではなく、第三者保守への切替えによる塩漬けも選択肢の一つとして検討する場合があります。
本ブログでは、「第三者保守のサポート概要」や「サポートを切り替えることで想定されるリスク」を解説します。
SAP サポートに第三者保守を検討されるお客様の声
ハードウェアやソフトウェアなどのITに限らず、様々な製品には、製品のライフサイクル上、必ずEnd of Support(以下、「EOS」という)が存在しています。
ユーザは、このEOSの時期を踏まえて、ハードウェアやソフトウェアを後継機種などに刷新することが必要になってきます。
お客様からみれば、安定して稼働している状態なのに、費用をかけてハードウェア基盤を刷新しなければならないこと、ミドルウェアやアプリケーション等のソフトウェアをバージョンアップしなければならないこと、というジレンマが発生している状況です。
当然、これらの対応を行うためには、ハードウェアの購入費用に加え、その上で稼働するアプリケーションの動作確認テストなど、安定稼働のための時間や工数が必要になります。
また、刷新にかかる費用だけではなく、システム自体の運用コストについても、ハードウェア保守費用だけではなく、データセンター等の設置場所の費用、専用回線等の通信費、監視オペレータ費用等の運用サポート等、様々な運用費用が発生しています。
ソフトウェアについても、Oracle等のデータベースやSAP ERPなどは、毎年20数%程度(顧客によって異なる)のライセンス保守費用やAMOサービスと呼称されるアプリケーション保守費用等が発生しています。
一般的に売上高の1%程度といわれている企業の年間IT投資金額において、上記の様々な維持・運用にかかる費用が大半を占めている状況にあります。
そのため、次のような課題感をお持ちのお客様におかれまして、コスト削減を目的として、第三者保守を検討されるようです。
① ソフトウェアライセンス保守費用をなんとか削減したい
② 現状のアプリケーションシステムに不満がなく、更改する必要性を感じない
③ 将来的に全く別のシステムの導入を考えているため、現状のシステムは塩漬けしたい
本ブログでは、この第三者保守へ切り替えることのリスクについて解説します。
第三者保守のサポート概要
現在、弊社で認識している日本に進出している第三者保守提供ベンダーは、次の2社があげられます。
- Rimini Street
- Spinnaker Support
第三者保守提供ベンダーのサポート内容は概ね類似していると思われますが、弊社でわかる範囲で、主な特徴を次の通り整理してみました。
<特徴>
・ソフトウェアライセンス保守費用を大幅削減(例:50%削減)する
・第三者保守契約時のソフトウェアのバージョンを長期間(例:15年延長)サポートする
・柔軟に保守期間と契約内容が選択できる
・保守要員を専任でアサインする
・海外を含めた税務や制度変更の情報提供ができ、これらをアドオン開発により対応する
・ユーザ固有のアドオンプログラムも標準サポート対象として対応する
・減額された保守費用分で、戦略的なIT投資に使うことを推奨する
一見するとユーザ企業にとって、とても魅力的なサポート内容になっておりますが、実際に切り替える上では、検討しなければならないリスクがいくつかあると考えます。
SAP サポートを第三者保守に切り替えることのリスク
第三者保守に切り替えることで、お客様にとって想定されるリスクとしては、次の4点があげられます。
- 知的財産権侵害やライセンス契約違反のリスク
SAP社からお客様がソフトウェアライセンスの使用許諾を与えられたソフトウェアについて、第三者保守ベンダーからの保守サービスを受けるためには、第三者保守ベンダーに検証作業を実施させ、その後で保守サービスとしてアドオン開発等を提供させることが必要になると考えます。
この行為が、SAP社に対する知的財産権侵害又はライセンス契約違反にあたる可能性があります。
具体的には、「保守のためのSAP ERPソフトウェアの使用」、「バージョンアップ等の改変の可否」が検討すべきポイントとなります。
これらについては、ライセンス使用許諾契約書の内容を確認するだけでなく、SAP社(SAPパートナー会社)とも相談すべき内容だと考えます。 - アドオンが肥大化するリスク
第三者保守に切り替えることで、SAP社によるサポートが受けられなくなるため、制度対応などはアドオン開発により個別対応することになります。
そのため、アドオン開発部分が肥大化し、パフォーマンス等への影響が生じるリスクが存在します。
法改正やセキュリティパッチなど、全てをアドオン開発で対応しなければならないため、ビジネス変化への対応が遅れてしまう懸念もあります。 - AMOサービスの見直しによるお客様自身の運用負荷が増大するリスク
第三者保守に切り替えることで、従来保守サポートを行っていたAMOサービスベンダー(主にSAPパートナー)は、第三者保守ベンダーに対して、保守サポートを要請する形式に変更になります。
SAPパートナー企業が直接、第三者保守ベンダーに問い合わせを行うプロセスができるのでしょうか?
実際には第三者保守への問い合わせ等の窓口はお客様が担うことになると考えられますので、お客様ご自身によるシステム運用の負荷が増えるリスクがあります。
第三者保守ベンダー自身がAMOサービスを含めてサポートを提供できる旨をアナウンスしていますが、お客様の複雑な業務のサポートがどこまで対応できるのかというリスクも内在しています。 - 第三者保守ベンダーの事業継続性に関するリスク
例えば15年という長期での延長保守サービスが提供されたとして、第三者保守ベンダーが企業として存続し続けることが前提であることは重要なポイントです。
第三者保守ベンダーの経営状況を注視し、M&Aやデフォルト等により保守サービスの内容が変更・中止される等の事業継続性に関するリスクについても考慮する必要があります。また、外部機関からの評価として、IDC社より、「サードパーティによるエンタープライズソフトウェアサポート:主要なリスクと確認すべきポイント」というレポートが2017年12月に発表されています。
詳細はレポートを参照していただきたいのですが、「セキュリティ」、「コンプライアンスおよびガバナンス」、「ソフトウェアサポートの特徴と機能」、「全般的なITの専門知識とサポート」、「年間サポート費用」といった5つの観点での検討ポイントを整理されています。
こちらもご参照いただければと思います。【ご参考】
https://www.oracle.com/a/ocom/docs/final-idc-paper-japanese.pdf
まとめ
SAP ECC6.0をご利用されているお客様におかれましては、「2025年問題」となっていたSAP ECC6.0のサポート期限が2027年に延期されたこともあり、SAP S/4HANA移行についてはこれから検討を始められているお客様も多いと思います。
SAP S/4HANAへ移行するのではなく、第三者保守による現状のシステムの“塩漬け“という選択肢が現実として存在することは、否定するものではありませんし、実際に第三者保守を採用されておられるお客様もいらっしゃいます。
すべてはお客様ご自身の選択であると言えます。
しかし、SAPパートナーである弊社としましては、様々なリスクが内在している第三者保守という選択肢ではなく、SAP S/4HANAの良さをご理解いただき、DX(Digital Transformation)の中核となる基幹業務システムとして積極的に活用していただくことをご推奨いたします。
お客様がSAP S/4HANA移行をご検討されるうえで有益な情報を弊社ホームページやブログで随時ご提供させていただきます。
電通総研は、SAP S/4HANAと共にお客様のビジネスの成功を一緒に実現するお手伝いをさせていただきます。