SAP 移行 を標準機能から考える(vol.4)

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SAP ECC6.0からSAP S/4HANAへの移行にあたり、SAP移行のための標準機能やサービスが複数提供されているのをご存じでしょうか?
実は、プロジェクト開始前~準備フェーズ~移行フェーズ~移行後フェーズと、それぞれのフェーズごとに利用される機能が異なります。

本ブログでは、現時点でよく利用される標準機能やサービスを簡単にまとめ、機能概要を解説します。

SAP 移行 における標準機能とは?

初めに、現行のSAP ECC6.0からSAP S/4HANAへの移行を検討する上で、3つの大きな概念があります。
1つ目は、【Brown Field】と呼ばれるコンバージョン。
2つ目は、【Green Field】と呼ばれる再構築。
3つ目は、【第3の道】と呼ばれる選択データ移行です。

その中でも、今回はBrown Fieldのコンバージョン移行に注目すると共に、移行プロジェクトで利用できるSAP提供の標準機能を整理していきます。

各機能の概要や利用用途を簡単にまとめることで、移行の流れも合わせて理解していこうと思います。
その上で、序章にも述べているが、大きな枠組みとしての移行フェーズを整理します。大きく次の3つにフェーズを分けた上で、各フェーズで利用できる標準機能を列挙します。

・準備フェーズ

・移行フェーズ

・移行後フェーズ

Brown Fieldにおける準備フェーズでは、主にSAP S/4HANAに移行する上で必要な環境確認や、移行に必要なNOTE適用、カスタマイズ設定を実施していきます。
その際に主に利用される標準機能は、他のフェーズと異なり特に多く、5つほど利用可能です。
次に移行フェーズで利用される機能は、移行処理自体の作業が単一で動く関係で、機能は1つとなります。
最後に、移行後フェーズで利用できる機能がBasis/Infra領域で1つ。開発者レベルでの機能が1つ。
2つあります。それでは、各機能をそれぞれ見ていきましょう。

SAP 移行 を考える準備フェーズで利用できる標準機能

コンバージョンの流れとして、いちばん重要なのはこの準備フェーズといっても過言ではないと私は考えます。
この準備フェーズで移行方針作成、標準変更における影響の調査、アドオン機能の影響調査、Fiori機能拡張判断、業務変更検討などが必要となります。
その上で、決定した内容に基づきそれぞれの領域で移行対応を行っていく形になります。
そこで利用できるのは、次の5つの機能です。

 ・Business Scenario Recommendation

 ・Readiness Check

 ・Simplification Item Check

 ・HANA Code Inspector

 ・ABAP Test Cockpit

まず1つ目の【Business Scenario Recommendation】は、現在利用しているSAP ECC6.0の情報を基に、6つの領域(会計、資産管理、調達、販売、サプライ・チェーン、製造)で利用している標準機能を分析する機能です。
分析した上で、シンプル化または高速化されたレポートの提案や、業界標準のベンチーマークを基に、移行に伴うSAP社独自の考察レポートを受けられます。

次に2つ目は【Readiness Check】で、SAP S/4HANAに移行する上でのシステム影響分析を行う機能です。
このレポートは、計画策定や見積もりを行う上での1つの指標として利用できます。
この機能を利用すると、今現在は、

・移行におけるSAP HANAのメモリ、データベースサイズの推奨値算出

・カスタムコード・オブジェクト影響有無の確認

・移行に伴う現行カスタマイズとの差異における影響の確認

・使用中のトランザクションへの影響有無の確認

・必要なビジネスファンクションの有効化状況の確認

Fioriアプリの提案

BW 抽出機能や IDoc インタフェースの S/4 HANA移行後の利用可否

・ビジネスプロセスに関する改善余地の確認

・ビジネスパートナーマスタ移行対象の確認

・不整合データ及び、未決済伝票情報の確認

等の数多くのレポートが参照できます。
そして、この機能はSaaSのため、日々更新が行われており、常に新たなレポートが追加されています。

3つ目は【Simplification Item Check】で、コンバージョンを実施する上での必須の作業及び、影響確認作業を一覧化してくれる機能です。
特に、会計領域のカスタマイズ調整の指示や、ビジネスパートナーへのマスタ統合処理の指示などが一覧化されるレポート機能です。出力された一覧を利用して、アプリケーション領域のシステム調整作業を実施します。

4つ目は【HANA Code Inspector】で、アドオンプログラムの改修箇所の把握を行い、HANA DBに変更することにおけるSQL文を分析し、機能低下するロジックの調査を行う機能です。

最後の5つ目は【ABAP Test Cockpit】で、アドオンプログラムの分析を実施し、修正が必要なロジックや処理の影響分析を実施する機能です。
この機能を利用し、現在保有しているアドオン機能における修正箇所の母数把握及び、修正工数を見積もる上での参考情報とする事ができます。
このように、準備フェーズが大切なため、SAPから多種多様な機能が無償で提供されています。 

SAP 移行 を考える移行フェーズで利用できる標準機能

次に移行フェーズで利用できる機能は1つで、【Software Update Manager】です。この機能は、主にシステムメンテナンスを行うツールでバージョンアップ時によく利用される機能ですが、SAP S/4HANA移行時も利用する機能です。

SAP S/4HANA移行以外の機能としては、

・リリースアップグレード(メジャーリリース変更)

・システムアップデート(EHPインストール)

・サポートパッケージ(SP/サポートパッケージスタックの適用

Javaパッチの適用

・インストールされているソフトウェア情報の修正

があります。

今回の移行時は、ソフトウェア更新とSAP HANADBへの移行を組み合わせる(DMO:データベース移行オプション)の機能を利用して、SAP ECC6.0からSAP S/4HANAへのバージョンアップ及びデータ変換処理やモディフィケーション調整等も合わせて実施します。この機能を利用することで、既存環境のデータすべてを移行することができます。

SAP 移行 を考える移行後フェーズで利用できる標準機能

これまではSAP ECC6.0環境で利用する機能でしたが、移行後フェーズでは、SAP S/4HANA環境側で利用できる機能を紹介します。新しい環境側で利用できる機能は大きく2つです。

まず1つ目は、【Down Time Optimization】です。この機能は、前述したSoftware Update Managerの結果をビジュアル化するとともに、各処理での実行時間をレポート化する機能です。出力されたレポートを確認し、環境停止時間を圧縮するための参考情報の一つとして利用し、業務要件を満たすための方針検討材料として利用できます。

2つ目は、【QuickFix】です。この機能は、前述したABAP TEST Cockpitの結果を利用し、特定の処理パターンにおいて、セミオートでアドオンプログラムを修正する機能です。修正例としては、構造の変更があった新しいテーブル等を参照するSQLへのコーディング修正や、新たに提供された関数への置き換えなどを自動修正できる機能です。この機能を利用することで、修正必須なアドオンオブジェクトを修正する工数を効率化できます。

まとめ

最後に、現在はSAPから標準機能として提供されている機能が少しずつ充実してきており、今後も機能拡張が実施されると考えています。このような機能をしっかり理解した上で利用することで、SAP S/4HANAへの移行リスクや不安を逓減することに繋がるのではないかと考えています。

加えて、当社としては以前から利用しているPanayaというイスラエル発のSaaSサービスを利用し、前述した機能から出力された一部レポートを取り込むことで、SAP標準の観点及びPanaya社定義の独自項目を含め、分析・調査・移行処理の効率化を実施しています。また、分析を実施するにあたり、オブジェクトの利用履歴である統計情報と組み合わせることで、顧客が実際に利用しているオブジェクトのみに絞った形で、対応が必要なオブジェクトを把握することができます。

現在、弊社はコンバージョンプロジェクトの提供以外にも、Panayaと前述のレポートを利用してのアセスメント(オブジェクトの棚卸等)を実施し、顧客の移行準備においてもサポートしています。今後、より一層加速するであろうSAP S/4HANA移行において、前述した機能を各フェーズで上手に活用し、スムーズなSAP S/4HANA移行に繋げていければと考えます。

SAP S/4HANA移行トータル支援サービス:https://erp.dentsusoken.com/solution/sap-s4hana-assessment