SAP AWS移行時の検討ポイントとは
~インスタンス/ストレージ選択の検討事項と留意点~(vol.54)
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オンプレミスのサーバーがEOSを迎えるなどにより、SAP S/4HANA移行前に現用のSAP ERP Central Component(以下、SAP ECC) 6.0をAWSに移行する方もいるかと思います。SAPは基幹システムとして多くのユーザーが長時間の利用を行うため、周辺システムよりは大きな処理能力を要するのが通常です。
そこで、本ブログでは、既にAWSを利用されている方向けに、SAP ECC6.0 をAWSに移行する場合のインスタンスタイプとストレージ選択の検討事項/留意点を解説します。
目次
SAP on AWS 移行時の検討ポイント:Amazon EC2 インスタンスタイプ選択
通常のシステムであれば、お客様はAWSが提供するすべてのAmazon EC2インスタンスタイプから移行先のインスタンスタイプを選択することが可能です。一方、SAPソリューションの移行先として選択可能なインスタンスタイプは、SAPが認定したインスタンスタイプから選択する必要があります。テスト用に認定されていないインスタンスタイプでもSAPソリューションを動作させることが可能ですが、認定されていいないインスタンスタイプで本番運用をすることはサポート対象外となりますのでお勧めできません。
「SAP向けAmazon EC2インスタンスタイプ」は以下のURLを参照ください。
https://aws.amazon.com/jp/sap/instance-types/
次に、SAPが認定した中で、どの程度の性能を有するインスタンスタイプを選択するかを検討します。SAPは要求する処理性能を「SAPS」という独自の指標値で表現します。自社のシステムがどの程度のSAPS値を要求するかが分かれば、前出の「SAP向けAmazon EC2インスタンスタイプ」にSAPS値が併記されていますので、その値を参考に選択が可能です。
自社のシステムのSAPS値が不明な場合は、SAPが提供するSAP Quick Sizer を利用することで算出する方法が正攻法とされます。ただ、既にSAPソリューションを利用されているのであれば、あえてパラメータ収集に工数をかけてSAP Quick Sizer を利用することは勧めできまません。
SAPS値を利用しないでインスタンスタイプを決定するには、一般のシステムと同様に現行システムのCPUコア数及びメモリ容量を参考にすることが可能です。AWSではオンプレミスのコアと対比する値としてvCPUを表示しています。製品によって全く性能の異なるCPUを、コア数のみで比較するのは一見乱暴な話かと思います。この比較が可能なのは、AWSがvCPUの表示を移行元の同コア数のオンプレミスサーバーの性能と遜色が無いように改善し続けているためです。ただし、この比較は移行を前提としており、最新のオンプレミスサーバーとの比較ではないことに注意してください。AWSのvCPU数を最新のオンプレミスのサーバーのコア数と比較することが可能かは、個別の情報で判断する必要があります。
次にメモリ数ですが、これは素直に移行前のオンプレミスの値を参考にして、同程度以上を採用することで問題ないでしょう。
最後に、これは見落としがちなポイントですが、AWSのインスタンス一覧では「EBS 帯域幅」と表記されるEBSストレージI/Oの帯域幅を確認する必要があります。ここは細かい内容になるため、具体的な例で記載します。
インスタンスタイプm5.4xlarge (16 vCPU) のEBS帯域幅は「4,750 (Mbps) 」と表示されます。注意が必要なのは、もしEBS自体のスループットを1,000MB/秒と設定した場合でも、利用出来るのは約600 MB/秒となります。スループットを上げたい場合はインスタンスサイズを上げるという方法がありますが、m5系の場合は、m5.12xlarge (48 vCPU) まで上げないとスループット1,000MB/秒は実現できません。その場合はR5b系など異なるインスタンスタイプで同vCPU数を選択することが価格的には有利になります。
SAP on AWS 移行時の検討ポイント:Amazon EBS 最新ボリュームタイプ
AWSではAmazon EBSと呼ばれるストレージを提供しています。ストレージも当初のHDD中心からSSD中心に変化し性能アップを繰り返していますが、現時点でSAP on AWSのボリュームタイプとして候補にあがるのは2020年8月以降に発表された以下の3つと考えます。これ以外は既に前世代の位置付けのものや特殊な用途のものですのでSAPソリューションの移行先としては利用をお勧めできません。
各ボリュームタイプの性能範囲と主な特徴は下記の通りです。
ボリュームタイプ | gp3 | io2 | io2 Block Express |
スループット | 125〜1,000 MiB/秒 | 1,000 MiB/秒 | 4,000 MiB/秒 |
IOPS | 3,000~16,000 | 1 ~ 64,000 | 1~254,000 |
特徴 | 安価 | 高耐久性能 | 高速・大容量 |
※範囲で記載したものは設定変更が可能で、設定値により価格が変動します。
gp3の特徴は、IOPS 16,000が上限となりますが、io2と比較して安価です。例えば、スループット1,000 MiB/秒、IOPS 16,000、4TBのボリュームの条件で比較するとio2ボリューム3分の1以下の費用となります。
io2の特徴は故障率の低さで年間故障率が0.001%です。これはgp3の0.1%~0.2% と比較して圧倒的な耐久性能とされています。
io2 Block Expressは、2020年12月に発表されたもので、R5b系のインスタンスタイプでio2を選択すると自動的にio2 Block Expressストレージが利用されます。高速設定が可能なだけでなく、ボリューム当たりの容量上限が64TBまで利用可能です。
SAP on AWS 移行時の検討ポイント:ストレージ①スループット設定
上記で説明したストレージタイプgp3、io2では、ボリューム当たりのスループットが1,000MiB/秒までとなります。この値は、移行元がオンプレミスのSSDストレージであればそれ以上の性能を示ことは十分に考えられる値です。スループットは簡易的なベンチマークテストで比較的正確に測れますので測定することをお勧めします。
現行ストレージが1,000MiB/秒を大きく超える場合には、現行の業務で利用する最大スループットの状況を網羅的に確認してください。
SAPソリューション標準の業務トランザクションでは大きなスループットを要求するものは多くありませんので、実際の使用状況が1,000MiB/秒を超えない場合は、スループットの観点からは安価なgp3の選択が可能となります。
もし、現行性能を保つため1,000MiB/秒を超えるスループットが必要と判断された場合には、io2 Block Express を利用する必要があります。その場合の注意点は、現時点でio2 Block ExpressをサポートするのはインスタンスタイプR5b系のみでそれ以外のインスタナスタイプでは利用出来ないということです。
SAP on AWS 移行時の検討ポイント:ストレージ②IOPS設定
IOPSの場合は、オンプレミスのストレージをベンチマークツールで測定した値とAWSのIOPSを単純に比較することができません。なぜなら、オンプレミスのSSDストレージは4KB単位という小さな単位のIOPSに特化して非常に高い値を出す傾向にあるからです。ベンチマークで比較するのであれば、16KB単位やそれ以上のアクセス単位の値を参考としてください。業務での実測値が確認できるのであればそれを参考とするのが良いと思います。
注意が必要なのは、AWSでIOPS 16,000を超える性能が必要な場合、io2を選択する必要があり、同じIOPSでも一気に費用が大きくなる点です。IOPS 16,000を挟んでの検討はより慎重に実施する必要があります。
SAP on AWS 移行時の検討ポイント まとめ
大きなサーバースペックを要求するSAPソリューションでも、CPU処理測度やメモリはAWSで現行機のスペックを満たすことは難しくないと考えます。それと比較すると、ストレージで現行機と同様の性能を持たせるには、大きな費用が必要となる場合もあります。ストレージスペックを現行より下げることは不安があるでしょう。実際にスループットを下げれば、業務に影響が無くても、ファイルコピーは確実に遅くなりますし、バックアップ等への影響は考えられます。
また、4KBブロックのIOPSを下げることも、業務に影響が無い可能性が高いだけで、特殊な検索処理では現行より遅くなることがあります。移行プロジェクトの開始までにAWSでの適正なストレージ性能を評価する必要がある場合は、本稼働中のSAPソリューションを簡易的にAWSに移行して性能検証を実施することも一つの方法です。
電通総研は、2010年にAWSグローバル認定を取得以来、AWSに代表されるパブリッククラウド上でのSAP ERPの移行や稼働について、累計100社以上のクラウド環境構築実績を誇り、豊富な実績に基づく独自のノウハウを保有しています。
もし、SAP on AWSをご検討の場合は、お気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
【電通総研 Webページ】SAP on Cloud マイグレーションサービス
https://erp.dentsusoken.com/solution/sap-erp-migration/
*本ブログは、2021年11月1日時点の情報をもとに記述しています。最新の情報は以下AWSのWebページよりご確認ください。
Amazon EC2 インスタンスタイプ:
https://aws.amazon.com/jp/ec2/instance-types/
Amazon EBS ボリュームの種類:
https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/AWSEC2/latest/UserGuide/ebs-volume-types.html#io2-block-express